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四人で過ごす1日

21.四人でお出かけ 2

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 川辺に戻ると、先ほど見つけた二つのベンチに四人で座る。それぞれのお昼ご飯を食べ始めた。

「にしても暑くね?まだ6月だぞ」
「もう6月の間違いだろ」
「あー、確かに。ていうか、この冷やし中華うま!」
「まじ?今度、俺も食べてみよ」
「この後、どうする?なんかしたいことある人いる?」

 草野くんの問いに美坂さんが何かをスマホで調べてから、私たちに画面を見せてくれる。

「近くの美術館でトリックアート展がやってるんだけど、もし良かったら見に行かない?」

 美坂さんの見せてくれている画面には「トリックアート体験を楽しもう」と書かれたホームページが表示されている。草野くんが「良いじゃん!」と言いながら、美坂さんと一緒にスマホの画面を見ている。私と菅谷くんも美坂さんの案に賛成だった。

「じゃあ、ここにしよ!調べた感じバスで行けば、乗り継ぎなしで行けそう」

 美坂さんがそう言って、バスの時間も調べてくれる。

「あ!あと15分でバス出発する!急いで食べよ!」

 美坂さんの言葉に私たちは終わりかけの昼食をすぐに食べ切り、バス停に向かった。バス停に着くと丁度バスがやってくる。
 バスに乗って30分ほどで目的の美術館に着いた。

「うわ、俺、美術館とか小学生ぶりなんだけど」
「草野でも美術館行ったことあるんだな」
「どういう意味!?」
「いや、なんかイメージなかった」
「菅谷、お前もっと俺に遠慮しろ!」

 草野くんと菅谷くんは楽しそうに話していたが、美術館に入るとすぐに静かになってトリックアート展の開かれている場所まで歩いていく。トリックアート展なこともあり、美術館では珍しく「写真撮影OK」と書かれている場所も多かった。
 美術館の中でもトリックアート展は家族連れも多く、少しなら話している人もいる。

「菅谷、この場所で写真撮ろーぜ。そこ立って」

 草野くんが菅谷くんをトリックアートの上に立たせて、写真を撮っている。私と美坂さんも何枚か写真を撮っていると、美坂さんが小声で私に話しかけた。

「川崎さん、私、別のブースでやってる油絵のコーナーも見たくて……ちょっと行ってくるね」

 美坂さんが高校で美術部に入っていることもあって、本当に絵が好きなようだった。美坂さんがトリックアート展を出ようとして、私の方を振り返った。

「川崎さんも良かったら油絵を見に行かない?」
「うん、行こうかな」

 私たちは草野くんと菅谷くんに油絵のブースに行くことを伝えて、トリックアート展を先に出た。油絵のブースは子供連れも少なく、誰も小声でも話していなくて静かだった。美坂さんと私はそれぞれのペースでゆっくりと油絵を見ていく。
 小さい頃は美術館が好きだった。美術部に行けなくなった後は自然と美術館に行くこともなくなったけれど、やっぱりこの雰囲気が落ち着いてしまう。
 油絵を見終わってブースに出ると、美坂さんはもう見終わっていた。

「ごめん!待たせちゃった?」
「ううん、全然。私も今、見終わったところ」

 私たちはそのまま菅谷くん達がトリックアート展から出てくるまで、エントランス付近の休憩所で休むことにした。

「川崎さんって油絵が好きなの?」
「うん。割と美術関係はなんでも好き」
「そういえば中学は美術部だったってオリエンテーションの時に言ってたね」

 中学の頃の部活のことを思い出すと、美坂さんの言葉に上手く返事をすることが出来なかった。

「高校は美術部入らないの?」
「あ、えっと……帰宅部にしようかなって」
「そっか。川崎さんが美術部入ってくれたら嬉しいなって思って、ちょっと聞いちゃった」

 美坂さんはなんで帰宅部がいいかとかそんなことは何も聞かないでくれる。

「今ね、美術部に先輩も入れて11人しかいなくてね。小さい部活だから、みんな部室で一人一個机使えるの」

 美坂さんは楽しそうに美術部の話をしてくれる。その話の中には今書いている絵の話もあって、それがとても眩しく感じた。

「今度は水彩画を描こうと思ってて……あ、ごめん。面白くない話しちゃった」
「ううん、楽しいよ。本当に」
「……」
「美坂さん?」
「川崎さんって絵が本当に好きなんだね」

 美坂さんはそう言って、嬉しそうに笑ってくれる。

「私の描いてる水彩画の話ね、この前クラスの友達にしたら、楽しそうに聞いてくれたけどすぐに別の話題に移っちゃって……なんか申し訳ない気持ちになったの。でも今の川崎さんがとっても楽しそうに聞いてくれるから、いっぱい話しちゃいそう」

 美坂さんの言葉に私はぎこちなく笑い返すことしか出来なかった。私の本心を見透かされた気がした。
 その時、菅谷くんと草野くんがトリックアート展から出てくる。

「ごめん、二人とも。遅くなった。菅谷と全部のトリックアート制覇しようぜって話になって」
「おい、言い出したのは草野だろ」
「菅谷もノリノリだったじゃん」

 草野くん達と合流して美術館を出た後も、美坂さんの言葉が頭に残ったままだった。
 バスで駅まで戻ると、もう時刻は3時を過ぎていた。草野くんもスマホで時間を確認している。

「まだ3時だけど、どうする?」
「俺は疲れたし、そろそろ帰りたいかも」
「確かに。今日は解散にするか」

 その時、菅谷くんがちらっと私の顔色を確認した気がした。きっと私の体調を気遣って解散しようと言ってくれたのかもしれない。

「じゃあ、また月曜な」

 草野くんと菅谷くんは電車なので駅の中に入っていく。美坂さんも駅から見て私と反対方向の家なので、その場で別れた。
 帰り道、一人になると急に寂しさが襲ってくる感じがした。症状というほど酷くはないけれど、どこか物寂しくて。きっとこれはさっきまでの時間が楽し過ぎたせいだ。
 先ほどまでの楽しかった余韻が抜けきらない感じがする。でもぬいぐるみを握りしめたいような、いつもの症状ではなくて……なんて言ったらいいのか分からないけれど、嫌な寂しさじゃなかった。

 家に帰ると、オリエンテーションの時のようにすぐにお母さんがリビングから出てくる。でもオリエンテーションの時と違って心配そうではなくて、私がクラスメイトと出かけたことが嬉しいようだった。

「おかえり」

 お母さんの「おかえり」にどこか安心して、私はいつも通り「ただいま」と返した。
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