こわれて

九丸(ひさまる)

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第三章

出会い

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 照明をおとした、簡易ベッドが無造作に置かれた小さな部屋。
 欲と色で成り立つそんな空間から、女の舐める音が聞こえる。
 舌を這わす度に男はびくっとなりくぐもった声をあげる。
 大きな声を出したいが、まるで声を出したら負けだと思ってるような、それとも声を出したら己が崩壊し、自分でも見たことがないような、そう、女性的な羞恥をさらけだしてしまいそうな恐怖と葛藤するように男は声をあげる。
「我慢しなくていいんですよ。だって、まかせるままに声出した方が気持ちいいですよ」
 男の心情に気づいたように、女は首筋から乳首に休むことなく舌を這わせながらそう言う。
 舌は脇の下から肘の内側に、優しく流れるようにうつる。
 男は肘の内側がこんなにも、女性でいう『感じる』ということがはっきり分かる部分だと初めて知る。
 そこが男のポイントだと感じた女は、優しく、そして激しく舌先を這わせる。
 その間、女の左手は男の乳首をなぶり、右手は男の内腿に這わせる。
「ねえ、気持ちいいでしょ? 声あげちゃいなよ。ほら、もうすぐ大きくなったの握ってあげるから」
 女の言葉通り、内腿を揉みほぐすように手は男の根元に近づいてくる。
 男は期待と羞恥に根元に触られるのを待つが、女の手は焦らすように触ろうとはしない。
「ねえ、今早くしてって思ってるでしょ? まだダメだよ。その前にもっといいことしてあげるね」
 女は男の脇腹を舐めながら、自然と裏返す。
 男はなされるがままだ。
 舌はうなじから背骨にそうように這い、肩甲骨、そして腰へとくまなく這わされる。
 男はくすぐったいような気持ちいいような感覚に震えながらシーツを強く握る。
「今からいいとこ舐めてあげるね」
 女はおもむろに男の臀部を広げると、躊躇いもなく間に舌先を這わした。
「はうっ!」
 男は激しく波打ち、平時に聞いたら情けなくなるような声をあげる。
「そ、そこはやめて…ください…」
 女は構わず舌を這わせ続ける。
「ダメ……。だって気持ちいいでしょ? ほら」
 舌先を尖らせ男の穴を責める。
「ほら、今度は腰あげて」
 男は言葉とは裏腹に素直に腰をあげる。男の根元は痛いぐらいに起っていた。
 後ろから廻された女の手は乳首をなぶっていたが、ゆっくりと下に這わせてくる。
 へそを経て、女の手は男の先に触る。握らずに、男の先から出た液を、柔らかい指使いで全体になじませるように。
 男はもう声をあげ続けていた。ほんの前の葛藤などなかったかのように。
「恥ずかしいです! そんなとこ! あっ……」
 舌は男の袋に這わせながら、女の手は男のものを優しく上下に擦る。
 いっそ情けない声が出る。
 女は仰向けに男の股の間に顔を入れると、男の先に舌を這わせ始める。
 先全体を丁寧に舐めあげると、それを口に含める。含めながら舌を這わせる。
 男は声をあげ続ける。
 女は今度は男を仰向けにし、男のもの全体を舌全部を使って舐めあげる。そしてゆっくりと飲み込むようにくわえていく。
 男は羞恥に震えながらも、女の顔を見る。
 あれをそんなに深くまで。あっ、唾と液が混ざってぬらぬらしてる……。うっ、手はそんなところに……。なんて卑猥な音がするんだ……。わざと聴かせてるのか……。
 男の思考は微睡んでいる。
 女はふと上目遣いに妖しく男をみやる。
 その女の眼に魅入られ、男はさらに茫我へと堕ちていく。
 女は男の眼を見ながら徐々に激しく顔を動かす。
 それに合わせて、男の声も激しくなる。
「ダメです……。もう、もう出そうです!」
 女は激しく動かしながら、「ん、ん、いいよ、出して、いっぱい……」と、くぐもった声を投げる。
 逝った。男は頭の中に白い火花一色になり、果てた。


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 男の胸に顔を乗せながら、女は寄り添っている。
 男は女の髪の匂いをかぎながら、行為を思い出していた。始まりの優しいキスから果てるまでを反芻するように。
 女の指が優しく男の胸をなぞる。
「私ばっかり責めちゃってゴメンね。いろいろしたかったでしょ?」
「それはそうなんですが……。あまりにも経験したことないことばかりで……。すいません、余裕がなかったです」
 申し訳なさそうな女の声に、本音が口をついた。
 女はいたずらっぽく微笑んだ。
「こういう所は初めて? まさか童貞じゃないよね?」
「童貞ではないんですけど、こういう所は初めてです」
 女の顔がパッと明るくなった。
「そうなんだ! じゃあ、私が初体験の相手だね! おめでとう、風俗デヴュー!」
 男は微妙に、困ったような声で、「何かその言い方も……」と答えるのが精一杯だった。
 屈託ない女の顔を見る。始まる前は余裕がなく、今まじまじとやっと見ることができた。
 女はかわいい部類には入るだろうが、何処にでもいそうな普通の顔立ちだ。ただし眼を除けば。眼の造りが変わっているとかではなく、何というか、魅入られる。何でも言うことを聞いてしまいそうに。それ以外は身体も細身で胸がそんなにあるわけでもない。ただ眼に魅入られる。我を失う程に。
「もうすぐ時間だからゆっくりできないけど、また来てね。ここに来るときは必ず私を指名して。約束よ。私はあなたの初めての女なんだからね」
 女はやや長めのキスをすると、最後に一言付け加える。
「営業じゃないから。本当にあなたに逢いたいの……」
 魅入られる。
 男は思う。また逢いに来ると。

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