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緑子、ふたたび Ⅱ
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「緑子さん! 早く食べないと全部なくなっちゃいますよ!」
亜紀ちゃんが言ったその言葉が、唯一客に対する気遣いだった。
緑子は次々に鍋から食材が消えていく光景に、圧倒されていた。
双子のために自分がよそってやろうと両側に座らせていたが、双子は立ち上がって自分で殺りにいく。
「こらっ、ルー! それ私が掴んだもの!」
「あ、皇紀ちゃんが、取り皿を二個もってる! 反則だぁ!」
「亜紀ちゃん、カニばっかりとらないでぇ!」
「ハー、このお野菜美味しいぞ」
「うそ、皇紀ちゃん全然食べてなかったじゃない!」
「アハハハハ!」
緑子は熱燗を片手に大笑いしていた。
7キロあったカニはすべて消え、野菜もほとんどなくなっていた。
野菜はカニや他の魚介類が消えてから食べられていった。
肉食獣たちめ。
俺は残ったもので雑炊を作ろうとしたが、一応みんなに食べるかどうかを確認する。
「食べます!」
「僕も!」
「たべる!」
「いっぱいたべる!」
緑子はまた驚いて子どもたちの顔を見る。
「まったく、こんな楽しいお鍋はやったことないわ」
そう言いながら、自分の隣に座った双子の頭を撫でた。
「すいません、緑子さんちゃんと食べれました?」
ようやく「人間」に戻った亜紀ちゃんが言った。
その横には大量のカニの残骸がある。
「うん、大丈夫よ。なんか食べた以上にお腹いっぱいだわ」
緑子が笑って言った。
「これは私なんかに、子育てはできないわねぇ」
呟く緑子。
「いや、普通の子どもはこんなに食わないだろう。こいつらが異常なだけだと思うぞ?」
しかし、よく考えると、それなりに身体は大きくなっているが、太った感じは全然ねぇ。
今度ちょっと検査でもしてみるか?
一抹の不安を覚えるほどに、こいつらは食う。
緑子は双子にせがまれて、一緒に風呂に入った。
「皇紀ちゃんも、一緒にどう?」
「い、いいえぇー!」
皇紀は走り去った。
俺は双子たちのために、風呂場で映像を流してやった。
「いしがみぃー! すぐにとめなさい!」
脱衣所のドアから顔だけ出した、緑子の絶叫が聞こえた。
俺は緑子の初主演の舞台の映像を流してやった。
「あ、緑子さんだぁー!」
ハーの嬉しそうな声が聞こえる。
他の子どもたちも風呂に入り、俺は最後にゆっくりと浸かった。
みんな緑子と遊び、話をし、すでに眠っている。
脱衣所の扉が開いたのに気付いた。
ほどなく、緑子が入ってくる。
「おい、お前」
緑子は無言で手早くシャワーを浴び、浴槽に入る。
「お前なぁ」
呆れた声で俺は言うが、俺に正面から身体を預けてくる緑子に、軽く手を回していた。
「今日は本当に楽しかった」
緑子はそう呟いた。
「あの子どもたちの食べっぷり! なによ、アレ」
緑子は声を上げて笑う。
「な、すごいだろ。俺も最初はびっくりしたんだよ。皇紀も双子もすごいんだけど、亜紀ちゃんなんか人格変わるもんな!」
「本当にね」
緑子は身体を入れ替え、俺に背中を預けてくる。
「私も子どもの頃は、あんなだったのかな」
「知らねぇよ。俺が知ってるのは泥酔してるお前だけだしな」
緑子が俺の腹に肘を入れてくる。
「ああ、そうだ!」
緑子は思い出したように言った。
「あんたの部下で、一江っていう人がいるでしょ?」
思いがけない名前の登場に、俺は驚いた。
「ああ、いるけど、あいつが何なんだよ」
「定期公演が始まってからさぁ、一江さんて人からしょっちゅう花やプレゼントが届くのよ」
「ええぇー?」
俺にはまったく心当たりがない。なぜ一江が緑子に。
「あんたが知らないなら別にいいの。ファンだって書いてあったから、そうなのかなって。あ、絶対に叱ったりしないでよね、あたしの大事なファンなんだから」
「分かったよ」
「それと、もし良かったらなんだけど、楽屋へも遊びに来てって言って。あんたの知り合いならぞんざいにはしないわよ」
「ああ、ありがとう」
振り向いた緑子に俺はキスをする。
