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入学式での出会い
2.発症したのは
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「寂しい」
中学二年生の時、その感情は突然襲ってきた。
美術部の部活から帰って疲れていて、明日だって学校がある。それでもある日、急に「寂しくて」眠れなくなった。
その日から、私の生活は段々と壊れていった。
「お母さん、今日何時に帰ってくる?」
「うーん、今日は八時くらいだと思うけれど……」
「八時!?」
「ええ。どうしたの?何かあった?」
「ううん、何にもない……」
どれだけ強がっても中学から家に帰って一人でいると、涙が溢れた。
「寂しい」
「寂しい」
「寂しい」
今まで普通に流してきたはずの「寂しい」という感情があまりに強くて、私はついにネットで症状を検索した。
【異常なくらい寂しい】
表示された病名はあまりにそのままで、それでいて何処かしっくりきた。
【頻発性哀愁症候群】
信じられなくても症状は治らず、ついには家族に気づかれた。ある日、お母さんが夕飯の後に私を呼び止めた。
「菜々花、最近何かあった?」
「え……?」
「最近、いつもと違う気がして……」
震えた手で、病名の検索された画面を親に見せた。
「最近、おかしいの。寂しくて堪らないの。本当に私、おかしくなっちゃった……」
溢れる涙が症状のせいなのかすらもう分からなかった。両親は神妙な顔でスマホに表示された病気の説明を読んでいた。
そして、最後にこう言うのだ。
「奈々花、今週の土曜日に病院に行ってみよう」
あまりに受け入れるのが早いのは、きっと両親も私を見ていて心当たりがあるから。それが悲しいのに、私の心は諦めがついているようだった。
病院の先生は私の症状を聞くなり、いくつか質問をした。そして中学二年の六月十日、私は「頻発生哀愁症候群」と診断された。
それからは模索続きの日々だった。出来るだけ一人で症状を和らげたいのに出来なくて、私は泣き続けた。自分が学校を休んでは、親にまで仕事を休んでほしいと我儘を言った。
「ごめん……今日も仕事休んでほしい……寂しい。寂しい」
感情をコントロール出来なくなり、我儘になっていく。
「奈々花、気持ちは分かるけどお母さんたちも仕事をしないと……」
そんなある日、お父さんが大きなくまのぬいぐるみを買ってきた。
「奈々花、お父さんやお母さんも働かなくてはいけない。奈々花もそれは分かっているだろう?」
自分の目が虚ろになっているのが分かった。もうこの病気のせいで私はいつか死ぬのだと感じていた。
「気休めにしかならないかもしれないが、このぬいぐるみを私たちだと思って耐えてほしい」
三歳の子供に送るようなプレゼントを私は呆然と見ていた。そして、またポロポロと涙を溢すのだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい……本当にごめん……」
繰り返し謝る私の頭をお母さんが優しく撫でてくれる。
「なんで謝るの。病気は奈々花のせいじゃないわ。大丈夫。お母さんもお父さんも奈々花が大好きよ」
幸せな家庭を壊したのは私なのに。迷惑をかけているのは私なのに。優しい言葉をかけてくれる両親がいる。私が病気に負けて諦めようとしているのに、ぬいぐるみを買ってきて治療法を模索してくれる。
その両親を見た時にもっと自分に出来ることをしようと思った。このまま病気に負けて、ただ「寂しさ」に負けて、泣き喚いてるだけは嫌だった。
それからはずっとぬいぐるみを抱きしめて耐えた。夜眠れない時もぬいぐるみを抱きしめ続けた。両親に我儘を言って仕事を休んでもらうことも辞めたのに、「寂しさ」は全く改善しないままだった。耐えられているようで耐えられていなくて、お母さんと一緒に眠る日もあれば、両親の仕事の休憩時間に電話をかける時もあった。
そして、この「ただ寂しくて堪らない」病への向き合い方が分からぬまま、私は高校生になった。
病気を発症して二年。私はなんとか中学校を卒業し、高校に入学できることになった。今も大きなぬいぐるみを大事に持って、ぬいぐるみの手を握って眠っている。日中もぬいぐるみを握りしめていることがほとんどだった。
人によっては、友達や家族に執着をしてストーカー化する人もいるらしい。そして、明確な治療方法がない今、その病を抱えた人たちはただただ「寂しさ」を自分なりに埋めるために何か方法を考え続けている。
「自分」と「周りの人」を壊さないために。
そして、「寂しさ」との向き合い方を知るために。
私の高校生活の目標は三つ。
・「頻発性哀愁症候群」を治すこと
・周りの人にこれ以上絶対に迷惑をかけないこと
・高校を無事卒業すること
