Iced coffee

九丸(ひさまる)

文字の大きさ
上 下
3 / 5
分かりやすい3

分かりやすい

しおりを挟む
 さて、どう詰めようか。それとも何も言わずに立ち去るべきか。

 考えながらコーヒーを一口飲むと、少し酸味のある軽く薄い味が口の中に広がる。まるでツトムみたいだ。昔ながらの喫茶店の重くて苦味のあるコーヒーが恋しくなる。

「ところで、これからどうしよっか? 飯まだだろ? なに食べたい?」

 能天気そうな声がわたしを引き戻す。

 わたしは食べる気もないのに任せるよと言って、垂れる前髪を右手でかきあげながらストローに口をつけるツトムを見る。

 透明なストローが吸い上げられたコーヒーで黒く埋められていくのを見て、わたしの心もどす黒いもので満たされていく。

 ツトムはストローから口を離して、「そうだなあ。食事系パンケーキとかどう? マキも好きだろ?」と出した提案とも確認とも取れる言葉には自信めいた響きも感じる。

 だけど、そんなことは一言も言ったことがない。なるほどね。相手はそういうのが好きなんですね。

 わたしを満たしていたどす黒いものが弾けた。

「ねえ、ツトム。わたしの友達のユリカ覚えてる?」

 ツトムはわたしを見て、それから少し考えるように右斜め上に視線を外した。

「ほら、三ヶ月前くらいかな。みんなで飲んだ時にいたでしょ? 細くてちょっと派手な感じの」

 ツトムは視線をわたしに戻して、「おお、いたね! ユリカちゃんね。思い出したよ」と疑問が解けてスッキリしたように笑った。

 スッキリしているところ悪いけれど、わたしにユリカかなんて友達はいない。どうせ覚えてないだろうと適当に言った名前だ。本番はこれからだから。

「でね、ユリカかが見たんだって。ツトムがかわいい女の子と歩いてるとこ」

 わたしのゆっくりとしたもの言いに、ツトムはピシッと固まる。

 ツトムはひきつったような笑顔を見せて、慌てたようにストローに口をもっていく。アイスコーヒーが勢いよく吸い込まれて、グラスの三分の一くらまで減った。カランっと氷がグラスにぶつかる音が、わたし達の間に軽く響き渡る。

 わたしは温くなったコーヒーを口に含み、ツトムの言葉を待つ。

 待ってる間に初めて知る。目が泳ぐって本当にあるんだと。

 ツトムは咳払いを一つして、「いや、それはあれだよ、そう! 従姉だよ! そうだよ、東京の従姉が遊びに来たときだなあ、きっと」、そう言ったは良いけどしどろもどろだ。

 わたしは追い討ちをかける。

「そっかあ。その従姉とはお手てつなぐほど仲良いんだね」

 ツトムのしそうなことはだいたい分かる。わたしにしてくれたことを思い出せば良いだけだから。

「て、手なんてつないでたかなあ……。あ、そうだ! はぐれないようにつないだかも!」

 知らない、覚えてないって言えばいいのに、バカ正直に自分のしたことに理由をつけていく。それにしても、こうも簡単にカマかけに引っ掛かるとは。

 このまま全部の行動も洗い出せそうだけれど、それはあまりにも楽な作業になりそうで、わたしはやる気をなくした。

「ツトム。わたしね、嘘は嫌いなの」

 わたしは静かな笑みを向けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人

白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。 だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。 罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。 そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。 切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

処理中です...