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33.秘密を明かす2
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月明かりに照らされたまま、フリクがこちらに近づいてくる。
「フリク……?」
「君が国民に好かれても、私は君の願いを叶えられない」
フリクの言葉はどこか淡々としていて。
「君が私の無理難題を乗り越えたところで、マリーナの一番会いたい人に会わせることは出来ない」
「っ……!?」
「マリーナ、君が一番会いたい人は誰?」
「それは……」
フリクはそう問いかけながらも、私が一番会いたい人が誰か分かっているようだった。
「マリーナが一番会いたいのは、幼い頃に自分を助けてくれた少年。そうだろう?」
フリクの問いに私は小さく頷いた。
あの日……身体の弱かった幼い私が外に出た日。
リーリルと近くの森へピクニックに向かった日。
私はリーリルとはぐれて、そのまま倒れた。
しばらくして、目が覚めた私の下には……
頭から血を流した少年が下敷きになっていた。
どうやら私は体調が悪くて倒れた拍子に崖から落ちたようだった。
泣き喚いて助けを呼ぶ私に何故かその少年は微笑んだ。
「大丈夫だから」、と。
それでも、近くに人を探しに行った私がリーリルを連れてその場所に戻るともうその少年は居なくて。
「……あの日、『弟』は偶然出会った君を救って、亡くなった」
フリクがそう呟いた声で私は顔を上げた。
「そして、傷を負って弱ったことで力が衰弱して、そのまま消えた。俺たちも万能ではないから」
フリクはまるで自分で自分を嘲笑っている様だった。
フリクが何を言っているのか分からない。
頭が理解しようとしてくれない。
「何を……言っているのですか……」
「つまり、君が一番会いたい人にはもう会わせられないということだ」
フリクは視線を落としたまま、話を続けていく。
「俺にとっては君は弟を殺した人間。ただそれだけだった。だから、国民全員に嫌われて仕舞えば良いと思って、無理難題を出したんだ」
「それでも、俺が間違っていたのだと思う……だって、当たり前だが君が弟を殺したわけじゃない」
「それに、国民に嫌われて屋敷から一歩も外に出れなくなった君は、使用人の前では笑顔なのに、部屋に一人になると寂しそうな顔を浮かべていた……決して涙は溢さずに。そんな君を見ていて、俺も気持ちが変わっていった」
「だから、大悪女になった君に『好かれてきて』なんて意味の分からない課題を出したんだ」
フリクが私の頬に手を伸ばしたが、触れる直前で手を止める。
「俺が君に触れる資格はないな」
フリクはそう述べて、悲しそうに笑った。
「ねぇ、マリーナ。これで俺が君に会うのも最後だろう」
「何か言いたいことはある?」
フリクがわざとらしく明るい声を出した。
頭が整理出来ない感覚がするのに、どこか冷静さが戻り始めている自分が怖かった。
それでも、この機会を逃せば、もう私がフリクと話せることはないだろう。
「フリク、貴方はまだ私のことを恨んでいるのですか?」
「恨んでないよ。本当に」
ゆっくり消えていくフリクの姿と合わせて、声も小さくなっていく。
「マリーナ、ごめんね。君を国一番の大悪女にしたのは俺だ」
それだけ言って、フリクの姿がもう見えなくなっていく。
「待って下さい!」
私の大きな声でフリクが消えて行くのが一瞬止まった気がした。
「貴方が何を言おうと、私を大悪女にしたのはフリクではない。フリクの手を取ると決めたのは私です」
「それに私は国一番の悪女で終わるつもりはない。国一番の最高な王女になりますわ」
「これで会うのが最後でも構いません。それでも、どこかで見ていて下さい。私と取引をしたフリクには、私がどんな王女になるのか見守る義務がありますわ」
私の精一杯の勇気はフリクに届いただろうか。
それでも、最後にフリクの声がもう一度聞こえた気がした。
「マリーナ、幸せになって」
言葉に出来ない気持ちが溢れてくるのに、どうすることも出来なくて。
それでも、もう振り返ることもしない。
