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一歩の勇気
31.絵の題材
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それから3日ほど経った頃、私は練習の絵を完成させた。部室の机と椅子の一つのセットをメインに描いた。机と椅子以外の部分は軽めに描いたので、いつもより早めに完成できた。
「川崎さん、絵うま!」
私の完成した絵を美坂さんが嬉しそうに見ている。
「私、この雰囲気好きだな」
美坂さんが純粋に喜んでそう言ってくれる。私が「ありがと」と返すと、「次は何を描く?」と聞かれた。
「……もうちょっと考えたくて」
「題材はしっかり考えて決めたいよね。ゆっくり考えよ!」
「うん、ありがと。ちょっと校内見てこようかな。題材探ししたいし」
私はそのまま部室を出ると、放課後の静かな廊下を歩いていく。いつもの教室、理科室、図書室、順番に場所を見ていくだけで楽しかった。木下先生が言うには、風景も校内に限らずに好きな写真を持ってきても良いらしい。
私は校舎の外から見える景色も確認したくて、正面玄関で靴を履いて外に出た。校舎の周りを歩いていくと、運動部が運動場で練習している。私はついサッカー部を探してしまう。
サッカー部はランニング中で、草野くんはすぐに見つけることは出来たが菅谷くんが見当たらない。
「川崎さん?」
急に後ろから声をかけられて、私はビクッと身体を震わせて振り返った。
「菅谷くん……!」
「川崎さん、どうしてこんなところにいるの?」
「美術部の題材探しで……菅谷くんは?」
「ちょっとさっき転んでさ、保健室行った来たところ」
菅谷くんは自分の膝の辺りにある絆創膏を指差した。
「わ!大丈夫……!?」
「全然。大した傷じゃないから」
「本当?」
「うん。本当に大丈夫なやつ!」
「そっか。良かった」
「川崎さんは、なんか良い場所見つかった?」
「まだ……」
私の言葉に菅谷くんが私の隣に来て、運動場を見渡す。
「こうやって見ると運動場の景色も綺麗だな。お、草野も走ってる」
菅谷くんは草野くんが走っているのを見つけて楽しそうに笑う。
「川崎さんさ、もし良かったらサッカー部を描いてよ。もちろん嫌だったら全然いいけど」
「……?」
「俺さ、最近ふと思ってさ。これから病気が治る可能性もあるけど、酷くなる可能性もゼロじゃない。だからこそ、今こうやってサッカーが出来ることを楽しみたくてさ」
菅谷くんは運動場で頑張っている部員を輝いた目で見ている。
「もしいつか出来なくなっても、川崎さんが絵に残してくれたら嬉しいかもって思っちゃった。あ!そうじゃん!」
菅谷くんが急に私と顔を合わせた。
「そしたら、俺のサッカーと川崎さんの絵が同時に残るじゃん!」
菅谷くんはそう言った後に、慌てて「もちろん川崎さんが好きなものを描けばいいんだけど」と訂正してくれる。でも、私は今の菅谷くんの言葉が嬉しかった。心に響いてしまった。
「それにする」
「え……?」
「私、ここから見える景色を描くね」
私がそう言って笑うと、菅谷くんがつられて笑った。
「完成したら見せてよ」
「うん」
その時、運動場にいるサッカー部の部員の先輩らしき人が菅谷くんに気づいたようだった。
「おーい、菅谷ー!怪我大丈夫だったかー!」
菅谷くんは「ごめん、戻る!」と言って、すぐにサッカー部のところに戻っていく。私は菅谷くんがサッカー部のところへ走っていくのをつい見つめてしまう。
「うん、ここにしよ」
私はもう一度そう言って、部室に戻った。
「川崎さん、絵うま!」
私の完成した絵を美坂さんが嬉しそうに見ている。
「私、この雰囲気好きだな」
美坂さんが純粋に喜んでそう言ってくれる。私が「ありがと」と返すと、「次は何を描く?」と聞かれた。
「……もうちょっと考えたくて」
「題材はしっかり考えて決めたいよね。ゆっくり考えよ!」
「うん、ありがと。ちょっと校内見てこようかな。題材探ししたいし」
私はそのまま部室を出ると、放課後の静かな廊下を歩いていく。いつもの教室、理科室、図書室、順番に場所を見ていくだけで楽しかった。木下先生が言うには、風景も校内に限らずに好きな写真を持ってきても良いらしい。
私は校舎の外から見える景色も確認したくて、正面玄関で靴を履いて外に出た。校舎の周りを歩いていくと、運動部が運動場で練習している。私はついサッカー部を探してしまう。
サッカー部はランニング中で、草野くんはすぐに見つけることは出来たが菅谷くんが見当たらない。
「川崎さん?」
急に後ろから声をかけられて、私はビクッと身体を震わせて振り返った。
「菅谷くん……!」
「川崎さん、どうしてこんなところにいるの?」
「美術部の題材探しで……菅谷くんは?」
「ちょっとさっき転んでさ、保健室行った来たところ」
菅谷くんは自分の膝の辺りにある絆創膏を指差した。
「わ!大丈夫……!?」
「全然。大した傷じゃないから」
「本当?」
「うん。本当に大丈夫なやつ!」
「そっか。良かった」
「川崎さんは、なんか良い場所見つかった?」
「まだ……」
私の言葉に菅谷くんが私の隣に来て、運動場を見渡す。
「こうやって見ると運動場の景色も綺麗だな。お、草野も走ってる」
菅谷くんは草野くんが走っているのを見つけて楽しそうに笑う。
「川崎さんさ、もし良かったらサッカー部を描いてよ。もちろん嫌だったら全然いいけど」
「……?」
「俺さ、最近ふと思ってさ。これから病気が治る可能性もあるけど、酷くなる可能性もゼロじゃない。だからこそ、今こうやってサッカーが出来ることを楽しみたくてさ」
菅谷くんは運動場で頑張っている部員を輝いた目で見ている。
「もしいつか出来なくなっても、川崎さんが絵に残してくれたら嬉しいかもって思っちゃった。あ!そうじゃん!」
菅谷くんが急に私と顔を合わせた。
「そしたら、俺のサッカーと川崎さんの絵が同時に残るじゃん!」
菅谷くんはそう言った後に、慌てて「もちろん川崎さんが好きなものを描けばいいんだけど」と訂正してくれる。でも、私は今の菅谷くんの言葉が嬉しかった。心に響いてしまった。
「それにする」
「え……?」
「私、ここから見える景色を描くね」
私がそう言って笑うと、菅谷くんがつられて笑った。
「完成したら見せてよ」
「うん」
その時、運動場にいるサッカー部の部員の先輩らしき人が菅谷くんに気づいたようだった。
「おーい、菅谷ー!怪我大丈夫だったかー!」
菅谷くんは「ごめん、戻る!」と言って、すぐにサッカー部のところに戻っていく。私は菅谷くんがサッカー部のところへ走っていくのをつい見つめてしまう。
「うん、ここにしよ」
私はもう一度そう言って、部室に戻った。
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