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パンケーキ・パーティ
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俺は緑子が示してくれたことを、常に念頭に置いていた。
亜紀ちゃんは、多少は自分でもう出来ることも多いだろう。
問題は双子だ。
俺は「女の子」というものを考えていた。
10月の休日。
俺は花岡さんを家に招き、ある朝食会を企画する。
申し訳ないが、花岡さんには早い時間から家に来てもらい、食材の準備を手伝ってもらった。
子どもたちには何も話していない。
亜紀ちゃんですら、何も知らない。
花岡さんは大量の焼きに専念してもらい、俺は食材のカットとその他全てを賄う。
今日の朝食は十時だと言っている。
ずい分と遅く、お腹を空かせているだろう。
途中亜紀ちゃんが
「お手伝いします」
と入りかけたが、ドアには鍵をかけてある。
「あ、あれ?」
「おう、今日は準備中は入れねぇから!」
俺が大声で言うと戸惑いながら、部屋へ戻ったようだ。
俺は花岡さんとアイコンタクトでうなずく。
十時少し前に準備ができ、俺はインターホンで全員を呼んだ。
駆け下りてくる双子。
軽いスタッカートの音で、空腹の度合いが知れる。
居間に入り、テーブルに並べられた食材を見て、子どもたちは大きな驚きの声を上げる。
「うわー!」
「スゴイスゴイ!」
「なんですか、これ」
「スゲェ!」
俺は再び、花岡さんとアイコンタクトでうなずき合った。
互いに親指を立て、微笑み合った。
「今日は花岡さんにお手伝いしてもらって、大パンケーキ大会を開催します!」
盛大な拍手。
みんなノリが良くなった。
「いいですか! いーっぱいあるから、みんな好きなものを好きなだけ乗せて、何枚でも食べてね!」
花岡さんの明るい声に、子どもたちは歓声と共に猛スピードでテーブルに群がる。
ワイワイ騒ぎながら、パンケーキを皿に乗せ、それぞれ好きなものを選んでいく。
俺は双子をちょっと手伝って、最初に生クリームを敷いてやった。
「この上に好きなものを乗せろよ」
瑠璃はイチゴとパイナップルを乗せる。
大丈夫か、その組み合わせは。
心配していると、花岡さんがパイナップルを端によけ、味が混ざらないように調整してくれた。
優しい方だ。
玻璃はメロン一択だ。
しかもオレンジ色の夕張メロンだけを選んでいる。
「玻璃、どうしてそれだけなんだ?」
「だって、オレンジのメロンなんて食べたことないんだもん!」
「山中ぁ」
俺が言うと、みんなが笑った。
皇紀も若干、夕張メロンの比重が高い。
亜紀ちゃんは弟妹の好みを避けて、何種類もの葡萄やバナナ、プチトマトなどをチョイス。
なかなか綺麗な見た目だ。
多くのフルーツのほか、刻んだチョコレートや生チョコ、何種類かのジャム、蜂蜜や粉砂糖、ドライフルーツにアーモンド等がある。
フルーツなども全部小さめに刻んでいるので、様々なものを乗せられるようにした。
子どもたちは騒ぎながら、互いの盛り付けの味を聞きながらさらなる高みを目指していく。
終盤はみんな無言で、究極の組み合わせを自分なりに達成しつつあった。
そこで俺が冷蔵庫からアイスクリームを出した。
「これもきっと美味しいぞ!」
みんな喜ぶだろうと思ったのも束の間、俺は大ブーイングを受けた。
「なによ! 台無しになったじゃん!!」
「最初から出してくれなきゃ!」
「……」
余るだろうと思ったパンケーキや食材は、あらかた子どもたちの腹に消えた。
スイーツもいける肉食獣たちだった。
「本当にみんな楽しい」
花岡さんが笑いながら言ってくれた。
「今日は本当にお手数をおかけしました」
「いいえ、私の方こそ、久しぶりに楽しい朝食だったよ」
「お蔭様で、子どもたちも喜んでくれて」
「ちょっと恨まれてたよね?」
「あはは」
片付けはさすがに花岡さんには頼まず、子どもたちにやらせる。
亜紀ちゃんは余った食材をラップにくるんだりジップロックへしまい、他の三人はひたすら食器を洗いテーブルを拭いていく。
「ところで、どうして私を誘ってくれたの?」
予想外のことを聞かれた。
「どうしてと聞かれると困るんですが、この朝食を考えたときに、真っ先に思い浮かんだのが花岡さんだったんです」
正直に言った。
「そう」
花岡さんは子どもたちの片付けの方を見た。
横顔が、少し微笑んでいるように見えた。
美しい人だった。
「ねえ、石神くん」
花岡さんは、昔からの呼び方で俺を呼んだ。
「なんですか?」
「あんまり、もうあの時のことは考えないで欲しいの。石神クンはもう自由になっていい。それは奈津江だって」
「その話は勘弁してください。俺は自由ですよ。こんなにも」
「……」
花岡さんは子どもたちを見つめなから呟いた。