前に進んでいくしかない。
だって、きっとフリクもどこかで見守っているから。
「フリク……?」
「君が国民に好かれても、私は君の願いを叶えられない」
フリクの言葉はどこか淡々としていて。
「君が私の無理難題を乗り越えたところで、マリーナの一番会いたい人に会わせることは出来ない」
「っ……!?」
「マリーナ、君が一番会いたい人は誰?」
「それは……」
フリクはそう問いかけながらも、私が一番会いたい人が誰か分かっているようだった。
「マリーナが一番会いたいのは、幼い頃に自分を助けてくれた少年。そうだろう?」
フリクの問いに私は小さく頷いた。
あの日……身体の弱かった幼い私が外に出た日。
リーリルと近くの森へピクニックに向かった日。
私はリーリルとはぐれて、そのまま倒れた。
しばらくして、目が覚めた私の下には……
頭から血を流した少年が下敷きになっていた。
どうやら私は体調が悪くて倒れた拍子に崖から落ちたようだった。
泣き喚いて助けを呼ぶ私に何故かその少年は微笑んだ。
「大丈夫だから」、と。
それでも、近くに人を探しに行った私がリーリルを連れてその場所に戻るともうその少年は居なくて。
「……あの日、『弟』は偶然出会った君を救って、亡くなった」
フリクがそう呟いた声で私は顔を上げた。
「そして、傷を負って弱ったことで力が衰弱して、そのまま消えた。俺たちも万能ではないから」
フリクはまるで自分で自分を嘲笑っている様だった。
フリクが何を言っているのか分からない。
頭が理解しようとしてくれない。
「何を……言っているのですか……」
「つまり、君が一番会いたい人にはもう会わせられないということだ」
フリクは視線を落としたまま、話を続けていく。
「俺にとっては君は弟を殺した人間。ただそれだけだった。だから、国民全員に嫌われて仕舞えば良いと思って、無理難題を出したんだ」
「それでも、俺が間違っていたのだと思う……だって、当たり前だが君が弟を殺したわけじゃない」
「それに、国民に嫌われて屋敷から一歩も外に出れなくなった君は、使用人の前では笑顔なのに、部屋に一人になると寂しそうな顔を浮かべていた……決して涙は溢さずに。そんな君を見ていて、俺も気持ちが変わっていった」
「だから、大悪女になった君に『好かれてきて』なんて意味の分からない課題を出したんだ」
フリクが私の頬に手を伸ばしたが、触れる直前で手を止める。
「俺が君に触れる資格はないな」
フリクはそう述べて、悲しそうに笑った。
「ねぇ、マリーナ。これで俺が君に会うのも最後だろう」
「何か言いたいことはある?」
フリクがわざとらしく明るい声を出した。
頭が整理出来ない感覚がするのに、どこか冷静さが戻り始めている自分が怖かった。
それでも、この機会を逃せば、もう私がフリクと話せることはないだろう。
「フリク、貴方はまだ私のことを恨んでいるのですか?」
「恨んでないよ。本当に」
ゆっくり消えていくフリクの姿と合わせて、声も小さくなっていく。
「マリーナ、ごめんね。君を国一番の大悪女にしたのは俺だ」
それだけ言って、フリクの姿がもう見えなくなっていく。
「待って下さい!」
私の大きな声でフリクが消えて行くのが一瞬止まった気がした。
「貴方が何を言おうと、私を大悪女にしたのはフリクではない。フリクの手を取ると決めたのは私です」
「それに私は国一番の悪女で終わるつもりはない。国一番の最高な王女になりますわ」
「これで会うのが最後でも構いません。それでも、どこかで見ていて下さい。私と取引をしたフリクには、私がどんな王女になるのか見守る義務がありますわ」
私の精一杯の勇気はフリクに届いただろうか。
それでも、最後にフリクの声がもう一度聞こえた気がした。
「マリーナ、幸せになって」
言葉に出来ない気持ちが溢れてくるのに、どうすることも出来なくて。
それでも、もう振り返ることもしない。
前に進んでいくしかない。
だって、きっとフリクもどこかで見守っているから。
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