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それぞれの、プレゼント

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 「六花さん、本当にごめん、まだ痛む?」
 栞と六花が階段を降りて来た。

 「花岡さん、もう大丈夫です。ちゃんと石神先生が関節を戻してくれましたから」



 「ほんとうにゴメン!」









 昨夜、酔った栞がふざけて六花に関節技をしかけた。
 飲み足りなくて、栞は風呂上りに、こそっと、しこたま飲んだらしい。

 六花には恐らくスキンシップのつもりだったろうし、自分の実家のことを話したあとなので、安心して自分を出してもいいと酔った頭で思ったのだろう。



 加減はもちろん考えてはいたのだろうが、思わず肩を脱臼させてしまった。



 俺は最初は少々痛いだけのものだろうと思っていたが、「ボグゥッ」という音を聞いたので部屋に駆け込んだ。
 六花は床に倒れ、右肩を押さえていた。起き上がらせるとダランと垂れている。



 「はぁー」



 俺は上腕を持ち、角度を固定して押し込んだ。ガクッという感覚があり、無事に肩は嵌った。


 酔いが醒めた栞は六花に必死で謝り、六花は全然大丈夫ですからと言った。
 まあ、しばらく痛みはあるだろうけどなぁ。



 俺は栞の頭に強めの拳骨を入れ、もう寝ろと言った。













 六花は、俺や亜紀ちゃん、栞が朝食の準備を始めたタイミングで、俺に断り響子を見に行った。



 準備ができて、俺は響子と六花を呼びに行く。

 部屋に入ると、二人はベッドにうつぶせになっていた。



 「響子、何やってるんだ?」
 「タカトラの匂いを吸ってるの」

 「おお!」
 「六花もやる?」

 「是非、お願いします!」



 そんな会話の後だったらしい。
 六花の超感覚コミュニケーションなのかどうだったのかは判断がつかない。

 朝食を食べに来いと伝え、部屋を出た。





 響子は意外とよく食べた。
 和食だったが、もの珍しさも手伝って、あちこちに箸を伸ばす。

 双子が納豆をかきまぜているのを不思議そうに見て、ちょっともらう。


 「クサイ」


 ダメだった。

 うちの納豆は有機農法の本格的なものだ。本物の納豆は臭いもあまりないのだが、外国人には独特の臭いは慣れないと無理だろう。

 子どもたちは好き好きに刻みネギやウズラの卵、七味などを自分なりにブレンドして食べている。
 栞や六花も子どもたちにならって、納豆を楽しむ。

 「これ、ほんとうに美味しい!」
 「大和魂のある農家ですね」



 ちなみに入院患者は基本的に同じ入院食になるが、中には特別メニューもある。
 例えば結核病棟の患者は豪華なものを食べている。リクエストに応じる場合もある。国費負担なので、結構いい。

 響子に関して言えば、本格的に特殊だ。
 洋食中心なのは当然で、近くのホテル・オークラの食事が主に運ばれている。

 もちろん、うちの専属栄養士がメニューを管理し、決めている。









 朝食を片付け、みんながそれぞれに好みのお茶を飲む。



 一段落したところで、俺はプレゼントを持ってきた。


 「じゃあ、プレゼントを配るからな」
 「ハァウッ!」


 「どうした六花」
 「も、申し訳ありません! 自分、クリスマスだっていうのに、プレゼントを用意していませんでした!」


 「え、ああ。今日は俺からみんなへってだけだよ。お前も受け取るだけだからな」
 「そうなんですか?」


 「事前にそう言っただろう、あ、響子、伝えてないのか?」
 「忘れちゃった!」


 カワイイ顔で笑うので許す。


 「ああ、悪かったな、六花。じゃあ順番に」



 俺はまず響子から渡す。

 「このヘッドフォンは本当に音がいいんだよ。俺も同じのを持ってるから、お揃いだな」
 「うれしい」



 次に栞だ。

 「これ、ずい分高かったんじゃないの?」
 「花岡さんは淡い青の服が好きなようだから、それに合わせました」
 「うれしい」



 亜紀ちゃんたちにせがまれて、サングラスをかける。
 似合う、似合うと言われ、照れていた。



 子どもたちにそれぞれプレゼントを渡す。

 亜紀ちゃんは
 「あったかい」

 と喜び、皇紀は
 「ホェー」

 とヘンな声を出した。

 双子は大喜びでどんな色があるのかを探している。

 俺はキッチンの小皿に水を入れ、一緒にプレゼントしたスケッチブックを拡げた。
 端に色鉛筆でちょっと色を塗り、水に濡らした筆でそれを撫でる。

 色が広がり、美しいグラデーションを描いた。

 「キャー!」「スゴイスゴイ!」



 「水彩ペンシルといってな。水彩画にもなるんだよ」
 双子は大興奮になった。



 最後に六花だ。







 俺はでかいジュラルミンの箱を六花の前のテーブルの上に置いた。


 プロのメイクが使う、本格的な化粧道具だった。
 緑子に頼んで、何がいいのかを選んでもらった。


 「お前は今後、メイクの勉強をしろ。折角の超絶美人なんだからなぁ」



 「いえ、自分、こんなもの使いこなせないですよ!」
 「お前、俺のためになんでもするんだろ?」

 「う、はい! 命にかえても!」
 みんなが笑って見ている。


 「ほんとうにねぇ。六花さんてすごい美人なのに、化粧をほとんどしないからもったいないと思ってた」
 
 子どもたちがやってみせてと言うが
 「まあ、これから六花は勉強するからな。また今度な」






 響子、亜紀ちゃんと栞は双子と一緒に色鉛筆で遊んでいる。

 皇紀は神棚に上げてくる、と言って部屋へ行く。
 彼は何か独自の宗教を作り、俺の写真や何かを自分で決めた棚へ置いていた。








 俺は腕組みをしてメイク道具を見ていた六花に声をかける。



 「今はネットの動画もいろいろあるし、デパートに行けば化粧部員が実際に教えてくれる。また今度知り合いのメイキャップ・アーティストも紹介するからな」

 「いろいろとすいません」
 「それとな、一番底に、メスが一本ある」

 「は?」

 「響子を執刀した時に使った一本だ。お前にやるよ。他の奴には言うなよな」

 「!」

 「響子の命を繋いだものの、一本だ。お前も繋ぐ一人だからな。持っていろ」
 「……」


 六花は黒いケースに収められたメスを見つけた。
 六花の目から涙が毀れた。



 「あ、六花が泣いてる」
 響子がこちらに気付き、ゆっくりと歩き出した。

 六花はケースの蓋を閉じ、底へ仕舞う。



 「六花、どうしたの?」
 「いえ、すいません。自分なんかにこんな物をいただいてしまって」

 「そうなの、良かったね」
 「はい」


 響子は、小さな手で六花の背中をさすっている。

























 「石神先生、自分の身も心も、石神先生と響子のために遣い潰します!」





 いや、それ重いよ。
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