あめのじょう日記

九丸(ひさまる)

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第二章

耀之助とご主人様に会う

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 しらない場所をしばらく進んで、男は白い大きなかたまりの前でとまった。
 男は走るスカスカのかたまりからおりて、白い大きなかたまりの中にはいってった。
 カベにかこまれた薄暗いなかを進んで、茶色のドアの前でとまった。
 男はスカスカのかたまりをそこにおいて、おいらがはいったハコをもってドアの前にたった。
 男はいきなりおいらの頭をハコの中におしこんだ。
「なにすんだよ!」
「ごめんね。ちょっと隠れててね」
 おいらはあばれたけど、男におさえつけられて、あきらめておとなしくした。だってむだだしね。
 ガチャって音がした。男がドアをあけたみたいだ。
そしたら、いきなり声が聞こえたんだ。
「おい、下僕!どこいってたんだよ!なんかうまいもんくれよ!」
「ただいま、耀之助。ありがとう。出迎えてくれたんだね」
 ようのすけとよばれたヤツは男にさらにいった。
「まさか手ぶらじゃないだろうな? あれくれよ、あのちゅうちゅう吸うやつ」
「ちょっと、耀之助通してね。あとで、かまってあげるから」
 ようのすけとよばれたヤツは、それでもくいついてたみたいだけど、男はそのまま歩いてるみたいだ。
 スーってひきずるみたいな音がして、またスー、タン、カチって音がした。
暗いハコの中にいても、明るくなったのがわかった。
 いきなりふたをあけられた。
「なに!? まぶし!」
おいらはいきなり明るくなって、ビックリしてさけんだ。
 ゆっくりと目をあけたら、まわりが茶色カベでかこまれた部屋の中だった。
 男は、おいらをハコの中からだして、なんか緑っぽい、ちょっとざらざらしたものの上においた。部屋の中の下はぜんぶそれだった。
 男はおいらの頭に手をおいて、
「雨之丞君、ここが僕の家だよ。今日からここで一緒くらすんだ。あらためてよろしくね」
っていった。
 おいらは頭をなでられながら、キョロキョロまわりをみわたした。
みたことないものばっかりだった。
部屋のはしっこになんかしかくい茶色のハコがあって、上にしらないものがいっぱいのってた。部屋の上のカベにはまぶしく光ってる、ヒモがついてるものや、ほかにもしらないものだらけだ。
それに、なんかいい匂いがする。
おいらがいた病院とはちがう匂いだ。
 男はおいらをみていった。
「さて、これから君に新しい家族を紹介したいんだけど、いっぺんには難しいしね。どの子からにしようかな」
 頭をなでられながら、おいらはあいかわらずキョロキョロしてた。
そしたら、そとからガリガリする音がきこえてきた。
「耀之助だな、これは。そうだ!最初は耀之助にしよう。あの子なら大丈夫そうだし」
 男はおいらをなでるのをやめて、そこだけ白いカベのほうに歩いてった。
そして、白いカベを横にずらした。
そしたら、いきなり茶色のかたまりがとびこんできた!
「なに無視してんだよ!はよなんかくれよ!」
「ちょっと、耀之助痛いよ!」
