こわれて

九丸(ひさまる)

文字の大きさ
上 下
7 / 22
第七章

対峙1

しおりを挟む
 友人はあらためて男を見る。
 ダメだ。益々重くなってる。何に憑かれた? 破滅の匂いがする……。
 最近呼び出しても、男は断ってばかりいた。こうして会うのは久しぶりであった。
「どうよ? 最近は? 変わりないかい?」
 いきなり本題には入らずに、友人はじっくり探りを入れることにした。
「見ての通り元気だよ。もう彼女のことも吹っ切れたしね」
 男はいたって普通に返す。
「そうか。それは良かった。じゃあ、前進に乾杯!」
 友人はジョッキを掲げる。
 男もそれに合わせてジョッキを掲げる。
 友人は思う。いっけん普通だし、誰が見てもそう思うだろう。だが、確実に憑かれてる。見立てに間違いはなかった。しかし何が……。
「ところで、風俗はたまに行ってるのか? はまってんじゃないのかあ?」
 友人は揶揄するように聞いた。
 男に違和感を覚えたのは、風俗に行った話を聞いた時だ。その時は原因は分からなかったが、間違いなく風俗はからんでると今は確信している。
 男は自嘲気味に答える。
「あのさあ、そんなに行けるわけないだろ? 金が続かないよ」
「そうなのか? まあ、それなら安心したよ。進めた手前、はまってたらどうしようかと思ってさ」
 男は、ない、ない、と首をふる。
「まあ、でもたまにならいいんじゃね?」
「そうだね。悪いとこではないね」
「良い女でもいたかい?」
 男は少し黙りこんだ。
 友人は考える。場所に憑かれたか、女に憑かれたか。それとも両方か。淀んだ場所に行けば、色んなオモイの集合体にあてられることもある。場所なら行かなければ良いだけの話だが、女となると厄介か。
「あれ? いたなこれは!」
「いや、そんなんじゃないよ」
「まあ、話せよ」
 友人は男が話しやすいようになるべくちゃかして聞いた。それと警戒されないように。
「正直に言うと、何回か行ってる。あ、でもそんなには行ってないよ」
 友人は続けるよう笑って促す。
「お前にこの間話した初めて行った時の子に、まあ、会いに」
 友人はその女が元凶だと察する。男はそんなにはと言ったが、短期間にかなりのめり込んでるであろうことも。
「おい、おい、そんなに気に入ったのか? 俺にも紹介してくれよ。お前がハマるテク俺も味わってみたいよ」
 友人は冗談めかして言ったが、男の顔色が変わった。
「ふざけるな! 彼女は俺のものだ!」
 男はジョッキをテーブルに叩き付けるように置き、語気を荒げた。
「悪い。冗談だよ。そんな怒んなよ」
 男は我に帰り、取り繕うように叩き付けたジョッキにもう一度口をつけて、「いや、こっちこそごめん」と軽く頭を下げた。
 友人は真顔になり男の目を見る。
「少し俺の話しを聞いてくれ」
 男は目線を外した。
「お前が誰に惚れようがハマろうが、それはお前の自由だ。でもな、彼女の職業は風俗だ。もちろん職業に貴賤はないと思う。お前と彼女が良ければそれは構わない」
「……」
「だかお前が一時の快楽を勘違いして、女にのめり込んでるとしたら、ちょっと冷静になれ。彼女はそれが仕事なんだ。彼女は仕事と割りきってサービスもするし、お前に良いことも言うだろう」
 友人は変わらず目線をそらせている男に念を押す。
「良く考えて、お前の一人歩きならやめろ。何度でも言うが、仕事なんだ」
 男は震えながら、独り言のように呟いた。
「彼女は違う。俺と彼女はひとつになんるんだ……。そして、ずっと一緒にいるんだ……」
 友人は回りくどい説得は諦めた。
「俺はお前に憑かれてるって話したの覚えてるだろ? それは、その女だ。そいつが元凶だ」
 反応はないが、かまわず続ける。
「その女はやめろ。お前だって分かってるんだろ本当は? どういう形になるか分からんが、結末は最悪だぞ。いいのかそれで? 俺はやだね。お前が堕ちるのはみたくない。頼むからやめてくれ」
 男は少し笑って友人に顔を向けた。
「仮にもしそうだとしても、もう止まらないよ。それに結末なんてどうにでもなるだろ? お前の得意の霊感擬きも当てにならないかもしれないし」
 そう言って男はテーブルに札を置き、立ち上がる。
「悪い。今日はこれから用あるんだ。じゃあ」
 男は友人が止める間もなく店を後にした。
 友人は急いで男の後を追う。
「悪いが、見過ごせないね。間違いなく悪い方に振れてるお前を。なんせ大学時代にお前には世話になったんでね」
 人込みを挟んで見える男の背中に向けて、友人は投げかけるように呟いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】禁断の絶頂

未来の小説家
恋愛
絶頂を我慢したい彼女の話

【R18】お父さんとエッチした日

ねんごろ
恋愛
「お、おい……」 「あっ、お、お父さん……」  私は深夜にディルドを使ってオナニーしているところを、お父さんに見られてしまう。  それから私はお父さんと秘密のエッチをしてしまうのだった。

王女の朝の身支度

sleepingangel02
恋愛
政略結婚で愛のない夫婦。夫の国王は,何人もの側室がいて,王女はないがしろ。それどころか,王女担当まで用意する始末。さて,その行方は?

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

【R18】私はお父さんの性処理係

神通百力
恋愛
麗華は寝ていたが、誰かが乳房を揉んでいることに気付き、ゆっくりと目を開けた。父親が鼻息を荒くし、麗華の乳房を揉んでいた。父親は麗華が起きたことに気付くと、ズボンとパンティーを脱がし、オマンコを広げるように命令した。稲凪七衣名義でノクターンノベルズにも投稿しています。

彼女の母は蜜の味

緋山悠希
恋愛
ある日、彼女の深雪からお母さんを買い物に連れて行ってあげて欲しいと頼まれる。密かに綺麗なお母さんとの2人の時間に期待を抱きながら「別にいいよ」と優しい彼氏を演じる健二。そんな健二に待っていたのは大人の女性の洗礼だった…

巨根王宮騎士の妻となりまして

天災
恋愛
 巨根王宮騎士の妻となりまして

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

処理中です...