上 下
17 / 36
二人の過去と近づく距離

17.寂しがり屋が二人 2

しおりを挟む
 菅谷くんはカーテンの閉まっている窓を見つめながら、過去を思い出しているようだった。

「俺、中学の頃から友達が多い方でさ。部活の友達も同じクラスの友達もどっちもいたんだ。サッカー部の友達もクラスの友達も良いやつばっかで……まぁ草野見てれば分かると思うんだけど」

 友達のことを話す菅谷くんはいつも教室の真ん中にいる時のような雰囲気を感じた。

「ずっと楽しくて、アホなことばっかやって笑ってた。でも部活でちょっとへこむことがあった時があって、ついクラスのやつに愚痴を言っちゃったんだ。そしたら、『大丈夫だって!菅谷の明るさならどんなことも倒せる!』って」

 菅谷くんが見つめているカーテンの隙間から光が少しだけもれていた。

「そいつは慰めてくれただけだし、勿論嬉しかったんだけど……『みんな明るい俺が良いんだ』っていうことを意識したら、ズンって心が重くなったのを感じた。それから、あんまりうまく笑えなくて……そしたら教室で友達が話しているのが聞こえたんだ」

「『最近、菅谷が菅谷らしくねぇよな』って。『一緒にいても楽しくない』って。勿論そいつらは中学の友達で草野じゃないんだけど……なんかその日から誰も信頼できなくて、ずっと『明るい』まま生活してる」

「誰も暗い部分の俺は求めてないって気づいたら、周りに誰もいない感じがした。それから『寂しい』って感情が頻繁に起こるようになったんだ。でも、ずっと認められなくて無理をし続けてた。それで入学式の時、ついに限界が来て川崎さんに出会ったんだ」

 菅谷くんが窓に向けていた視線を私に向ける。


「さっき川崎さんが言ってくれたでしょ。『笑顔じゃなくてもいい』って。入学式の日も今も俺を助けてくれるのはいつも川崎さん」


 菅谷くんの言葉は真っ直ぐで、嘘がなくて、そんな菅谷くんの苦しみにいま私は触れている。

「川崎さん、もう一回あの言葉言ってくれる?」

 私は涙を拭くことも忘れたまま、菅谷くんの方を向いてもう一度あの言葉を唱えた。


「寂しくない。大丈夫」


 菅谷くんが下を向いて、嗚咽おえつを堪えているのが分かった。

「寂しいんだ。俺、本当に寂しい」

 泣きながら、菅谷くんはそう繰り返した。

「寂しくて息が出来ない」
「うん。私も寂しくていつもぬいぐるみと手を繋いでる」
「こんな症状のせいで高校では部活も入れない。本当に息が苦しくなるんだ。もう死ぬんじゃないかって不安になる」

 菅谷くんが何とか顔を上げた。

「川崎さん、でも俺、死ぬんじゃないかって不安になるってことは死にたくないのかな……?」

 菅谷くんの絞り出したような言葉に私は気づいたら菅谷くんの手を握っていた。ただ握ることしか出来なかった。

「川崎さん、また症状が出たら俺の手を握ってくれる?」

 震えた菅谷くんの問いに私は頷いた。拭いたはずの涙がまた頬に伝ったのが分かった。

 どれくらいそのまま手を繋いでいただろう。しばらくして、菅谷くんが立ち上がった。

「川崎さん、月曜日の授業に数学ってある?」
「……?確かなかったと思うけど……」
「やった。じゃあ、行こ」

 菅谷くんのその言葉がどれほどの勇気がいる言葉なのか私には想像もつかなかった。

「川崎さん、今日は本当にありがと」
「ううん、全然。また月曜日ね」

 「また月曜日」と言えることの喜びを噛み締めたかった。
 菅谷くんの部屋を出て、階段を降りると菅谷くんのお母さんがリビングから出てくる。

「川崎さん」
「長居してしまってすみません」
「全然大丈夫よ。今日はありがとう」
「いえ、お邪魔しました」

 私は菅谷くんのお母さんに会釈えしゃくをして、菅谷くんの家を出ようとした。

「川崎さん……!」

 菅谷くんのお母さんに呼び止められて振り返る。

「これからも柊真をよろしくね」

 菅谷くんのお母さんの言葉に私は「はい」と頷くことしか出来なかった。
 菅谷くんの家を出た後の駅までの道のりは早く感じて、すぐに駅に着いてしまう。電車に乗っている間もスマホを触る気分になれなくて、電車の窓から外の風景を眺めていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

機械娘の機ぐるみを着せないで!

ジャン・幸田
青春
 二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!  そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。

鮫島さんは否定形で全肯定。

河津田 眞紀
青春
鮫島雷華(さめじまらいか)は、学年一の美少女だ。 しかし、男子生徒から距離を置かれている。 何故なら彼女は、「異性からの言葉を問答無用で否定してしまう呪い」にかかっているから。 高校一年の春、早くも同級生から距離を置かれる雷華と唯一会話できる男子生徒が一人。 他者からの言葉を全て肯定で返してしまう究極のイエスマン・温森海斗(ぬくもりかいと)であった。 海斗と雷華は、とある活動行事で同じグループになる。 雷華の親友・未空(みく)や、不登校気味な女子生徒・翠(すい)と共に発表に向けた準備を進める中で、海斗と雷華は肯定と否定を繰り返しながら徐々に距離を縮めていく。 そして、海斗は知る。雷華の呪いに隠された、驚愕の真実を―― 全否定ヒロインと超絶イエスマン主人公が織りなす、不器用で切ない青春ラブストーリー。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

傷つけて、傷つけられて……そうして僕らは、大人になっていく。 ――「本命彼女はモテすぎ注意!」サイドストーリー 佐々木史帆――

玉水ひひな
青春
「本命彼女はモテすぎ注意! ~高嶺に咲いてる僕のキミ~」のサイドストーリー短編です!  ヒロインは同作登場の佐々木史帆(ささきしほ)です。  本編試し読みで彼女の登場シーンは全部出ているので、よろしければ同作試し読みを読んでからお読みください。 《あらすじ》  憧れの「高校生」になった【佐々木史帆】は、彼氏が欲しくて堪まらない。  同じクラスで一番好みのタイプだった【桐生翔真(きりゅうしょうま)】という男子にほのかな憧れを抱き、何とかアプローチを頑張るのだが、彼にはいつしか、「高嶺の花」な本命の彼女ができてしまったようで――!   ---  二万字弱の短編です。お時間のある時に読んでもらえたら嬉しいです!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

記憶の中の彼女

益木 永
青春
潟ケ谷(かたがや)市という地方都市に暮らす高校生の高野和也。 ある日、同じ高校に通う伊豆野凛という少女と知り合ってから、和也は何故か自分の記憶に違和感を覚える。 ずっと記憶に残っている思い出に突然今までいなかった筈の女性がいる事に気づいた和也はその不思議な記憶を頼りに、その理由を探していく。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

処理中です...