「それなら、本当にそうなら良いんだけどな」
小さな声だったが、俺にはちゃんと聞こえた。
亜紀ちゃんは、多少は自分でもう出来ることも多いだろう。
問題は双子だ。
俺は「女の子」というものを考えていた。
10月の休日。
俺は花岡さんを家に招き、ある朝食会を企画する。
申し訳ないが、花岡さんには早い時間から家に来てもらい、食材の準備を手伝ってもらった。
子どもたちには何も話していない。
亜紀ちゃんですら、何も知らない。
花岡さんは大量の焼きに専念してもらい、俺は食材のカットとその他全てを賄う。
今日の朝食は十時だと言っている。
ずい分と遅く、お腹を空かせているだろう。
途中亜紀ちゃんが
「お手伝いします」
と入りかけたが、ドアには鍵をかけてある。
「あ、あれ?」
「おう、今日は準備中は入れねぇから!」
俺が大声で言うと戸惑いながら、部屋へ戻ったようだ。
俺は花岡さんとアイコンタクトでうなずく。
十時少し前に準備ができ、俺はインターホンで全員を呼んだ。
駆け下りてくる双子。
軽いスタッカートの音で、空腹の度合いが知れる。
居間に入り、テーブルに並べられた食材を見て、子どもたちは大きな驚きの声を上げる。
「うわー!」
「スゴイスゴイ!」
「なんですか、これ」
「スゲェ!」
俺は再び、花岡さんとアイコンタクトでうなずき合った。
互いに親指を立て、微笑み合った。
「今日は花岡さんにお手伝いしてもらって、大パンケーキ大会を開催します!」
盛大な拍手。
みんなノリが良くなった。
「いいですか! いーっぱいあるから、みんな好きなものを好きなだけ乗せて、何枚でも食べてね!」
花岡さんの明るい声に、子どもたちは歓声と共に猛スピードでテーブルに群がる。
ワイワイ騒ぎながら、パンケーキを皿に乗せ、それぞれ好きなものを選んでいく。
俺は双子をちょっと手伝って、最初に生クリームを敷いてやった。
「この上に好きなものを乗せろよ」
瑠璃はイチゴとパイナップルを乗せる。
大丈夫か、その組み合わせは。
心配していると、花岡さんがパイナップルを端によけ、味が混ざらないように調整してくれた。
優しい方だ。
玻璃はメロン一択だ。
しかもオレンジ色の夕張メロンだけを選んでいる。
「玻璃、どうしてそれだけなんだ?」
「だって、オレンジのメロンなんて食べたことないんだもん!」
「山中ぁ」
俺が言うと、みんなが笑った。
皇紀も若干、夕張メロンの比重が高い。
亜紀ちゃんは弟妹の好みを避けて、何種類もの葡萄やバナナ、プチトマトなどをチョイス。
なかなか綺麗な見た目だ。
多くのフルーツのほか、刻んだチョコレートや生チョコ、何種類かのジャム、蜂蜜や粉砂糖、ドライフルーツにアーモンド等がある。
フルーツなども全部小さめに刻んでいるので、様々なものを乗せられるようにした。
子どもたちは騒ぎながら、互いの盛り付けの味を聞きながらさらなる高みを目指していく。
終盤はみんな無言で、究極の組み合わせを自分なりに達成しつつあった。
そこで俺が冷蔵庫からアイスクリームを出した。
「これもきっと美味しいぞ!」
みんな喜ぶだろうと思ったのも束の間、俺は大ブーイングを受けた。
「なによ! 台無しになったじゃん!!」
「最初から出してくれなきゃ!」
「……」
余るだろうと思ったパンケーキや食材は、あらかた子どもたちの腹に消えた。
スイーツもいける肉食獣たちだった。
「本当にみんな楽しい」
花岡さんが笑いながら言ってくれた。
「今日は本当にお手数をおかけしました」
「いいえ、私の方こそ、久しぶりに楽しい朝食だったよ」
「お蔭様で、子どもたちも喜んでくれて」
「ちょっと恨まれてたよね?」
「あはは」
片付けはさすがに花岡さんには頼まず、子どもたちにやらせる。
亜紀ちゃんは余った食材をラップにくるんだりジップロックへしまい、他の三人はひたすら食器を洗いテーブルを拭いていく。
「ところで、どうして私を誘ってくれたの?」
予想外のことを聞かれた。
「どうしてと聞かれると困るんですが、この朝食を考えたときに、真っ先に思い浮かんだのが花岡さんだったんです」
正直に言った。
「そう」
花岡さんは子どもたちの片付けの方を見た。
横顔が、少し微笑んでいるように見えた。
美しい人だった。
「ねえ、石神くん」
花岡さんは、昔からの呼び方で俺を呼んだ。
「なんですか?」
「あんまり、もうあの時のことは考えないで欲しいの。石神クンはもう自由になっていい。それは奈津江だって」
「その話は勘弁してください。俺は自由ですよ。こんなにも」
「……」
花岡さんは子どもたちを見つめなから呟いた。
「それなら、本当にそうなら良いんだけどな」
小さな声だったが、俺にはちゃんと聞こえた。
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