ようのすけって茶色のヤツは、男の足にまとわりついて、爪たててた。
「げぼく!はよ、はよ!」
おいらのことは見えてないみたいに、痛がる男をおかまいなしにせめてた。
 男は、もう!っていって、ようのすけをだっこした。
「耀之助、君に紹介したい子がいるんだ。新しい家族だよ」
 そういって、男はおいらにちかづいてきて、ようのすけをちょっとはなれたばしょにおいた。
なんておっきんだ!おいらはビックリした。
父ちゃん母ちゃんよりもはるかにおっきい!
 おいらがビックリしてると、ようのすけがおいらをみた。
ようのすけはじっとおいらをみて、すぐに目をそらして、男のほうにいこうとしてた。
 おいらは、みられて怖くなって、背中丸めて、前足に力いれて、ようのすけにいった。
「な、なんだよ!おまえなんか怖くないぞ!」
 おいらは、ほんとは怖いけど、ようのすけにおもいっきりパンチした。
でもぜんぜん顔にとどかなかった。
 ようのすけはまたおいらをみて、ふんって感じで、パンチしてきた。
「うわっ!」
 おいらはころがされてた。パンチはぜんぜん痛くなかったけど。
 ころがったおいらを、ようのすけは右足で、さらにころがした。
「ちくしょう!やめろよ!」
 おいらはていこうしたけど、ようのすけにはぜんぜんかなわなかった。
「耀之助、じゃれるのはやめな」
男はそういって、ようのすけをまただっこした。
「下僕、なんだよこいつは。新入りか?」
ようのすけはそういって、上からおいらをみおろした。
 ようのすけはあくびして、おいらにいった。
「よう、おまえ新入りみたいだな」
「だったらなんだよ!」
「おれはようのすけだ。まあ、よろしくな」
 おいらはキョトンとした。
「ああ、それと、このおれをだいてんのは、下僕だ。おぼえときな」
 下僕とよばれた男は、おとなしくなったおいらをみて大丈夫とおもったのか、ようのすけを、おいらのそばにおいた。
「耀之助、雨之丞君だよ。仲良くしてあげてね」
「おまえ、あめのじょうってんだな。まあ、さっきのは挨拶がわりだ。おれがこれからいろいろ教えてやるよ」
ようのすけはそういって、おいらの頭に右足をおいて、鼻くっつけてきた。
なんか、むずがゆかったけど、悪い気はしなかった。
悪いいやつじゃなさそうだ。
 おいらはようのすけにいった。
「よ、よろしくね。おいらはあめのじょう」
「さっき、下僕にきいたよ」
ようのすけはちょっと笑っていった。
 おいらは、さっきから不思議におもってることをきいた。
「下僕ってなに?」
 ようのすけは男を、チラッとみて答えた。
「こいつのことだよ。いいか。こいつはおれたちの下僕だ。ようは、なんでもゆうこときくヤツだ」
「なんでもきいてくれるの?」
「まあ、やりかたしだいだな。これからそれも教えてやるよ」
 おいらたちがしゃべってるのみて、男は安心していった。
「良かった。さすが耀之助。雨之丞君も安心したみたいだね」
「さて、僕はもうすぐ仕事にいかなきゃならないんだ。でも、すぐに僕の彼女が帰ってくるから心配しないでね」
「男はそういって、おいらとようのすけの頭をなでた。
「耀之助、僕は行くけど、雨之丞君をよろしくね。多分、あと十五分くらいで、りえがくるから」
そういって、なごりおしそうに部屋をでてった。