一江のことだ、恐らくろくなことを考えてねぇ。
俺はどう問いただすかを考えていた。
亜紀ちゃんが言ったその言葉が、唯一客に対する気遣いだった。
緑子は次々に鍋から食材が消えていく光景に、圧倒されていた。
双子のために自分がよそってやろうと両側に座らせていたが、双子は立ち上がって自分で殺りにいく。
「こらっ、ルー! それ私が掴んだもの!」
「あ、皇紀ちゃんが、取り皿を二個もってる! 反則だぁ!」
「亜紀ちゃん、カニばっかりとらないでぇ!」
「ハー、このお野菜美味しいぞ」
「うそ、皇紀ちゃん全然食べてなかったじゃない!」
「アハハハハ!」
緑子は熱燗を片手に大笑いしていた。
7キロあったカニはすべて消え、野菜もほとんどなくなっていた。
野菜はカニや他の魚介類が消えてから食べられていった。
肉食獣たちめ。
俺は残ったもので雑炊を作ろうとしたが、一応みんなに食べるかどうかを確認する。
「食べます!」
「僕も!」
「たべる!」
「いっぱいたべる!」
緑子はまた驚いて子どもたちの顔を見る。
「まったく、こんな楽しいお鍋はやったことないわ」
そう言いながら、自分の隣に座った双子の頭を撫でた。
「すいません、緑子さんちゃんと食べれました?」
ようやく「人間」に戻った亜紀ちゃんが言った。
その横には大量のカニの残骸がある。
「うん、大丈夫よ。なんか食べた以上にお腹いっぱいだわ」
緑子が笑って言った。
「これは私なんかに、子育てはできないわねぇ」
呟く緑子。
「いや、普通の子どもはこんなに食わないだろう。こいつらが異常なだけだと思うぞ?」
しかし、よく考えると、それなりに身体は大きくなっているが、太った感じは全然ねぇ。
今度ちょっと検査でもしてみるか?
一抹の不安を覚えるほどに、こいつらは食う。
緑子は双子にせがまれて、一緒に風呂に入った。
「皇紀ちゃんも、一緒にどう?」
「い、いいえぇー!」
皇紀は走り去った。
俺は双子たちのために、風呂場で映像を流してやった。
「いしがみぃー! すぐにとめなさい!」
脱衣所のドアから顔だけ出した、緑子の絶叫が聞こえた。
俺は緑子の初主演の舞台の映像を流してやった。
「あ、緑子さんだぁー!」
ハーの嬉しそうな声が聞こえる。
他の子どもたちも風呂に入り、俺は最後にゆっくりと浸かった。
みんな緑子と遊び、話をし、すでに眠っている。
脱衣所の扉が開いたのに気付いた。
ほどなく、緑子が入ってくる。
「おい、お前」
緑子は無言で手早くシャワーを浴び、浴槽に入る。
「お前なぁ」
呆れた声で俺は言うが、俺に正面から身体を預けてくる緑子に、軽く手を回していた。
「今日は本当に楽しかった」
緑子はそう呟いた。
「あの子どもたちの食べっぷり! なによ、アレ」
緑子は声を上げて笑う。
「な、すごいだろ。俺も最初はびっくりしたんだよ。皇紀も双子もすごいんだけど、亜紀ちゃんなんか人格変わるもんな!」
「本当にね」
緑子は身体を入れ替え、俺に背中を預けてくる。
「私も子どもの頃は、あんなだったのかな」
「知らねぇよ。俺が知ってるのは泥酔してるお前だけだしな」
緑子が俺の腹に肘を入れてくる。
「ああ、そうだ!」
緑子は思い出したように言った。
「あんたの部下で、一江っていう人がいるでしょ?」
思いがけない名前の登場に、俺は驚いた。
「ああ、いるけど、あいつが何なんだよ」
「定期公演が始まってからさぁ、一江さんて人からしょっちゅう花やプレゼントが届くのよ」
「ええぇー?」
俺にはまったく心当たりがない。なぜ一江が緑子に。
「あんたが知らないなら別にいいの。ファンだって書いてあったから、そうなのかなって。あ、絶対に叱ったりしないでよね、あたしの大事なファンなんだから」
「分かったよ」
「それと、もし良かったらなんだけど、楽屋へも遊びに来てって言って。あんたの知り合いならぞんざいにはしないわよ」
「ああ、ありがとう」
振り向いた緑子に俺はキスをする。
一江のことだ、恐らくろくなことを考えてねぇ。
俺はどう問いただすかを考えていた。
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