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これからは毎日セレアを愛でるとしよう
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ノア様とのお茶会から5日が経った。
ノア様は毎日私の屋敷を訪れている。
勿論、顔合わせは体調不良という名の仮病で断っているが。
ノア様はせめてもの贈り物だと真っ赤な薔薇の花束を毎日置いていった。
「セレア様、街の人々にはセレア様の指示通り噂を流しました」
「ありがとう。街の人々の反応はどうかしら?」
「今の所、婚約者がある身で他の女に現《うつつ》を抜かすなどあり得ないという評判です。まさにその通りです」
侍女がしきりに頷いている。
今はそれでいい。
これから、男爵令嬢と王子様との美しい恋物語が始まるのだから。
コンコンと執事長が私の部屋のドアをノックした。
「はい」
「セレア様、殿下がお越しです」
「体調不良と断っておいて」
「・・・・よろしいのですか?」
「ええ」
執事長は幼い頃からこの屋敷に勤めていて、私を実の娘のように可愛がってくれている。
執事長に面会を断る様命じて、暫くが経った頃。
庭の方から何やら揉めている様な声が聞こえた。
私はゆっくりと椅子から立ち上がり、バルコニーへ出た。
「困ります、殿下!セレア様は床に伏せっておられます!」
「そのような嘘はつかなくてよい!セレアに一目合わせてくれ!」
執事数人でなんとかノア様を抑えている状況だった。
このままではノア様は帰らないだろう。
私は落ち着いて息を整えて、バルコニーからノア様に呼びかけた。
「ノア様」
「セレア!」
「体調不良だとおっしゃっているのに、非常識ではなくて?」
「セレア、話を聞いてくれ・・・!」
「話すことなどありませんわ」
その瞬間、ノア様の顔が悲しそうに引きつった。
「セレア、君には私の愛は伝わっていないのか」
私に向けた愛など初めから存在しないのだから当たり前だろう。
「ノア様の愛など求めていませんわ」
そう言った私はちゃんと立てていただろうか。
しかし、その言葉を聞いたノア様の態度は急変した。
「よく分かった」
ノア様が執事たちを押し退け、バルコニーの真下まで近づく。
「あら、分かって下さいましたの?」
「ああ、これから毎日セレアに愛を伝えよう」
「何をおっしゃいますの・・・!」
「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」
そう言って、ノア様は小さく微笑んだ。
「セレア、一つ言っておく。君には想い人がいるかもしれないが、他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」
「そんなことノア様に制限されたくありませんわ・・・!」
「セレア、君は私から逃げられると思っているかもしれないが、私は狙った獲物は絶対に逃さない」
そう言って、ノア様はバルコニーの下に一輪薔薇を置いて帰って行った。
「貴方が愛しているのは、あの男爵令嬢でしょう・・・?」
まるで本当に私を愛しているかのような振る舞いに、顔に熱が集まる。
明日から休暇が終わり、また学園が始まる。
「どんな顔をして、ノア様に会えばいいの?」
伯爵令嬢セレア・シャルロットの苦悩は続く。
ノア様は毎日私の屋敷を訪れている。
勿論、顔合わせは体調不良という名の仮病で断っているが。
ノア様はせめてもの贈り物だと真っ赤な薔薇の花束を毎日置いていった。
「セレア様、街の人々にはセレア様の指示通り噂を流しました」
「ありがとう。街の人々の反応はどうかしら?」
「今の所、婚約者がある身で他の女に現《うつつ》を抜かすなどあり得ないという評判です。まさにその通りです」
侍女がしきりに頷いている。
今はそれでいい。
これから、男爵令嬢と王子様との美しい恋物語が始まるのだから。
コンコンと執事長が私の部屋のドアをノックした。
「はい」
「セレア様、殿下がお越しです」
「体調不良と断っておいて」
「・・・・よろしいのですか?」
「ええ」
執事長は幼い頃からこの屋敷に勤めていて、私を実の娘のように可愛がってくれている。
執事長に面会を断る様命じて、暫くが経った頃。
庭の方から何やら揉めている様な声が聞こえた。
私はゆっくりと椅子から立ち上がり、バルコニーへ出た。
「困ります、殿下!セレア様は床に伏せっておられます!」
「そのような嘘はつかなくてよい!セレアに一目合わせてくれ!」
執事数人でなんとかノア様を抑えている状況だった。
このままではノア様は帰らないだろう。
私は落ち着いて息を整えて、バルコニーからノア様に呼びかけた。
「ノア様」
「セレア!」
「体調不良だとおっしゃっているのに、非常識ではなくて?」
「セレア、話を聞いてくれ・・・!」
「話すことなどありませんわ」
その瞬間、ノア様の顔が悲しそうに引きつった。
「セレア、君には私の愛は伝わっていないのか」
私に向けた愛など初めから存在しないのだから当たり前だろう。
「ノア様の愛など求めていませんわ」
そう言った私はちゃんと立てていただろうか。
しかし、その言葉を聞いたノア様の態度は急変した。
「よく分かった」
ノア様が執事たちを押し退け、バルコニーの真下まで近づく。
「あら、分かって下さいましたの?」
「ああ、これから毎日セレアに愛を伝えよう」
「何をおっしゃいますの・・・!」
「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」
そう言って、ノア様は小さく微笑んだ。
「セレア、一つ言っておく。君には想い人がいるかもしれないが、他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」
「そんなことノア様に制限されたくありませんわ・・・!」
「セレア、君は私から逃げられると思っているかもしれないが、私は狙った獲物は絶対に逃さない」
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「貴方が愛しているのは、あの男爵令嬢でしょう・・・?」
まるで本当に私を愛しているかのような振る舞いに、顔に熱が集まる。
明日から休暇が終わり、また学園が始まる。
「どんな顔をして、ノア様に会えばいいの?」
伯爵令嬢セレア・シャルロットの苦悩は続く。
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