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正月準備

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 うっかりしていた。



 「タカさん、おはようございます」
 「ああ、亜紀ちゃん、おはよう」

 俺は亜紀ちゃんと一緒に朝食の準備をする。



 俺は九時すぎに家を出れば余裕なのだが、子どもたちは8時頃に出なければならない。
 そういうことで、俺は7時には起きて、朝食の準備をしている。

 ただ、もう子どもたちは冬休みに入っているので、多少ゆっくりと起床している。
 朝食の席で、亜紀ちゃんが何気なく言った。


 「クリスマスも終わって、もう年末ですねぇ」
 「!」


 俺は味噌汁を噴きそうになった。


 うっかりしていた。
 クリスマスの準備で気を取られていたが、年末年始があるじゃねぇか。





 俺はずっと独り身だったから、行事などはまったく関係ない。
 クリスマスだって、別段なにもしなかった。

 いつも通り、独りで好きなものを食っていただけだ。
 自宅をイルミネーションで飾った家を見ると、
 「アホ丸出しだな」
 とうんざりした。


 今回のツリーはレンタルで借りたものだから、既に片付いている。
 飾りつけは購入したので、子どもたちがワイワイやりながら収納した。





 正月かぁ。
 どうするかなぁ。門松って、まだ間に合うのか?







 俺は便利屋に連絡し、門松の手配を頼む。

 「え、今からでしょうか?」
 便利屋も困惑しているようだ。

 「ああ、悪いんだけど、手配してみてくれねぇか」


 近所では、12月に入ると門松の注文を受け付ける集合所があった。臨時に用意された倉庫で、職人が注文分の門松を作る。しかし、もう既に注文は打ち切っていて、追加は受け付けないようだ。


 まあ、そちらは便利屋に頼むとして、手に入らなければ仕方がない。
 来年は気をつけよう。


 問題はアレだ。




 「亜紀ちゃん、正月はおせちなんか食べてたか?」
 「あ、はい。毎年母が頑張っておせちと雑煮を作ってくれました。あ、いいえ! 別におせちなんかなくても」


 亜紀ちゃんが慌てて言い直す。
 そうか、じゃあ絶対必要だな。


 まだどこかの店で、文はギリギリ間に合うのかもしれないけど、ここはやっぱり手作りだよなぁ。


 俺は料理は好きだが、おせち料理はさっぱりだった。
 あまり好きではないからだ。

 雑煮も、餅自体が好きでもないので、全然分からない。
 まあ、雑煮程度ならなんとかなるかもしれないが。


 便利屋にまた電話する。


 「お前、もしかしておせち料理だけは得意とかってことあるか?」
 「いえ、まったく、これっぽっちも」


 俺は電話を叩き切る。
 全然便利じゃねぇ。







 咲子さんならば、と思うが、流石に自分の家で精一杯だろう。

 栞は年末は実家へ帰ると言っていた。
 あの古流武術の家だ。特別な催しもあるんだろう。


 緑子は話にならねぇ。あいつは料理自体が全滅だ。
 喰うことにはちょっとうるさいけどなぁ。




 俺は知り合いの伝を辿ろうかとも思ったが、何しろ年末年始だ。
 みんな、それなりの予定があるに決まっている。




 ヒマを持て余している人間。





 仕方ねぇ、あいつらに聞いてみるか。










 「部長、是非、お任せください!」
 一江は薄い胸を叩き、若干咳き込んだ。


 「おい、無理するなよ。もしもヒマだったらということで、お前ら田舎にも帰ったりするだろう」
 「はい、当直、帰省の人間を除き、参加できる人間を募ります」

 「いや、募らなくていいんだよ。誰か正月料理が作れる人が何人かいれば」
 「大丈夫です。以前のような大人数で押しかけることはしません」


 「そうか、ありがとう。じゃあ人選は任せる。ああ、料理を作って、別に正月は来なくていいからな」
 「部長ぅー、それはあんまりですぅー!」













 12月29日。

 病院は365日もちろん稼動しているのだが、一応休日もあれば、年末年始の休みもある。
 だから救急以外は、比較的落ち着いている。


 だから部の納会をし、一旦は休日となるのだ。
 もちろん救急対応のために交代で当直、宿直もあれば、入院患者の対応も行なわれている。

 一江はうちの部署ばかりではなく、他部署やナースたちにも応募、面接(?)を済ませ、精鋭3人を選出してきた。

 一江(総指揮)、大森(意外と料理が上手い)、オペ看の峰岸(実家が料亭)。
 峰岸は第一外科のオペでよく一緒になるので、よく知っている。



 「他にも希望者が多数応募しましたが、この三名に絞りました」
 「お前って必要なの?」



 「な、何をおっしゃいます! どこのレストランでも味を監修する総シェフや料理長、板長がいるじゃないですか!」
 「でも、そういう人って料理の達人だよな」



 一江は俺の問いに答えない。
 もう決まったことで動かせないと言いたいのだろう。
 まあ、世話になったことだし、いいか。


 「ところでもう一度念のために確認するけど、お前ら本当に予定はなかったのか?」


 「はい。私と大森は毎年、二人で昼間から飲んでいるだけですし、峰岸は実家へ帰るとかえって地獄だとかで」
 ああ、料亭は忙しいだろうからなぁ。


 「私と大森は年末年始の当直宿直は一切ありません。峰岸は30日が当直らしいですが、それ以外は空いています」
 「そうか、じゃあ宜しく頼む」


 「はい、お任せください!」







 そうして、この初日、12月29日に三人が家にやってきた。
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