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第七章
対峙1
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友人はあらためて男を見る。
ダメだ。益々重くなってる。何に憑かれた? 破滅の匂いがする……。
最近呼び出しても、男は断ってばかりいた。こうして会うのは久しぶりであった。
「どうよ? 最近は? 変わりないかい?」
いきなり本題には入らずに、友人はじっくり探りを入れることにした。
「見ての通り元気だよ。もう彼女のことも吹っ切れたしね」
男はいたって普通に返す。
「そうか。それは良かった。じゃあ、前進に乾杯!」
友人はジョッキを掲げる。
男もそれに合わせてジョッキを掲げる。
友人は思う。いっけん普通だし、誰が見てもそう思うだろう。だが、確実に憑かれてる。見立てに間違いはなかった。しかし何が……。
「ところで、風俗はたまに行ってるのか? はまってんじゃないのかあ?」
友人は揶揄するように聞いた。
男に違和感を覚えたのは、風俗に行った話を聞いた時だ。その時は原因は分からなかったが、間違いなく風俗はからんでると今は確信している。
男は自嘲気味に答える。
「あのさあ、そんなに行けるわけないだろ? 金が続かないよ」
「そうなのか? まあ、それなら安心したよ。進めた手前、はまってたらどうしようかと思ってさ」
男は、ない、ない、と首をふる。
「まあ、でもたまにならいいんじゃね?」
「そうだね。悪いとこではないね」
「良い女でもいたかい?」
男は少し黙りこんだ。
友人は考える。場所に憑かれたか、女に憑かれたか。それとも両方か。淀んだ場所に行けば、色んなオモイの集合体にあてられることもある。場所なら行かなければ良いだけの話だが、女となると厄介か。
「あれ? いたなこれは!」
「いや、そんなんじゃないよ」
「まあ、話せよ」
友人は男が話しやすいようになるべくちゃかして聞いた。それと警戒されないように。
「正直に言うと、何回か行ってる。あ、でもそんなには行ってないよ」
友人は続けるよう笑って促す。
「お前にこの間話した初めて行った時の子に、まあ、会いに」
友人はその女が元凶だと察する。男はそんなにはと言ったが、短期間にかなりのめり込んでるであろうことも。
「おい、おい、そんなに気に入ったのか? 俺にも紹介してくれよ。お前がハマるテク俺も味わってみたいよ」
友人は冗談めかして言ったが、男の顔色が変わった。
「ふざけるな! 彼女は俺のものだ!」
男はジョッキをテーブルに叩き付けるように置き、語気を荒げた。
「悪い。冗談だよ。そんな怒んなよ」
男は我に帰り、取り繕うように叩き付けたジョッキにもう一度口をつけて、「いや、こっちこそごめん」と軽く頭を下げた。
友人は真顔になり男の目を見る。
「少し俺の話しを聞いてくれ」
男は目線を外した。
「お前が誰に惚れようがハマろうが、それはお前の自由だ。でもな、彼女の職業は風俗だ。もちろん職業に貴賤はないと思う。お前と彼女が良ければそれは構わない」
「……」
「だかお前が一時の快楽を勘違いして、女にのめり込んでるとしたら、ちょっと冷静になれ。彼女はそれが仕事なんだ。彼女は仕事と割りきってサービスもするし、お前に良いことも言うだろう」
友人は変わらず目線をそらせている男に念を押す。
「良く考えて、お前の一人歩きならやめろ。何度でも言うが、仕事なんだ」
男は震えながら、独り言のように呟いた。
「彼女は違う。俺と彼女はひとつになんるんだ……。そして、ずっと一緒にいるんだ……」
友人は回りくどい説得は諦めた。
「俺はお前に憑かれてるって話したの覚えてるだろ? それは、その女だ。そいつが元凶だ」
反応はないが、かまわず続ける。
「その女はやめろ。お前だって分かってるんだろ本当は? どういう形になるか分からんが、結末は最悪だぞ。いいのかそれで? 俺はやだね。お前が堕ちるのはみたくない。頼むからやめてくれ」
男は少し笑って友人に顔を向けた。
「仮にもしそうだとしても、もう止まらないよ。それに結末なんてどうにでもなるだろ? お前の得意の霊感擬きも当てにならないかもしれないし」
そう言って男はテーブルに札を置き、立ち上がる。
「悪い。今日はこれから用あるんだ。じゃあ」
男は友人が止める間もなく店を後にした。
友人は急いで男の後を追う。
「悪いが、見過ごせないね。間違いなく悪い方に振れてるお前を。なんせ大学時代にお前には世話になったんでね」
