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艦隊結成編

第十八話 翔の藤古刀術

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結成された聯合艦隊の艦艇は以下の通りである。

戦艦
大和(旗艦)
武蔵
長門
陸奥
扶桑
山城
伊勢(航空戦艦)
日向(航空戦艦)
金剛
霧島

計10隻

空母
信濃
大鳳
赤城
加賀
飛龍
蒼龍
翔鶴
瑞鶴
雲龍
天城
葛城

計11隻

巡洋艦
四万十 
吾妻 
愛宕
高雄
最上
夕張
雲仙
能代
大淀 
青葉
衣笠
羽黒
那智
足柄
妙高
熊野
三隈
摩耶

計18隻

駆逐艦
島風
吹雪
北風
夕雲
綾波

松風
夕霧
江風

谷風
朝潮
雪風
磯風
若葉
初春
海風
不知火
陽炎
天津風

浦風
宵月
花月
満月
霜月
山月
雨雲





藤波

計34隻

潜水艦
伊401 
伊400 
伊402
伊404
伊405 
伊13
伊14
伊168
伊169
伊202
伊201
伊56 

計12隻

特務艦艇

潜水母艦
大鯨
長鯨
迅鯨

給兵艦
樫野

給糧艦
間宮
伊良湖
野崎

給油艦
早吸 
鷹野 

工作艦
明石 

計10隻

の合計95隻である。
しかし、陸軍の特殊輸送船と海軍の一等輸送艦、二等輸送艦(特殊輸送船神州丸1隻、一等輸送艦27隻、二等輸送艦7隻)を合わせると、艦(船)は130隻まで及ぶ。

因みに雲龍、天城、葛城は、敏郎の世界だと「一航戦予備軍」という名称で、一航戦に一応所属しているが、正式な一航戦所属空母は赤城と加賀のみである。

これらを含め結成された艦隊は、「連合艦隊」改め、「聯合艦隊」とし、「聯合艦隊司令長官山本五十六」の元統括された。
大日本帝国の130隻の大艦隊は東に針路を変え、今こそ、満足に振るうことのなかった聯合艦隊の力を見せつけるのであった。



~ヨザクラ艦隊 旗艦、砲艦斑鳩イカルガ艦内~

「フム……今夜はコユキ様と翔様との結婚式ですか……。コユキ様があそこまで殿方に執着したのは初めてですな……末永く幸せに願うとしましょう……」

ゲンブはそう呟き、一枚の写真を手に取った。
その写真には5人の姿が写り込んでいた。
十年前(10000年前)の自分、コユキの両親、コユキ、コユキの妹の写真であった。

「元は只の執事であった私が、今や月灯海軍の総指揮官とは……大出世にも程がありますな。主人様も、コユキ様のご成長を見て喜んで居るのでしょうか……。いや、あの人は絶対に喜んで居ますな。ハッハッハッハ!」

その時であった。
ノック音が3回鳴り、「失礼します」っと扉の向こうで声がする。

「近衛艦隊から報告です。「我ガ、艦隊ヨリ、凡ソ百海里先、敵発、見セリ。「ヨザクラ」及ビ、「アマザクラ」、「ユメザクラ」、「ハレザクラ」、ノ、救援ヲ、求メル」っとのことです!」

「フン。虫けらどもめ。諦めの悪い……総員直ちに出撃準備に備えよ!」



この世界について、言語、物、偉人、様々な物が書かれてある書物をコユキから借りた俺は、やることがないのでとにかく読み漁っていたのだ。
コユキが用意してくれた自室で、蠟燭ロウソクの灯を頼りに文字を読む。
月灯の文字は日本語とほぼほぼ似ているため、読めるのだ。
しかしその時、警報音が鳴り響く。

