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分かりやすい3
分かりやすい
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さて、どう詰めようか。それとも何も言わずに立ち去るべきか。
考えながらコーヒーを一口飲むと、少し酸味のある軽く薄い味が口の中に広がる。まるでツトムみたいだ。昔ながらの喫茶店の重くて苦味のあるコーヒーが恋しくなる。
「ところで、これからどうしよっか? 飯まだだろ? なに食べたい?」
能天気そうな声がわたしを引き戻す。
わたしは食べる気もないのに任せるよと言って、垂れる前髪を右手でかきあげながらストローに口をつけるツトムを見る。
透明なストローが吸い上げられたコーヒーで黒く埋められていくのを見て、わたしの心もどす黒いもので満たされていく。
ツトムはストローから口を離して、「そうだなあ。食事系パンケーキとかどう? マキも好きだろ?」と出した提案とも確認とも取れる言葉には自信めいた響きも感じる。
だけど、そんなことは一言も言ったことがない。なるほどね。相手はそういうのが好きなんですね。
わたしを満たしていたどす黒いものが弾けた。
「ねえ、ツトム。わたしの友達のユリカ覚えてる?」
ツトムはわたしを見て、それから少し考えるように右斜め上に視線を外した。
「ほら、三ヶ月前くらいかな。みんなで飲んだ時にいたでしょ? 細くてちょっと派手な感じの」
ツトムは視線をわたしに戻して、「おお、いたね! ユリカちゃんね。思い出したよ」と疑問が解けてスッキリしたように笑った。
スッキリしているところ悪いけれど、わたしにユリカかなんて友達はいない。どうせ覚えてないだろうと適当に言った名前だ。本番はこれからだから。
「でね、ユリカかが見たんだって。ツトムがかわいい女の子と歩いてるとこ」
わたしのゆっくりとしたもの言いに、ツトムはピシッと固まる。
ツトムはひきつったような笑顔を見せて、慌てたようにストローに口をもっていく。アイスコーヒーが勢いよく吸い込まれて、グラスの三分の一くらまで減った。カランっと氷がグラスにぶつかる音が、わたし達の間に軽く響き渡る。
わたしは温くなったコーヒーを口に含み、ツトムの言葉を待つ。
待ってる間に初めて知る。目が泳ぐって本当にあるんだと。
ツトムは咳払いを一つして、「いや、それはあれだよ、そう! 従姉だよ! そうだよ、東京の従姉が遊びに来たときだなあ、きっと」、そう言ったは良いけどしどろもどろだ。
わたしは追い討ちをかける。
「そっかあ。その従姉とはお手てつなぐほど仲良いんだね」
ツトムのしそうなことはだいたい分かる。わたしにしてくれたことを思い出せば良いだけだから。
「て、手なんてつないでたかなあ……。あ、そうだ! はぐれないようにつないだかも!」
知らない、覚えてないって言えばいいのに、バカ正直に自分のしたことに理由をつけていく。それにしても、こうも簡単にカマかけに引っ掛かるとは。
このまま全部の行動も洗い出せそうだけれど、それはあまりにも楽な作業になりそうで、わたしはやる気をなくした。
「ツトム。わたしね、嘘は嫌いなの」
わたしは静かな笑みを向けた。
考えながらコーヒーを一口飲むと、少し酸味のある軽く薄い味が口の中に広がる。まるでツトムみたいだ。昔ながらの喫茶店の重くて苦味のあるコーヒーが恋しくなる。
「ところで、これからどうしよっか? 飯まだだろ? なに食べたい?」
能天気そうな声がわたしを引き戻す。
わたしは食べる気もないのに任せるよと言って、垂れる前髪を右手でかきあげながらストローに口をつけるツトムを見る。
透明なストローが吸い上げられたコーヒーで黒く埋められていくのを見て、わたしの心もどす黒いもので満たされていく。
ツトムはストローから口を離して、「そうだなあ。食事系パンケーキとかどう? マキも好きだろ?」と出した提案とも確認とも取れる言葉には自信めいた響きも感じる。
だけど、そんなことは一言も言ったことがない。なるほどね。相手はそういうのが好きなんですね。
わたしを満たしていたどす黒いものが弾けた。
「ねえ、ツトム。わたしの友達のユリカ覚えてる?」
ツトムはわたしを見て、それから少し考えるように右斜め上に視線を外した。
「ほら、三ヶ月前くらいかな。みんなで飲んだ時にいたでしょ? 細くてちょっと派手な感じの」
ツトムは視線をわたしに戻して、「おお、いたね! ユリカちゃんね。思い出したよ」と疑問が解けてスッキリしたように笑った。
スッキリしているところ悪いけれど、わたしにユリカかなんて友達はいない。どうせ覚えてないだろうと適当に言った名前だ。本番はこれからだから。
「でね、ユリカかが見たんだって。ツトムがかわいい女の子と歩いてるとこ」
わたしのゆっくりとしたもの言いに、ツトムはピシッと固まる。
ツトムはひきつったような笑顔を見せて、慌てたようにストローに口をもっていく。アイスコーヒーが勢いよく吸い込まれて、グラスの三分の一くらまで減った。カランっと氷がグラスにぶつかる音が、わたし達の間に軽く響き渡る。
わたしは温くなったコーヒーを口に含み、ツトムの言葉を待つ。
待ってる間に初めて知る。目が泳ぐって本当にあるんだと。
ツトムは咳払いを一つして、「いや、それはあれだよ、そう! 従姉だよ! そうだよ、東京の従姉が遊びに来たときだなあ、きっと」、そう言ったは良いけどしどろもどろだ。
わたしは追い討ちをかける。
「そっかあ。その従姉とはお手てつなぐほど仲良いんだね」
ツトムのしそうなことはだいたい分かる。わたしにしてくれたことを思い出せば良いだけだから。
「て、手なんてつないでたかなあ……。あ、そうだ! はぐれないようにつないだかも!」
知らない、覚えてないって言えばいいのに、バカ正直に自分のしたことに理由をつけていく。それにしても、こうも簡単にカマかけに引っ掛かるとは。
このまま全部の行動も洗い出せそうだけれど、それはあまりにも楽な作業になりそうで、わたしはやる気をなくした。
「ツトム。わたしね、嘘は嫌いなの」
わたしは静かな笑みを向けた。
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