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涙は頬を伝う

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「あら、目が覚めた?」

今まで女神との会話の時は瞼《まぶた》が重く、目が開かなかったのに、今は目が開けることが出来る。

初めて見た女神は、声のイメージのままの姿だった。



「にしても、人に殺されたことを知ってやっと憎しみが分かるなんて、貴方も本当にお人好しね」



目は開くことが出来ても、身体は動かない。

女神と話す時の自分の姿がどうなっているかは分からない。

それでも、私は女神の方へ視線を向け、はっきりと聞いた。

「教えて下さい。私の聖女の力は何なのですか?」



「あら、せっかちね。まずは自分で考えてみたのかしら?」

「私は初めにちゃんと言ったわよ。「まず目を瞑《つぶ》り胸の前で両手をくんで、叶えたいことを深く祈るの。ただそれだけ。でも、叶えられることには条件があるわ」とね」

「つまり、条件を満たせば貴方の願いは全て叶えられる」



「その条件が何か分からないのです」



「雨を降らせられた時と降らせられなかった時の違い、蕾が花へ成長した時と成長しなかった時の違いは何だと思う?」



「・・・・どういうことなのですか?」



「もっと言えば、貴方が試していたカップを紅茶で満たす。服にリボンをつける。部屋を掃除する。全て叶えられるわ」

「【貴方の本当の願い】ならば」



私はさらに意味が分からなくなっていく。

「この力は【貴方の心を反映】しているの」

「雨を降らせられた時は、水不足に悩む国民を助けたかった。雨を降らせれない時は、ただ次のために力を試しただけ」

「エイリル、心に嘘はつけないのよ?貴方の聖女の力は【心の底から叶えたいことしか叶わない】」

「逆に言えば、貴方の本当の願いは【全て叶えることが出来る】」

「ねぇ、なんで願いを叶えるのに目を瞑《つぶ》り、手を組まなきゃいけないと思う?願いがあっても、叶えるかは貴方次第なの」


女神は心底楽しそうにクスクスと笑っている。
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「貴方の本当の願いが全て叶えられる世界。何の努力もせずに貴方の本当の願いならば、人も殺せるし、世界も滅ぼせる」

「【優しい】人間が持つには、最っ高に面白い能力でしょう?」

「貴方は、一体何に聖女の力を使う?だから、ずっと待っていたの。貴方が誰かを恨むことを。そうじゃないと面白くないでしょう?」

「例え、聖女同士は力を使えなくても、貴方は人を妬ましいと思うことを知った。それに、【優しさ】だけじゃ生きていけないことも」

「私は初めに言ったでしょう?【GAME START】と。これはゲームなの。ほら、早く私を楽しませて?」


上手く言葉が出て来ない。

頭も上手く働かない。

それでも、何とか言葉を絞り出す。



「・・・・私に、この聖女の力で恨みを晴らせと仰るのですか?」



「まさか。叶えることは貴方が選べると言ったでしょう?人助けに使ったって構わないわ。全ては貴方の自由よ」

「さぁ、この最強で残酷な能力を知った貴方はどうする?」



女神は私の顔を覗き込むように微笑む。





「【ゲーム再開】といきましょう?」




また重くなっていく瞼《まぶた》から溢れるように、涙が頬を伝うのが分かった。

何故、涙が溢れるのか分からない。

それでも、前を向きたい。

もう一度この人生で幸せを掴みたいと願って、動き出した物語なのだから。
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