『──ヨザクラ、アマザクラ、ユメザクラ、ハレザクラの艦乗員は直ちに出動せよ。ヨザクラ、アマザクラ、ユメザ──』
同じ文が何度も繰り返される。

「なんだ?」

俺は少し用心しながら窓の外を見た。
その見た光景は絶好の時であった。

遠くからでも分かる。一人の乗員が光を反射する水晶を投げた。

その水晶は霧を瞬く間に発生させ、月灯の艦隊を包み込み、その艦隊は消えたのだ。

「ッ!?」

俺は驚きを隠すことが出来なかった。
な、なんだ……アレ。

「アレは「霧」と呼ばれる、魔力の歪みを使った瞬間移動装置のようなものです」

聞き覚えのある声。
俺は振り向くと、そこにはカスミが立っていた。

「霧?どうやってあんな物……」

「「霧」は月灯でしか作ることができない、たとえ皇帝になられる貴方さえも教えることはできない超極秘兵器です。言った通り、この世界は魔力に満ちています。その魔力を意図的に歪ませることにとって、その居る場所と移動する場所の距離を収縮し、瞬間移動することが可能になるのです。まぁ、妖術が複雑なので、六ヶ月に1個2個くらいしか作れませんし?何処でも移動可能ではなくて、指定した場所しか移動できませんし……それに加えて一度きりしか使えない使い捨て。ハッキリ言って不良品です」

「いや……結構凄いと思うが……」

にしても、これほどまでの大艦隊が出動するということは……来てくれたか……いや、きっと来てくれた!
今こそ、脱出の時!

俺は振り返り、走り出した。
扉から外に出ようとした。
しかし……。

「ッ!?」

硬い鋼糸が俺の体を拘束した。
ギチギチと俺を締め付け、腕と足からは血が流れる。

「何のマネだ……カスミ」

「いったでしょう?貴方はコユキ様とご結婚なされるのです」
カスミの指からは細い糸が、煌めいていた。

「お願いだ!俺を逃がしてくれ!」

「いえ、なりません……決して……」

「クッ……!この!!」

俺は無茶に腕を動かす。
腕の肌に食い込み、傷は深くなる。

「グゥアはぁッ!」

強烈な痛みが俺を襲う。
血が腕を伝い滴り落ちる。

「これ以上無駄な抵抗はよしてください。コユキ様が悲しみますよ……」

「うるさい!!俺は……みんなのもとに帰らなければ行けないんだ!」

鋼糸が千切れる。
血だらけの俺は、痛みに耐えながら、部屋の片隅においてあった自身の軍刀ではなく「刀」を手に取った。

「無駄な抵抗は辞めてくださいと言ったはずですが……良いでしょう……貴方がその気なら、此方も……」

カスミは指を素早く動かし、鋼糸を操る。
糸は翔に高速で迫りくる。

しかし、翔は一つ、才能を持っていた。

翔から2メートル以内に入った鋼糸は、瞬く間に粉々になり、床に花のように落ちていった。
翔は刀を素早い速さで振ったのだ。目にも留まらない速さで。
しかし、先端が尖っていた鋼糸はブラフだ。
本命は翔の足元に張り付いた糸であった。
翔は足をすくわれ転び、天井と床に、上下に何度も何度も叩きのめされる。
翔は床に刀を突き刺し、わざと体を床と反対にさせる。
そして瞬時に刀を抜き、足の糸を切った。
一回転した後、翔は床に飛び降りる。
そして、カスミに迫った。
翔はその愛刀「名刀 藤月とうげつ」でカスミに切りかかった。
藤月を振り下ろしたがカスミは一番硬い鋼糸で防御する。
そして先が尖った垂直発射型の鋼糸を左手から発射する。

が……。

翔は刀を逆手に持ち直し、刀をカスミに垂直にすると、刀を右手で高速に一回転させる。

かずら古刀術一之舞……風散ふうさん!」


重量で、少し斜め下に落ちながら刀身の重さで加速する。
その加速によって、風が発生し、糸の軌道を乱した。
それに加えて、翔は左手で構えて、右手で「柄」の「頭」を押す。カスミの鋼糸の隙間を通り抜けるが、間一髪刀の「鋒」を鋼糸で絡ませ攻撃を抑えた。

かずら古刀術。
藤野家は昔、かずらと呼ばれる徳川に仕える小さな大名であった。徳川が天下統一する前は、古くから藤家は剣術の名家で、藤野家初代当主、藤家第5代目当主の藤(野)櫻衛門さくらえもんは、藤家の剣術を集結させた刀術「かずら古刀術」を作ったのだ。

一之舞、元は敵の鎧にヒビや穴を開け貫く技だが、応用と工夫によって使い方は様々である。
因みに、この刀術を作った時期に大名となり、「藤野」とは「藤(かずら)ノ」から取られているのだ。

「なるほど……剣術が使えるのですか」

「蒼二と対峙出来るくらいにはな……蒼二の二柱古刀術はなかなか癖も形も掴めない……」

「何故それほどの力を持ってながら海軍に……?」

「大人数でかかられたら負けるわけでもないが、俺が力を出し尽くせるのは一対一だ。それに、刀と剣で戦うことはないしな。今は銃撃戦だし。あと、俺は和えて趣味で剣術を行っている。趣味を本業にすると面白くなくなるしな。まぁ、実戦でも戦えるが……」

