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青年の正体は?

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数日後、私はグレン殿下に呼ばれ王宮に登城《とじょう》していた。

「エイリル嬢、来てくれたんだね」

「本日は王宮にお招き頂きありがとう御座います」


「実は今、新しい政策を行っている最中でね。干ばつ対策にさらに資金を注ぎ込むことになったんだ。例え、今回の水不足を運良く切り抜けた所で、次がないとは限らない」

「しかし、今からさらに干ばつ対策に力を入れても、今回の干ばつの被害は大きいだろう。すぐに水路を整備できる訳じゃないから」


「そうですか・・・・」

「しかし、私は今出来ることをするしかない。そんな不安そうな顔をしないでくれ、エイリル嬢」

「・・・・私もお父様のお仕事についてさらに学んでいるのです。すぐには力にならなくても、いつか必ずこの国のお役に立てるように」

私はグレン殿下の顔を見つめながら、不安を隠すように微笑んだ。

「それで、今回はどうして私をお呼びになったのですか?」

「ああ、実は少し気になったことがあるんだ」

「気になること?」

「聖女リエナがこの水不足で困っている地域を回っている。そして、【蕾を花に成長させる】力で民を元気づけているそうだ」

「・・・・どういうことでしょう?」

「国民の聖女リエナへの心酔が広がっているということだ。私の直属の臣下に調査させた所、聖女リエナと話した国民は聖女リエナに【尋常じゃなく】心酔していたそうだ」

「っ!」


「国民を言葉で操っている可能性が高い。もし、聖女リエナがむやみに聖女の能力を使っている可能性を国王も危惧《きぐ》している。国王は信頼をおける臣下には聖女リエナとの接触を禁止したそうだ・・・・ただ、証拠がない」

「国王は私に信頼をおいて下さっているので、私の言葉を一つの可能性として信じて下さったが、状況が悪化していると考えるのが妥当だと思う」

「聖女リエナがエイリル嬢をこれ以上貶《おとし》めるとは考えにくいが、これからは前よりも聖女リエナを警戒してほしい」


「・・・・分かりましたわ。幸《さいわ》い最近は屋敷でお父様のお仕事を手伝うことがほとんどで、あまり屋敷を出ていません。使用人には、リエナ様に注意するようお父様が命じました」

「そうか。ただ、注意はこれからも怠《おこた》らないでくれ。すまない。私がもっと近くで君を守れたらいいのに」

グレン殿下と目を合わせる。

「エイリル嬢、しばらく王宮の客室に泊まらないか?そうすれば、護衛をもっと付けることが出来る」

「お気遣いありがとう御座います。しかし、今困っている領民を放っておけませんわ」

「そうか・・・・」

グレン殿下が私の肩に顔をそっと乗せる。

「グレン殿下!?」

「すまない。久しぶりに君に会ったものだから、嬉しくて。もう暫くだけこうさせてくれ」

グレン殿下の切なさの混じった声に私はそっと頷《うなず》くことしか出来なかった。




コンコン。





「そろそろ俺が嫉妬しちゃうんだけど」





いつの間にか扉が開いている。

驚いて振り返った私は、立っていた男性を見て固まる。

グレン殿下がさっと立ち上がり、男性に向かって礼をする。

「リベス殿下、失礼ですが客間は向こうのはずでは?」

「暇だったから、王宮を散歩してたんだ」


その男性は私に向かって微笑んだ。



「初めまして、麗しき御令嬢。パシュル国第一王子のリベス・ベルティールと申します」



その男性は、間違いなく「リベス」だった。

「グレン殿下、この麗しき御令嬢に王宮の案内をお願いしても宜しいですか?」

「っ!彼女は・・・・」

「少し挨拶するだけです。何せ「初めて」会ったものですから」

リベス殿下はそう仰って、私を部屋の外へ連れ出す。

私は部屋を出る間際、グレン殿下に心配いらないと視線で伝える。

リベス殿下は私を王宮の人気《ひとけ》のない場所まで連れ出し、やっと歩くのを止めた。

「リベス殿下!」

「あれ、もうリベスって呼んでくれないの?」

「隣国の第一王子を呼び捨て出来るわけないでしょう・・・・!」


「駄目だよ、二人の時はリベスって呼ぶこと。他の者がいるときは、リベス殿下で構わない。それと、私と会ったことがあることはグレン殿下には伝えないこと」


「っ!何故ですか?」

「知らないの?ベルシナ国は水不足の対策のため、隣国であるパシュル国に資金援助を求めた。つまり、今は俺に逆らわない方が良いと思わない?」

「・・・・つまり、命令ということですか?」

「そうだね。これで、俺が優しくない人間だってやっと気づいた?」

「からかうのはお辞め下さい。分かりました。リベス、グレン殿下にはリベスに会ったことを言いませんわ」

「いい子だね、エイリル」

「からかわないで下さいませ!」

「いい子のエイリルにはご褒美に助言をあげよう」

「え・・・・?」

「まずは祈ってみたらどう?雨を降らせて下さいって」

「・・・・何を仰っているのですか・・・・?」

「いいから」

リベスは私が聖女であることを知らないはず。

何故、このようなことを仰るのか。

それに、私の聖女の力には何か条件があるはず。


「エイリル、ほら」


何故か逆らうことが出来ず、私は胸の前で両手を組み、目を瞑《つぶ》る。




「どうか雨を降らせて下さいませ・・・・!」




その瞬間、サァアアっと外から音が聞こえる。





「雨が降り始めた・・・・?」





その時、リベスが何かを呟いたのが聞こえた。




「やはり君は聖女か・・・・」




「リベス、何か仰いましたか?それにこれは一体・・・・」

「それより早く雨のことをグレン殿下に報告したほうがいいんじゃない?」

リベスが有無を言わせず、私の背中を優しく押して、グレン殿下の方へ向かわせる。

「今は俺は君に何も明かさない。絶対にね」

これ以上は聞いても無駄だと思った私は、その場を離れた。

リベスから離れた私は、その後のリベスの呟きを知らない。






「【もう一人の聖女】は今頃どうしてるかな?」






「優しいエイリル、君は俺が聖女リエナと繋がっていることなど気づかなくて良い」






私はまだ彼の秘密を知らない。
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