上 下
83 / 2,818

独り

しおりを挟む
 子どもたちにも風呂に入るように言い、俺は蕎麦を茹で始めた。


 六花はソファで響子と一緒にテレビを観ている。
 響子は昼間にいつもより長く寝ているので、今日はまだ起きていられる。


 俺は天ぷらを揚げ、薬味を準備する。
 子どもたちが全員風呂から上がったところで、丁度出来上がった。





 いつものコタツに山盛りの蕎麦と天ぷらを用意した。
 子どもたちはいつものように、ワイワイと食べ始める。
 テレビをつけ、紅白が画面に流れる。
 あまり知らない歌手たちが、何か歌っている。
 子どもたちは、テレビを観ながら、また夢中で食べていく。



 蕎麦がたちまち無くなり、テンプラもカスしかねぇ。

 俺は子どもたちの食欲のコントロールを少しばかり勉強している。
 こいつらは、出せばなんでも一気に喰う。


 だから、小出しにしてやると、それである程度満足することを覚えた。


 「食欲中枢がぶっ壊れてるのか」
 と思うほど勢いよく食べるのだが、間を置くとある程度は落ち着くのを発見したのだ。


 それは、各自の皿に持った場合、それで満足することが多いからだ。
 米はそれなりに食べるが、鍋のような異常はない。

 何がそうさせるのか、まだ謎だが。


 俺が次の蕎麦を出すと、また食べ始める。
 だが、ペースは明らかに落ちている。



 響子は蕎麦を小さな椀に一杯と、エビ天を半分ほど食べて終わった。
 まあ、それくらいがいいだろう。



 六花はさぞまた喰うのかと思っていたが、意外に普通に終わった。
 ちょっとボウっとしている。

 紅白が終わる前に、俺は響子をベッドに寝かせ、子どもたちも紅白の終わりとともに部屋へ戻った。



 除夜の鐘が響く。







 六花はまだコタツで座っていた。



 「おい、どうした」
 俺が声をかけると、ハッとなり俺を見る。

 「すいません、まったりしてしまって」
 「別にいいよ」

 俺は笑って言う。


 「なんだ、考え事か」
 「いえ。ちょっと子どもの頃を思い出してました」

 「……」


 「小学生の頃ですが、響子と同じくらいでしょうか」
 「うん」


 「お風呂で、よく母親に髪を洗ってもらっていました」
 「そうか」


 「先ほど、石神先生が私の髪を洗ってくださり、それを久しぶりに思い出しました」
 「ああ」







 「お前が寂しそうだったからな」
 「え?」



 「そう見えたんだよ」
 「そうですか」
 「そうだよ」







 「あのなぁ」
 「はい」



 「もう、お前は独りじゃないんだぞ」

 「……」



 「俺がいるし、響子もそうだ。俺の子どもたちもお前のことが大好きだし、病院でも仲間がちゃんといる、そうだろう」
 「はい」



 「院長も、お前のことをずい分と買ってる」
 「え、そうなんですか?」


 「おう。あれは類人猿だけどなぁ、人を見る目はちゃんとあるんだよ」
 「アハハ」







 「それなのに、お前は寂しそうな顔をしやがる」
 「……」



 「まあ、お前らしいけどな。だからおっかなびっくり、俺について来いよ」
 「ありがとうございます」



























 六花はまた涙を零した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

「知恵の味」

Alexs Aguirre
キャラ文芸
遥か昔、日本の江戸時代に、古びた町の狭い路地の中にひっそりと隠れた小さな謎めいた薬草園が存在していた。その場所では、そこに作られる飲み物が体を癒すだけでなく、心までも癒すと言い伝えられている。店を運営しているのはアリヤというエルフで、彼女は何世紀にもわたって生き続け、世界中の最も遠い場所から魔法の植物を集めてきた。彼女は草花や自然の力に対する深い知識を持ち、訪れる客に特別な飲み物を提供する。それぞれの飲み物には、世界のどこかの知恵の言葉が添えられており、その言葉は飲む人々の心と頭を開かせる力を持っているように思われる。 「ささやきの薬草園」は、古の知恵、微妙な魔法、そして自己探求への永遠の旅が織りなす物語である。各章は新しい物語、新しい教訓であり、言葉と植物の力がいかに心の最も深い部分を癒すかを発見するための招待状でもある。 ---

男子学園でエロい運動会!

ミクリ21 (新)
BL
エロい運動会の話。

お尻たたき収容所レポート

鞭尻
大衆娯楽
最低でも月に一度はお尻を叩かれないといけない「お尻たたき収容所」。 「お尻たたきのある生活」を望んで収容生となった紗良は、収容生活をレポートする記者としてお尻たたき願望と不安に揺れ動く日々を送る。 ぎりぎりあるかもしれない(?)日常系スパンキング小説です。

処理中です...