断罪された公爵令嬢は自分が聖女だと気づき、甘い溺愛の中でもう一度人生をやり直す

海咲雪

文字の大きさ
上 下
21 / 21

これからも世界は回り続ける

しおりを挟む
美しいドレスを纏《まと》い、鏡の前で髪型を確認する。

今日は、グレン殿下との婚約記念パーティが開催される日だ。



私はパーティの前に、招待客の中からある隣国の王子を控室に呼び出した。



「エイリル、どうしたの?もう、俺と話すことなんてないでしょ?」



いつも軽口の中に苦しみが隠れたままであることが分かる。



「リベス、貴方は言いましたわ。「優しさ」だけでは生きていけない、と。だから、貴方に処罰を与えます」


「前を向いて下さいませ」


「自国の利益のためにやったことを、私情に任せて苦しむなど貴方らしくありませんわ。貴方はパシュル国のことを一番に考えている立派な王子です」

「私は貴方を尊敬している。それでも、貴方を愛してはいない。それが私なりの告白の返事であり、私なりの誠意ですわ」



私は、ちゃんと声を震わせずに言えているだろうか。

どうか、伝わって欲しい。

貴方が苦しみ続けることを私は願ってなどいない。

リベスは、ただ私を見つめていた。

しかし、暫くしていつもの軽口のように話し始める。



「やっぱり甘いね、エイリルは。でも、俺は君の処罰を受け入れるよ」

「俺はもう前を向く。俺は王族として、パシュル国のために立ち止まっている暇などなかった」



リベスは私に頭を下げる。



「助言、感謝する」



その姿は王族そのもので、もう私が心配する必要などないことが分かる。

リベスは振り返ることなく、控室を出て行く。

私はもう一度、鏡の前に立つ。

綺麗なドレスに、美しく結ってある髪。

私は鏡に向かって、笑顔を向ける。




「行ってきます」




パーティ会場には、もう沢山の人々が集まっている。

私は、会場の隅で私を待っているグレン殿下の元へ歩いて行く。

グレン殿下は私に気づき、そっと手を差し出した。



「エイリル、とても綺麗だ」



私はグレン殿下の手に自分の手を重ねる。

そして、そっと握った。



「グレン殿下、私、今幸せですわ」



私がそう述べると、グレン殿下は私の手を握る手に力を込める。




「もう離さない。愛しているよ、エイリル」




「さぁ、行こう?」




私たちは、明るく照らされたパーティ会場へ一歩を踏み出した。





馬車で事故に遭ったあの日、私の人生はもう一度回り始めた。

悲しみを知り、憎しみも知った。

そして、強さを知り、愛される喜びも知った。


これからも、私の世界は回って行く。


後悔をしてもいい。

回り道だって、喜んでしよう。

それでも、私の人生を歩めるのは、私だけだ。

だから、今日も私は前を向いて歩んで行くの。



幸せを自分の手で掴むために。




fin.
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

処理中です...