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クルト領への視察2
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その日の夜は、クルト領にある王家の別荘に泊めて頂くことになった。
あまりすぐに眠れなかった私は、水を頂くためにキッチンへ向かいながら屋敷を散歩していた。
さすが王家の別荘だけあって屋敷はとても大きく、そして美しく保たれていた。
月明かりに照らされたバルコニーが目に入る。
バルコニーには、ロイド様とリアーナが楽しそうに談笑していた。
時折、リアーナがロイド様の袖を可愛らしく掴んでいる。
きゅうっと胸が痛んだ気がした。
愚かな自分が嫌になる。
だって、私にはロイド様のことで胸を痛める資格すらない。
もうロイド様の愛を求めるのを辞め、ロイド様の愛を信じない私。
今回の人生での私がロイド様にとって最低なことは分かっている。
それでも、私は自分の幸せのためにロイド様の優しさを受け入れない。
「微笑むのよ、ティアナ。自分が選んだ道でしょう?」
そう呟いた自分の声が、震えているように感じた。
その時、誰かが急に私を後ろから抱きしめた。
「ヴィーク様!?」
「ティアナ嬢、君は自分の顔を一度鏡で見た方がいいだろう」
「ヴィーク様、離してください!」
「私は、そんな顔の女性を放っておけない」
ヴィーク様はさらに強く私を抱きしめる。
「ティアナ嬢、私は前に結婚してくれたら君には一切干渉しないと述べた。しかし、もう無理だ。私は、すでにティアナ・フィオールという女性に興味を持ってしまった」
ヴィーク様が私を抱きしめていた手を緩め、私を解放する。
「ティアナ嬢。君は苦しい思いなど忘れて、ただ私に愛されていればいい」
ヴィーク様の真剣な思いに触れ、心臓が早くなるのを感じた。
しかし、だからこそちゃんとヴィーク様に向き合わなければ。
「ヴィーク様、私は・・・!」
「ティアナ嬢が今、私の気持ちに応えられないことは知っている。だからまだ返事は聞かない」
ヴィーク様が私の口にそっと人差し指を当てた。
「私はロイド殿下みたいに紳士じゃないんだ。ずるいくらいが丁度良い」
ヴィーク様はそう仰って、自室に戻って行かれる。
私はもう一度バルコニーにいるロイド様とリアーナに目を向けた。
二人はまだ楽しそうに談笑を続けていた。
月明かりに照らされる王子様とお姫様のような二人。
願ったのは、皆の幸せ。
美しく光る月を見つめる。
その瞬間、急にズキンと頭が痛んだ。
前回の人生で熱にうなされた私に会いに来たロイド様の言葉がもう一度頭をよぎる。
「ティアナ、君を守るためならば、私は・・・・」
「君にもっと愛を伝えておけば良かった」
「ティアナ、いつまでも愛しているよ」
「ティアナ。私は君をーーーーー」
何が起こっているの?
いや、あれは熱にうなされた私が見た幻想のはず。
だって、ロイド様がそんなことを言うはずがない。
あり得ない。
なのに、どうしてこんなにも頭が痛むの・・・!
「ティアナ。私は君を『殺せない』」
ロイド様、貴方の本心は一体なんですか・・・?
あまりすぐに眠れなかった私は、水を頂くためにキッチンへ向かいながら屋敷を散歩していた。
さすが王家の別荘だけあって屋敷はとても大きく、そして美しく保たれていた。
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時折、リアーナがロイド様の袖を可愛らしく掴んでいる。
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だって、私にはロイド様のことで胸を痛める資格すらない。
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しかし、だからこそちゃんとヴィーク様に向き合わなければ。
「ヴィーク様、私は・・・!」
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「私はロイド殿下みたいに紳士じゃないんだ。ずるいくらいが丁度良い」
ヴィーク様はそう仰って、自室に戻って行かれる。
私はもう一度バルコニーにいるロイド様とリアーナに目を向けた。
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その瞬間、急にズキンと頭が痛んだ。
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「ティアナ、君を守るためならば、私は・・・・」
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「ティアナ、いつまでも愛しているよ」
「ティアナ。私は君をーーーーー」
何が起こっているの?
いや、あれは熱にうなされた私が見た幻想のはず。
だって、ロイド様がそんなことを言うはずがない。
あり得ない。
なのに、どうしてこんなにも頭が痛むの・・・!
「ティアナ。私は君を『殺せない』」
ロイド様、貴方の本心は一体なんですか・・・?
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