「ウフフ。流石はコユキ様の婿ですね。そうでなくては……けれど、私とて本気なのですよ?」

カスミは操っていた糸を壁に飛ばし貼り付ける。
それによって、刀を拘束しながら自身の両手が空いた。

玄華くろばな

3本の種類の糸を同時に操り、翔の身体の付近一帯に黒い花の蕾のようにまとわりつける。
翔は黒い空間に閉じ込められた。
しかし、感触はある。
蕾のなかで何本もの糸が俺の体を包みつつある。

「チッ!」

翔はすぐさま刀を、拘束から取り出す。

そして……。

「藤古刀術二之舞……百花ひゃっか!!」

花が次々と開花するように、藤月は高速で円状に振るわれる。
銀色の刀身にかすかに紫色が輝く。
藤月は、一目見れば他の刀と何ら代わりはしないが、藤家によって代々継がれている名刀故に、一味違う。
より軽く、より強固に、より強く、より斬れ味がよく、使い勝手が良いように改造されているのだ。
そこらの刀や名刀と比べれば、斬れ味は頂点に君臨するほどである。
その斬れ味は、花を斬ったとしてもその花弁がそこから落ちないほどである。上手いように斬った場合に限るが。

円状に斬られた黒い繭状の鋼糸は、その場所から動かない。
しかし、それは上手い方向へと向かった。
これによって、カスミは油断している。
しかし、玄華の周囲を斬った今、全身を拘束する鋼糸の流は止まった。

二之舞 百花
広範囲に威力を発揮する二個目の技。
高速で円状に振るわれた相手は、自分自身が動くまで、血管、肉体、内臓は切られたことも知らずに動き続ける。
6つの中で、二番目に神経を使う技である。

そして、玄華の中から翔が糸を突き破り出てくる。

「ッ……!?どう……して」

カスミは慌てて鋼糸を操るが、混乱でその軌道は乱れ、糸が絡み合ってしまう。

「キャッ!」

最終的に全身に糸が絡み合ってしまい、身動きが取れなくなってしまった。

どうして……カスミのような幼子がこんな力を……。

「カスミ、大丈夫か?」

「………」

カスミは俯いて、返事も返さない。
しかし、しゃくりあげる声だけは聞こえた。

カスミの顔をよく見ると、泣いていた。

「どうして……翔様は逃げるのですか……」

「それは……俺には仲間がいるからだ。長い間心配させてしまっている。だから帰らなければ行けない」

「そんなモノ仲間どうでもいいじゃありませんか!皇帝にさえなれば権力、力、名声、全て手に入れれるのですよ?!なのに……どうして……私だって……私だって……」

カスミは少しグッと我慢するが、その言葉を吐き出した。

「私だってお父様が欲しいです!!」

「ッ……!!」

「朝、お義母様おかあさまと様翔様が話しているのを聞いたんです。実のところ、気づいてました。自分が本当はお義母様の子ではないと。記憶もあるんです。当時の……でも、それでも……大事に思ってくれていて、今この時まで育ててくれたお義母様に、感謝していました。だから、表では何も言わず、我慢してたんです。でも、それでも、本当の両親じゃないと思ってしまう。その度孤独を感じてしまう……だから、だからだからだから!!」
カスミは鋼糸が絡まり、結ばれた手を床に何度も叩きつける。

「……クッ……」
その話を聞いて俺は少し心を痛めてしまう。

「私の……お義父様・・・・になってください」

泣き、ぐじゃぐじゃになった顔で俺の事を見つめてくるカスミに、俺は、何も言えなかった。動けなかった。
俺は刀を鞘に納めた。



その頃、月灯艦隊は聯合艦隊と接触した。
しかし、月灯艦隊の戦況は芳しくはない。
当たり前だ。
今思えば当たり前の戦力差があった。
鋼鉄の鳥や超長距離からの砲撃。
何もかも、敵は此方より勝っていた。



「正体不明艦隊、前方より感知!」

その報を受け、海戦は始まった。
射程圏が大幅に広い大和と武蔵が最初の咆哮を轟かせた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「第15団砲撃、まもなく弾着します。……5、4、3、2、1……だーん着!!」

