上 下
66 / 2,806

しょうもない話

しおりを挟む
 12月に入り、急に都内は寒くなった。
 天気予報によると、明後日は雪になるそうだ。



 俺は院長室に向かった。



 「一つ許可をいただきたいのですが」
 「なんだよ」
 「明後日は未明から大雪になるようです」
 「ああ、そうだってな」


 「それで、地下鉄口から病院までの歩道の雪かきをしておきたいんですが」
 「おう、俺も丁度考えていたんだよ!」

 ウソつけ、ゴリラ!

 「まあ、外来の患者さんとかが転んでも大変だからなぁ」













 まあ、そういうことで許可を得た。
 計画の詳細はあとで文書にして報告するが、大丈夫だろう。
 俺は各部署を回って、雪かきの人手を確保した。
 また営繕担当部署に、雪かきの道具を確認し、経理に補正予算の中から新たな道具の購入の許可を得た。

 近所の雑貨屋にあるもので、購入は賄えた。









 当日。

 朝8時の集合に全員が遅刻なく集まった。
 俺が総指揮を執り、各班に分かれて、二つの地下鉄口から病院までの歩道の雪かきをする。

 都心にしては結構な降雪で、各班10人ほどが、交代で雪かきを始める。




 実はこの雪かきは、昨年俺が見た光景によっている。



 その日も大変な雪が降った。
 俺はタクシーで出勤したが、歩道の雪かきをしている集団を見たのだ。

 「どこの方々だろうか」

 気になった俺は、一江に確認させた。





 「部長、ハリマン屋の人たちでした!」
 寒さで顔を赤くした一江がそう言った。

 ハリマン屋は関西に本店を置く和菓子の老舗で、病院の近くに大きな東京支社のビルを建てていた。
 俺もときどき買いに行くが、さくさくとした堅くない煎餅が大好きだ。

 創業社長が社員教育に熱心なことでも有名で、いつ買い物に行っても、非常に気持ちの良い接客をしてくれる。



 その日の雪かきは自分の店だけではなく、うちの病院の入り口までやってくれた。
 もちろん誰も頼んではいない。

 後から俺が買い物がてらお礼を言うと、マネージャーが出てきて挨拶してくれた。
 改めて御礼を申し上げると、


 「通院の方々が大変だろうと思いまして、勝手をやらせていただきました」


 そう言われた。







 やはり、あの会社は立派だなぁ。









 今回は、うちの病院でハリマン屋の前の雪かきをさせてもらう。
 そう思っての今回の手配だった。



 あちらは11時の開店なので、この時間に始めれば、社員さんの手は必要なくなるだろう。
 もう雪は止んでいるので、一度雪をどかせばそれで終わる。




 すると、あちこちにスコップなどの雪かきをする人たちが現われる。
 まだ時間は8時半だ。全然雪かきは終わってねぇ。



 一江に走らせると、やはりハリマン屋の方々で、本当は9時集合だったのだが、みんなその30分前に集合していたそうだ。
 それで俺たちが先に始めたものだから、慌てて出て来たのだと。



 「おい、一江、お前ちゃんと今回はうちでやるって言ったんだろうな!」
 「言いましたよ部長! 「それはそれは」って偉そうな人にお礼を言われたんで、帰ってきました」


 「うーん……」







 結局、ハリマン屋の方々も雪かきをし、俺たちは慣れない作業で手際が悪く、ハリマン屋の方々が主に道を作った。
 本当に申し訳なく、俺は再び一江に謝罪に行かせた。

 俺はデパートに甘酒を10本ほど買いに行かせ、それを手土産にさせた。





 一江が帰ってきた。
 様子を聞こうと自分の部屋を出ると、一江の後ろで知らない男性二人が、ダンボールを抱えている。



 「おい、一江、どういうことだ?」
 すると、後ろの男性が言った。

 「石神先生! 御高名は伺っております。この度は弊社のために雪かきなどに尽力くださったそうで、本社の社長が大変に感激しております。ささやかではありますが、これをみなさんで……」



 一江ぇー、お前、お使いも満足にできねぇのかぁ!





















 いただいた煎餅を響子に持っていくと、カレー味のものを喜んで食べた。

 まあ、いいか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...