明日から、私の高校生活が始まる。きっと私が想像も出来ないような日々が始まる予感がした。
中学二年生の時、その感情は突然襲ってきた。
美術部の部活から帰って疲れていて、明日だって学校がある。それでもある日、急に「寂しくて」眠れなくなった。
その日から、私の生活は段々と壊れていった。
「お母さん、今日何時に帰ってくる?」
「うーん、今日は八時くらいだと思うけれど……」
「八時!?」
「ええ。どうしたの?何かあった?」
「ううん、何にもない……」
どれだけ強がっても中学から家に帰って一人でいると、涙が溢れた。
「寂しい」
「寂しい」
「寂しい」
今まで普通に流してきたはずの「寂しい」という感情があまりに強くて、私はついにネットで症状を検索した。
【異常なくらい寂しい】
表示された病名はあまりにそのままで、それでいて何処かしっくりきた。
【頻発性哀愁症候群】
信じられなくても症状は治らず、ついには家族に気づかれた。ある日、お母さんが夕飯の後に私を呼び止めた。
「菜々花、最近何かあった?」
「え……?」
「最近、いつもと違う気がして……」
震えた手で、病名の検索された画面を親に見せた。
「最近、おかしいの。寂しくて堪らないの。本当に私、おかしくなっちゃった……」
溢れる涙が症状のせいなのかすらもう分からなかった。両親は神妙な顔でスマホに表示された病気の説明を読んでいた。
そして、最後にこう言うのだ。
「奈々花、今週の土曜日に病院に行ってみよう」
あまりに受け入れるのが早いのは、きっと両親も私を見ていて心当たりがあるから。それが悲しいのに、私の心は諦めがついているようだった。
病院の先生は私の症状を聞くなり、いくつか質問をした。そして中学二年の六月十日、私は「頻発生哀愁症候群」と診断された。
それからは模索続きの日々だった。出来るだけ一人で症状を和らげたいのに出来なくて、私は泣き続けた。自分が学校を休んでは、親にまで仕事を休んでほしいと我儘を言った。
「ごめん……今日も仕事休んでほしい……寂しい。寂しい」
感情をコントロール出来なくなり、我儘になっていく。
「奈々花、気持ちは分かるけどお母さんたちも仕事をしないと……」
そんなある日、お父さんが大きなくまのぬいぐるみを買ってきた。
「奈々花、お父さんやお母さんも働かなくてはいけない。奈々花もそれは分かっているだろう?」
自分の目が虚ろになっているのが分かった。もうこの病気のせいで私はいつか死ぬのだと感じていた。
「気休めにしかならないかもしれないが、このぬいぐるみを私たちだと思って耐えてほしい」
三歳の子供に送るようなプレゼントを私は呆然と見ていた。そして、またポロポロと涙を溢すのだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい……本当にごめん……」
繰り返し謝る私の頭をお母さんが優しく撫でてくれる。
「なんで謝るの。病気は奈々花のせいじゃないわ。大丈夫。お母さんもお父さんも奈々花が大好きよ」
幸せな家庭を壊したのは私なのに。迷惑をかけているのは私なのに。優しい言葉をかけてくれる両親がいる。私が病気に負けて諦めようとしているのに、ぬいぐるみを買ってきて治療法を模索してくれる。
その両親を見た時にもっと自分に出来ることをしようと思った。このまま病気に負けて、ただ「寂しさ」に負けて、泣き喚いてるだけは嫌だった。
それからはずっとぬいぐるみを抱きしめて耐えた。夜眠れない時もぬいぐるみを抱きしめ続けた。両親に我儘を言って仕事を休んでもらうことも辞めたのに、「寂しさ」は全く改善しないままだった。耐えられているようで耐えられていなくて、お母さんと一緒に眠る日もあれば、両親の仕事の休憩時間に電話をかける時もあった。
そして、この「ただ寂しくて堪らない」病への向き合い方が分からぬまま、私は高校生になった。
病気を発症して二年。私はなんとか中学校を卒業し、高校に入学できることになった。今も大きなぬいぐるみを大事に持って、ぬいぐるみの手を握って眠っている。日中もぬいぐるみを握りしめていることがほとんどだった。
人によっては、友達や家族に執着をしてストーカー化する人もいるらしい。そして、明確な治療方法がない今、その病を抱えた人たちはただただ「寂しさ」を自分なりに埋めるために何か方法を考え続けている。
「自分」と「周りの人」を壊さないために。
そして、「寂しさ」との向き合い方を知るために。
私の高校生活の目標は三つ。
・「頻発性哀愁症候群」を治すこと
・周りの人にこれ以上絶対に迷惑をかけないこと
・高校を無事卒業すること
明日から、私の高校生活が始まる。きっと私が想像も出来ないような日々が始まる予感がした。
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