 ようのすけとおいらは、下僕がいなくなってから、いろいろ話した。
「まあ、おれのことは、そうだなあ。よう兄とよびな。おまえはきょうからおれの弟だ」
「おいらは弟になるの? 兄ちゃんは別にいるよ? おいらだけさらわれてきたんだ……」
「そうか。まあ、兄貴とはなればなれになって、さみしいだろうけど、すぐになれるさ。おまえには今日からいっぱいの姉兄ができたんだからな」
「いっぱいの姉兄?」
「そうだ。おれとおまえをいれて、六姉弟だ。あとで、あわせてもらえるさ。おれたちはみんなこの家でう産まれたんだ。母ちゃんはどっかにいってしまったんだけどな。父ちゃんは顔もしらない」
「おいら大丈夫かな……」
急に不安になっておいらはきいた。
「まあ、心配すんな。みんな受け入れてくれるさ」
「そうかなあ……」
「それはそうと、おまえに注意しておくことがある」
よう兄はそういって続けた。
「いいか。この家ではさからっちゃいけないヤツがいる。まずは、おれのいもうとのアンネローゼ。つうしょうあんこだ」
「おいらの姉ちゃんになるんだね」
「そうだ。おれの妹で、おまえの姉貴になる。だがな、ぜったいにさからうなよ。ちょっとき難しいヤツだ。まあ、普段は優しいから問題はないが、怒らすとヤバイ」
「う、うん。おぼえとく」
「それと、これから帰ってくる、ご主人様だ」
「ご主人様?」
「そうだ。ご主人様だ。おれたちに飯をくれて、かわいがってくれる人だ」
「下僕はそうじゃないの?」
「ははっ。まあ、下僕もそうにちがいないが、ヤツはおれたちの下だ。ご主人様はちがう。この家の女王だ」
「女王ってなに?」
「この家で一番えらいってことだ」
 それをきいて、おいらはすごく怖くなった。
「おいら、大丈夫かな……。ご主人様にきらわれないかなぁ……」
「大丈夫だ。心配すんな。ご主人様は優しいから。まあ、怒らすと怖いけど……」
おいらは安心していいのか、心配したらいいのか、わかんなくなった。
 そのとき、ガチャって音がして、
「ただいまー」
って答えがきこえてきた。
「きた!ご主人様だ!」
よう兄が、白いカベにむかって走ってった。
「あれ? 耀のおでむかいはないのかな? さては寝てるなぁ」
 よう兄はそれをきいて、白いカベをガリガリしだした。
「ああっ!そっちの部屋に入れっぱなしにしないでっていったのにー!」
 白いカベがあいて、病院のおばちゃんより、かなり若くて細い、髪の長い女がはいってきた。
そして、いきなりよう兄をつかんで、
「こらっ!耀!ガリガリしちゃダメでしょ!」
って、よう兄は顔をぐりぐりされた。
「おかえりー、ご主人様!おれのせいじゃないよ!下僕のせいだから!」
よう兄はやけに嬉しそうだ。
下僕のときとなんかちがう。
「こらこら、あたしがいなくてさみしかったのか?こいつめー」
「ご主人様、下僕からなんにももらってないから、なんかくれよ!ちゅうちゅうするやつがいい!」
「耀、ちょっと待ってて。あたし着替えるから。そしたら、みんなに美味しいのをあげよう」
 ご主人様は、よう兄にそういって、顔をあげた。
そしたら、おいらと目があった。
「……」
「……」
「ん? なに? このちっこいのは?」
ようにいがご主人にいった。
「ご主人様、こいつはあめのじょう。下僕がつれてきたんだよ」
 ご主人様はおいらにちかづいてきた。
そして、しゃがんで、おいらのことをみおろした。
おいらはよう兄の話をきいてたから、怖くてちっちゃくなってふるえた。
「誰だい君は? まあ、ちっちゃくてかわいいなぁ!大丈夫だよ。そんなにふるえなくても」
そういって、おいらをだっこした。
「なに、なに、どっからきたんだい? 大丈夫だから、そんなにふるえないでね」
 ご主人様は、おいらを胸にだいて、ギュッとしてくれた。
なんかあったかくて、いい匂いがする。
下僕のときもあったかかったけど、なんかちがう。ちょっと母ちゃんみたいだ。
 ご主人様はおいらを優しくおいて、
「ちょっと待ってね。確認するから」
っていって、なんかしかくいの持って、それを耳にちかづけた。
そして、なんか一人でしゃべりはじめた。
「あ、もしもし、よしお。あたしだけど。帰ってきたら、なんかちっこくて可愛いのがいるんだけど」
「はあ? もらってきたって、なんなの!相談もなしに!どういうつもり!」
「可愛かったからって、お前は子供か!どうすんのよ、この子!」
「だから、確かに可愛いけど、なに? 出会ってしまっただー!? ふざけんな!」
「雨之丞って、なに勝手に名前決めてんのよ!」
「いい? あたし明日休みだから、帰って来たら説教だよ!ちょっと、お客様来たから切るって、おい!」
 おいらはご主人様の声をきいて、よう兄のいってることがよくわかった。
 ご主人様はしかくいのをおいて、またおいらをだっこした。
「もう。こんなに可愛かったから離せないじゃん」

 こうしておいらは、よう兄とご主人様にあったんだ。
おいらはちょっとだけ下僕の心配をした。

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