双眼鏡から見えた数十本の水柱が浮かび上がった。
そして、数弾敵艦に命中し、炎上、爆発した。

「留めだけは刺すな。我々がこの世界で生き残る術は貿易しか無い。月灯はいい相手になる。それと、現在攻撃機中の航空機を収納した後、航空機発艦を辞めさせるように機動部隊に伝達しろ」

留めを刺すな……っというのは分かる。
しかし、何故航空機発艦の許可を、機動部隊から取り上げる必要があるのか分からなかった。

「山本司令、それは何故ですか?」

「この世界はまだ技術の進歩が我々より大きく劣っている。だから現状我々は航空機を使わずとも戦況は有利になる。しかしその分航空機などを使うと相手に技術を与えてしまう可能性がある。設計図や墜落した航空機が無くとも、写真などから分析することはそこまで難しくないからな。現在新型の艦艇や航空機を開発出来ない我々にとって、技術漏洩は絶対に阻止すべきだ。じゃなきゃ、相手が我々の艦艇や航空機より高性能の物を開発する恐れがある。「見様見真似で作って成功した」……なんてたまったもんじゃない」

「なるほど、了解しました。通信長、各機動部隊に航空機発艦許可を禁止すると伝えてくれ」

「分かりました」

そして通信長は各空母にそう電文を打つように通信班に命令する。
それとほぼ同時に各戦艦から無線で「第16砲撃は大和、武蔵に合わせる」という報告が来る。
敵艦隊が長門、陸奥、扶桑、山城、伊勢、日向、金剛、霧島の射程圏内に入ったのだ。
大和と武蔵は「交互撃ち方」をやっていた為、長門(以下略)も交互撃ち方で砲撃を始める。

しかし、濃霧が現れた。
敵艦隊が消えていく。
その光景に、大和、武蔵、信濃以外の者達は驚きを隠せなかった。

こうして、海戦は聯合艦隊の輝かしい勝利で終わった。







※おまけ※
~満月奇襲~

満月の月が廊下を照らす。
その中で、一人の少女が赤色に金や銀色で美しい装飾がなされた着物を着て歩いていた。

「戦争とは……儚くとも悲しい物ですね……」

そう告げたあと、一筋の涙をこぼした。
もし狐雪家が勝利すれば、この国を統べる彼女にとって、この戦争はとても悲しみと苦しみが絶えない戦であった。
権力、名声、力に、溺れてしまう人々がとても見てられないのだ。

彼女は、本来なら就寝の時間に寝室を抜け出した。
何処か、心が騒ぐのだ。
満月の夜はとても明るく、美しい夜空が広がっていた。
その光景でも見れば心が落ち着くだろうと、抜け出したのだ。

彼女にとって、これは運が良かったのか悪かったのか……分からない。

「白夜様!ここにおられましたか!」

「……玄武」

まだ少し若い頃の玄武である。

「白夜様、お逃げください。敵です!敵集です!」

「……え」



彼女は走った。
寝室には、彼女の母と父が居る。
無事を祈ってただ、走った。

燃え盛り、敵の狂気の笑い、悲鳴が飛び、血が吹き荒れる「桜月おうげつ城」の中を必死に走った。
そして、ようやくその部屋に着いた。
息が切れ、着物が汚れ、美しい髪が乱れようとも気にせず、勢いよく襖を開けた。

しかし、遅かった。

「ッ……!?」

火の海と化した寝室では、切り捨てられ屍になった自身の父と母、鬼の形相で息を切らし、返り血で汚れた服を着て、血が垂れている刀を持った羽柄蘭賀が居た。

彼女は目を限界まで広げ、口を手で押さえ、膝から崩れ落ちた。

「う、嘘……お母様……お父様!!」

手と足をバタつかせ、急いで両親の元へ向かう。
火の中であろうとも。

「お母様、お母様!!」

体を揺するが、動く前兆も、何もない。
その手は母の血で汚れたが、気にもしなかった。

「お父様……お父様起きて!!」

彼女は父の元へと向かい、同じように体を揺する。

「ッ……!!」

父の顔が見えた瞬間、彼女は自分でも分からない感覚に襲われた。
覚悟を決め、歯を食いしばり、目を限界まで開けたまま死んだ父の顔を見た……見てしまった。

「いや……いやあぁぁぁ!!!」

彼女は、何も言わず立っていた蘭賀に何も言わず、燃え盛る桜月城を残った使用人達と共に抜け出した。
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