人込みを挟んで見える男の背中に向けて、友人は投げかけるように呟いていた。
ダメだ。益々重くなってる。何に憑かれた? 破滅の匂いがする……。
最近呼び出しても、男は断ってばかりいた。こうして会うのは久しぶりであった。
「どうよ? 最近は? 変わりないかい?」
いきなり本題には入らずに、友人はじっくり探りを入れることにした。
「見ての通り元気だよ。もう彼女のことも吹っ切れたしね」
男はいたって普通に返す。
「そうか。それは良かった。じゃあ、前進に乾杯!」
友人はジョッキを掲げる。
男もそれに合わせてジョッキを掲げる。
友人は思う。いっけん普通だし、誰が見てもそう思うだろう。だが、確実に憑かれてる。見立てに間違いはなかった。しかし何が……。
「ところで、風俗はたまに行ってるのか? はまってんじゃないのかあ?」
友人は揶揄するように聞いた。
男に違和感を覚えたのは、風俗に行った話を聞いた時だ。その時は原因は分からなかったが、間違いなく風俗はからんでると今は確信している。
男は自嘲気味に答える。
「あのさあ、そんなに行けるわけないだろ? 金が続かないよ」
「そうなのか? まあ、それなら安心したよ。進めた手前、はまってたらどうしようかと思ってさ」
男は、ない、ない、と首をふる。
「まあ、でもたまにならいいんじゃね?」
「そうだね。悪いとこではないね」
「良い女でもいたかい?」
男は少し黙りこんだ。
友人は考える。場所に憑かれたか、女に憑かれたか。それとも両方か。淀んだ場所に行けば、色んなオモイの集合体にあてられることもある。場所なら行かなければ良いだけの話だが、女となると厄介か。
「あれ? いたなこれは!」
「いや、そんなんじゃないよ」
「まあ、話せよ」
友人は男が話しやすいようになるべくちゃかして聞いた。それと警戒されないように。
「正直に言うと、何回か行ってる。あ、でもそんなには行ってないよ」
友人は続けるよう笑って促す。
「お前にこの間話した初めて行った時の子に、まあ、会いに」
友人はその女が元凶だと察する。男はそんなにはと言ったが、短期間にかなりのめり込んでるであろうことも。
「おい、おい、そんなに気に入ったのか? 俺にも紹介してくれよ。お前がハマるテク俺も味わってみたいよ」
友人は冗談めかして言ったが、男の顔色が変わった。
「ふざけるな! 彼女は俺のものだ!」
男はジョッキをテーブルに叩き付けるように置き、語気を荒げた。
「悪い。冗談だよ。そんな怒んなよ」
男は我に帰り、取り繕うように叩き付けたジョッキにもう一度口をつけて、「いや、こっちこそごめん」と軽く頭を下げた。
友人は真顔になり男の目を見る。
「少し俺の話しを聞いてくれ」
男は目線を外した。
「お前が誰に惚れようがハマろうが、それはお前の自由だ。でもな、彼女の職業は風俗だ。もちろん職業に貴賤はないと思う。お前と彼女が良ければそれは構わない」
「……」
「だかお前が一時の快楽を勘違いして、女にのめり込んでるとしたら、ちょっと冷静になれ。彼女はそれが仕事なんだ。彼女は仕事と割りきってサービスもするし、お前に良いことも言うだろう」
友人は変わらず目線をそらせている男に念を押す。
「良く考えて、お前の一人歩きならやめろ。何度でも言うが、仕事なんだ」
男は震えながら、独り言のように呟いた。
「彼女は違う。俺と彼女はひとつになんるんだ……。そして、ずっと一緒にいるんだ……」
友人は回りくどい説得は諦めた。
「俺はお前に憑かれてるって話したの覚えてるだろ? それは、その女だ。そいつが元凶だ」
反応はないが、かまわず続ける。
「その女はやめろ。お前だって分かってるんだろ本当は? どういう形になるか分からんが、結末は最悪だぞ。いいのかそれで? 俺はやだね。お前が堕ちるのはみたくない。頼むからやめてくれ」
男は少し笑って友人に顔を向けた。
「仮にもしそうだとしても、もう止まらないよ。それに結末なんてどうにでもなるだろ? お前の得意の霊感擬きも当てにならないかもしれないし」
そう言って男はテーブルに札を置き、立ち上がる。
「悪い。今日はこれから用あるんだ。じゃあ」
男は友人が止める間もなく店を後にした。
友人は急いで男の後を追う。
「悪いが、見過ごせないね。間違いなく悪い方に振れてるお前を。なんせ大学時代にお前には世話になったんでね」
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