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これからも世界は回り続ける
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美しいドレスを纏《まと》い、鏡の前で髪型を確認する。
今日は、グレン殿下との婚約記念パーティが開催される日だ。
私はパーティの前に、招待客の中からある隣国の王子を控室に呼び出した。
「エイリル、どうしたの?もう、俺と話すことなんてないでしょ?」
いつも軽口の中に苦しみが隠れたままであることが分かる。
「リベス、貴方は言いましたわ。「優しさ」だけでは生きていけない、と。だから、貴方に処罰を与えます」
「前を向いて下さいませ」
「自国の利益のためにやったことを、私情に任せて苦しむなど貴方らしくありませんわ。貴方はパシュル国のことを一番に考えている立派な王子です」
「私は貴方を尊敬している。それでも、貴方を愛してはいない。それが私なりの告白の返事であり、私なりの誠意ですわ」
私は、ちゃんと声を震わせずに言えているだろうか。
どうか、伝わって欲しい。
貴方が苦しみ続けることを私は願ってなどいない。
リベスは、ただ私を見つめていた。
しかし、暫くしていつもの軽口のように話し始める。
「やっぱり甘いね、エイリルは。でも、俺は君の処罰を受け入れるよ」
「俺はもう前を向く。俺は王族として、パシュル国のために立ち止まっている暇などなかった」
リベスは私に頭を下げる。
「助言、感謝する」
その姿は王族そのもので、もう私が心配する必要などないことが分かる。
リベスは振り返ることなく、控室を出て行く。
私はもう一度、鏡の前に立つ。
綺麗なドレスに、美しく結ってある髪。
私は鏡に向かって、笑顔を向ける。
「行ってきます」
パーティ会場には、もう沢山の人々が集まっている。
私は、会場の隅で私を待っているグレン殿下の元へ歩いて行く。
グレン殿下は私に気づき、そっと手を差し出した。
「エイリル、とても綺麗だ」
私はグレン殿下の手に自分の手を重ねる。
そして、そっと握った。
「グレン殿下、私、今幸せですわ」
私がそう述べると、グレン殿下は私の手を握る手に力を込める。
「もう離さない。愛しているよ、エイリル」
「さぁ、行こう?」
私たちは、明るく照らされたパーティ会場へ一歩を踏み出した。
馬車で事故に遭ったあの日、私の人生はもう一度回り始めた。
悲しみを知り、憎しみも知った。
そして、強さを知り、愛される喜びも知った。
これからも、私の世界は回って行く。
後悔をしてもいい。
回り道だって、喜んでしよう。
それでも、私の人生を歩めるのは、私だけだ。
だから、今日も私は前を向いて歩んで行くの。
幸せを自分の手で掴むために。
fin.
今日は、グレン殿下との婚約記念パーティが開催される日だ。
私はパーティの前に、招待客の中からある隣国の王子を控室に呼び出した。
「エイリル、どうしたの?もう、俺と話すことなんてないでしょ?」
いつも軽口の中に苦しみが隠れたままであることが分かる。
「リベス、貴方は言いましたわ。「優しさ」だけでは生きていけない、と。だから、貴方に処罰を与えます」
「前を向いて下さいませ」
「自国の利益のためにやったことを、私情に任せて苦しむなど貴方らしくありませんわ。貴方はパシュル国のことを一番に考えている立派な王子です」
「私は貴方を尊敬している。それでも、貴方を愛してはいない。それが私なりの告白の返事であり、私なりの誠意ですわ」
私は、ちゃんと声を震わせずに言えているだろうか。
どうか、伝わって欲しい。
貴方が苦しみ続けることを私は願ってなどいない。
リベスは、ただ私を見つめていた。
しかし、暫くしていつもの軽口のように話し始める。
「やっぱり甘いね、エイリルは。でも、俺は君の処罰を受け入れるよ」
「俺はもう前を向く。俺は王族として、パシュル国のために立ち止まっている暇などなかった」
リベスは私に頭を下げる。
「助言、感謝する」
その姿は王族そのもので、もう私が心配する必要などないことが分かる。
リベスは振り返ることなく、控室を出て行く。
私はもう一度、鏡の前に立つ。
綺麗なドレスに、美しく結ってある髪。
私は鏡に向かって、笑顔を向ける。
「行ってきます」
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私は、会場の隅で私を待っているグレン殿下の元へ歩いて行く。
グレン殿下は私に気づき、そっと手を差し出した。
「エイリル、とても綺麗だ」
私はグレン殿下の手に自分の手を重ねる。
そして、そっと握った。
「グレン殿下、私、今幸せですわ」
私がそう述べると、グレン殿下は私の手を握る手に力を込める。
「もう離さない。愛しているよ、エイリル」
「さぁ、行こう?」
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そして、強さを知り、愛される喜びも知った。
これからも、私の世界は回って行く。
後悔をしてもいい。
回り道だって、喜んでしよう。
それでも、私の人生を歩めるのは、私だけだ。
だから、今日も私は前を向いて歩んで行くの。
幸せを自分の手で掴むために。
fin.
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