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20.馬術大会1
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会場に着いた私は、自分の出番の順番を確認していた。
私の出番は、予選の中で三番目のレースだった。
今回の大会はコースにあるハードルのような障害物を超えてゴールを目指す。
そして、そのタイムを競う大会だ。
予選で良いタイムを残した5人だけが決勝に進める。
前のレースが始まり、タイムが記録されていく。
光景を見ているだけで緊張が広がっていくのが分かった。
最後の練習の日、クラヴィスにある質問をされた。
「ねぇ、マリーナ。君はもし優勝出来たら、表彰台の上で何を話すの?」
「え……?」
「前も言ったが、優勝して注目を集めている時に噂とは違う人物だと思わせるような発言をするのも良いだろう。確か優勝者は軽いスピーチをしても良いはずだ。優勝するだけで印象は変わるだろうから、マリーナに任せるが……」
クラヴィスの言葉が頭に残っている。
しかし、どちらにしてもまず優勝しないと。
予選が始まる直前、緊張して固まっていた手が解れていく感覚が分かった。
前に私はクラヴィスにこう言った。
「私には本当に度胸があるのか、それとも度胸があるフリが上手いのか、と。もしかしたら、私はフリが上手いだけかもしれない」
「それでも、いつだって諦めずに立ち向かうと決めていますの。だって、きっとそれが格好良い王女というものでしょう?」
私は国民に嫌われている王女だから……沢山の人々に嫌われているからこそ、自分が誇れるような王女でいると決めた。
緊張の解れた手をもう一度見つめる。
「格好良い王女になるのでしょう?」
私はギュッと何も持っていない手を握って、勇気を出した。
予選が始まっても、どこかまだ地に足が着いていないような感覚だった。
それでも、気づけば私は予選で一番にゴールテープを切っていた。
まだ心臓がドクドクと速なっているのが分かる気がした。
そんな心臓を治めるために、私は決勝が行われるまでの時間をテラスで過ごすことにした。
ほとんどの生徒が馬術大会を見に行っているので、テラスには誰もいない。
「マリーナ」
突然後ろから声をかけられて、ビクッと体が震えたのが分かった。
「クラヴィス、どうしてここに……?」
「会場から出ていくマリーナの姿が見えたから。緊張しているの?」
私は近くに置かれているテーブルに視線を落とした。
どこかクラヴィスと目を合わせるのが恥ずかしかったから。
「不思議と今はもう緊張していないのです。ただ……怖い。優勝出来ないことが怖いんじゃない。優勝することが怖いのです」
私の言葉をクラヴィスはただ静かに聞いていた。
「マリーナ・サータディアという大悪女が優勝すれば、それだけで注目を集める。注目を集めるために出るのですから、当たり前のことですわ……しかし、印象が変わる人もいれば、ただバッシングするだけの人もいるでしょう」
ああ、駄目だわ。
クラヴィスと話していると弱音を吐いてしまう。
心の弱い部分を晒してしまう。
「前も言った通り、この状況になったことに対して全く後悔はしていませんわ。それでも……皆に嫌われ、罵られることが嬉しいわけではない」
私はクラヴィスと目を合わせて、震えた声で言葉を紡いでいく。
「ねぇ、クラヴィス。本当に私が度胸がある『フリ』が上手いということは、ただの強がりとも言えるのかもしれませんね」
震えた声でそう述べた瞬間、クラヴィスが急に私を抱きしめた。
「っ! クラヴィス……!?」
驚いて離れようとする私をクラヴィスがさらに強く抱きしめた。
「マリーナ、君は……どれだけ甘えるのが下手なんだ」
クラヴィスの声もどこか震えているような気がする。
「どうかもっと頼ってくれ。一人で戦ってばかりいては、君の本心に気付けない」
クラヴィスの言葉に瞳が潤んで、視界が霞んだのが自分で分かった。
私の出番は、予選の中で三番目のレースだった。
今回の大会はコースにあるハードルのような障害物を超えてゴールを目指す。
そして、そのタイムを競う大会だ。
予選で良いタイムを残した5人だけが決勝に進める。
前のレースが始まり、タイムが記録されていく。
光景を見ているだけで緊張が広がっていくのが分かった。
最後の練習の日、クラヴィスにある質問をされた。
「ねぇ、マリーナ。君はもし優勝出来たら、表彰台の上で何を話すの?」
「え……?」
「前も言ったが、優勝して注目を集めている時に噂とは違う人物だと思わせるような発言をするのも良いだろう。確か優勝者は軽いスピーチをしても良いはずだ。優勝するだけで印象は変わるだろうから、マリーナに任せるが……」
クラヴィスの言葉が頭に残っている。
しかし、どちらにしてもまず優勝しないと。
予選が始まる直前、緊張して固まっていた手が解れていく感覚が分かった。
前に私はクラヴィスにこう言った。
「私には本当に度胸があるのか、それとも度胸があるフリが上手いのか、と。もしかしたら、私はフリが上手いだけかもしれない」
「それでも、いつだって諦めずに立ち向かうと決めていますの。だって、きっとそれが格好良い王女というものでしょう?」
私は国民に嫌われている王女だから……沢山の人々に嫌われているからこそ、自分が誇れるような王女でいると決めた。
緊張の解れた手をもう一度見つめる。
「格好良い王女になるのでしょう?」
私はギュッと何も持っていない手を握って、勇気を出した。
予選が始まっても、どこかまだ地に足が着いていないような感覚だった。
それでも、気づけば私は予選で一番にゴールテープを切っていた。
まだ心臓がドクドクと速なっているのが分かる気がした。
そんな心臓を治めるために、私は決勝が行われるまでの時間をテラスで過ごすことにした。
ほとんどの生徒が馬術大会を見に行っているので、テラスには誰もいない。
「マリーナ」
突然後ろから声をかけられて、ビクッと体が震えたのが分かった。
「クラヴィス、どうしてここに……?」
「会場から出ていくマリーナの姿が見えたから。緊張しているの?」
私は近くに置かれているテーブルに視線を落とした。
どこかクラヴィスと目を合わせるのが恥ずかしかったから。
「不思議と今はもう緊張していないのです。ただ……怖い。優勝出来ないことが怖いんじゃない。優勝することが怖いのです」
私の言葉をクラヴィスはただ静かに聞いていた。
「マリーナ・サータディアという大悪女が優勝すれば、それだけで注目を集める。注目を集めるために出るのですから、当たり前のことですわ……しかし、印象が変わる人もいれば、ただバッシングするだけの人もいるでしょう」
ああ、駄目だわ。
クラヴィスと話していると弱音を吐いてしまう。
心の弱い部分を晒してしまう。
「前も言った通り、この状況になったことに対して全く後悔はしていませんわ。それでも……皆に嫌われ、罵られることが嬉しいわけではない」
私はクラヴィスと目を合わせて、震えた声で言葉を紡いでいく。
「ねぇ、クラヴィス。本当に私が度胸がある『フリ』が上手いということは、ただの強がりとも言えるのかもしれませんね」
震えた声でそう述べた瞬間、クラヴィスが急に私を抱きしめた。
「っ! クラヴィス……!?」
驚いて離れようとする私をクラヴィスがさらに強く抱きしめた。
「マリーナ、君は……どれだけ甘えるのが下手なんだ」
クラヴィスの声もどこか震えているような気がする。
「どうかもっと頼ってくれ。一人で戦ってばかりいては、君の本心に気付けない」
クラヴィスの言葉に瞳が潤んで、視界が霞んだのが自分で分かった。
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