国一番の大悪女は、今から屋敷の外に出て沢山の人達に愛されにいきます

海咲雪

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28.SIDE:CLAVIS《サイド:クラヴィス》

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SIDE:CLAVIS《サイド:クラヴィス》



自国マリス国にいた時は、ずっと外も気軽に出歩けないような状況だった。

そんな生活に慣れていた。

兄に命を狙われ、ずっと息苦しい生活を送っていた。

隠れるように生活する息子に何も言わない父。

それが普通の生活。

強さと優秀さを兼ね備えたものだけが生き残れる世界。

自室にいても訪ねてくるのは、幼い頃から私に使えてくれている侍従じじゅうだけ。

コンコン、というノック音の後に扉が開く。









「クラヴィス『殿下』、本日のご予定ですが……」








侍従の話を聞きながらも、ずっと心は冷めていた。





『マリス国第二王子』、それが生まれながらに私が持っていた身分だった。




権力を求める兄に命を狙われながら、息を潜めるように毎日を生きていた。

話を聞きながらも、どこか心がここにない私を侍従のライがじっと見つめている。




「どうした?」




「お逃げしますか?」




その日が初めてだった。

ライからそんな提案が飛び出たのは。

「何を言っている?」

「隣国で勉学を学ぶために留学するのです。資源豊かな隣国ユーキス国との繋がりを増やすためと述べれば、お父上である陛下も止めはしないでしょう」

「そんなことをして何になる? 状況は何も変わらない」

「そうでしょうか? 隣国に出て学ぶことは、隣国で妃を探すためだと我が国で噂を流すのです。そして、兄殿下にはこの国の政権に興味がないことを強調して植え付ける。何より数年この国を離れることは、今のマリス国の王を狙う者にとっては痛手になる」

ライは私と目を逸さなかった。


「お前は、私に王になって欲しいのだと思っていた」


「私が願うのはクラヴィス殿下の幸せです」


その時、ライが久しぶりに幼い頃のように笑った。

私が思っていたよりもずっと私の侍従は私思いだった。




「貴方様がこの生活から離れたいと言うならば、私はどれだけでも手を貸しましょう」




私はその手を取った。




しばらくして王は私に偽りの公爵子息の身分を用意した。

どうやらマリーナ国での繋がりを求めるより、私の学びたい姿勢を優先したようだった。

いや、きっと私がこの身分に苦しめられていたのを知っていたのだろう。

きっとあれは父なりの優しさだった。


そして、私はユーキス国の学園にいる間だけという時間制限付きの自由を手に入れた。


その自由が嬉しくて、ただ平凡に生活出来ているだけで良かった。

だから、「ユーキス国で噂の王女」なんてどうでも良かった。

良かったはずなのに……初めて見た噂の人物は、噂を信じる令嬢たちに立ち向かっていた。

王女が噂通りの人物であろうがなかろうが、私には関係ない。

彼女が勝手に頑張れば良いだけ。

そう思っていたのに。





令嬢たちに立ち向かう彼女の手が小さく震えているのを私は見てしまった。





そして、興味のままに話しかけた彼女は知れば知るほど眩しくて。



「いつだって諦めずに立ち向かうと決めていますの。だって、きっとそれが格好良い王女というものでしょう?」

「この噂は……私がユーキス国の王女として、国を守った証ですの。どれだけ私が国一番の大悪女と呼ばれようと、それだけは変わらない。私は今のこの状況を全く後悔していないのです」

「私は、自分でユーキス国一番の悪女になることを選んだのです」



彼女を見ていると、王族から逃げた自分が恥ずかしくなるほどだった。

それでも、何より……




あまりに愛おしかった。



私が守りたいと思った。



強くなりたいと思った。



彼女に恥じない人間になりたかった。




彼女はユーキス国の第一王女。

彼女は私が身分を明かして……マリス国第二王子だと知ったらどんな顔をするだろう。

それでも、もう覚悟は決まった。

馬術大会で彼女が練習に励んでいる間に、私は父である王にある許可を取りに行った。

王は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに許可を下ろした。

何も不利益がなかったのだろう。

だから、私はいま筆にインクをつけて机に向かっている。






「マリーナ・サータディア第一王女、貴方に婚約を申し込みたい」






この手紙がマリーナに届くのは、きっともうすぐだから。

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