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第3話 藪の中へ連れ込まれる
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とそこへ、部長がオフィスに戻ってきた。
「どうした?」
「どうしたもこうしたも、こいつが発注の数を間違えて大変なことになってるんだよ」
川瀬が不遜に答える。
だからわたしじゃないのに。
「1000個のところ100個」
部長が資料を手に取る。
「そう。もう土下座するしかないな。如月、おまえ行ってこい」
え、わたし一人で?
戸惑うわたしの横で、冷静に部長が言った。
「責任は検収者にあるものですよ。土下座するなら川瀬さんの役目です」
「なんで俺が!」
川瀬が激昂する。
「しかもこの発注、川瀬さんがしましたよね?」
部長は発注の稟議書を川瀬さんに突きつけ、検収印を押す欄をさし示した。
そこには確かに起案者川瀬の印が押してある。
「え、俺?」
川瀬は闘護の手から書類を奪い取って食い入るように見つめた。
「そんなに見たって事実は変わりませんよ。とにかく、この事態をなんとかしましょう。如月さん、エービー社に連絡を取って在庫にあまりがあるか、ないなら最短でいつ発注可能か聞いてみて」
「あ、はい」
「わたしは納品先に再度数量の確認を取ってみよう」
闘護は川瀬から連絡先を受け取ると、デスクへ戻って電話をかけ始めた。
わたしはわたしでエービー社に電話を掛ける。
川瀬は一人手持ち無沙汰にマウスをカチカチと鳴らしていた。
*******
闘護と納品先を出たのは、夜の9時頃だった。
エービー社に問い合わせたところ、在庫にあまりはないが、夕方仕上がると言うのでそれを待って新潟県にある納品先まで届けに行ったのだ。
遅くなってしまったが、先方はグランドオープンに間に合ってよかったと言ってくれていた。
「部長、ありがとうございました」
ここまで闘護が社用車のトラックを運転してきてくれたのだ。
今も帰りの道を運転してくれている。
「いや。こちらこそ付き合わせて悪かった。わたしと川瀬だけでもよかったんだが、担当がいた方がいいと思ったんだ」
納品先のクラックショップはわたしが注文を取り付けてきた店だった。
けれど、大口の注文で新人には荷が重いだろうと川瀬が自分でやると言い出した案件だった。
「おかげで丸くおさまってよかったよ。日頃の如月さんの対応がよかったからうまくいったんだ。ありがとうね」
「そんなーーわたしの起こした失敗だったので」
発注数を間違えたのは川瀬だ。
でも、今言われたみたいにわたしが担当なんだから、もっと責任を持つべきだった。
「反省するのはいいが、あまり自分を責めるなよ。今回のことは勉強になっただろうが、君が悪いわけじゃない。むしろ、部長であるわたしの監督不行き届きだよ。すまなかったね」
部長がわたしに頭を下げるので、慌ててしまう。
「家に着く頃は夜中になってしまうね。家の人は大丈夫?」
「一人暮らしなので、そのへんは大丈夫です」
「そうか。だけどこの先渋滞だな」
闘護の視線に合わせてナビの画面に目をやると、次のインターから先が赤いラインで引かれていた。
闘護がハイウェイラジオをつける。
するとこの先で事故渋滞が発生しているとアナウンスをしていた。
大型のトラックが横転して道を塞ぎ、解消の見込みはたってないと言う。
そのタイミングでわたしのお腹が鳴ってしまった。
やだ、最悪。
そう思ったけれど、闘護はふっと笑って、
「高速降りて何か食べに行こうか?」
と言った。
「すいません。お昼、カロリークッキーだけで」
「そっか。会議もあったしな。あんまり夜遅く連れ回してセクハラとか言われるのは勘弁なんだけど」
いつもみている部長とは違う、少し砕けた言い方にわたしも少し安心する。もっとしゃべりにくい人かと思っていたけど、行きの高速で助手席に乗っていても緊張はするけど嫌な気はしなかった。
「言わないです。やきとり食べたいです」
「やきとり? ピンポイントだな。まだ新潟抜けれてないから、いい店あるかわからないけどいい?」
「このまま高速進んでトイレも行けなくなるよりはマシかと」
「それはそうだな。よしじゃあ次のインターで降りるよ」
だけど、わたしたちは田舎を舐めてた。
東京じゃ朝まで営業している店なんてザラだけど、降り立った田舎の地では、24時間営業どころか『店』というものがなかった。
「ごめん」
闘護がそう言ったのは、その寂れた街並みに対してだと思った。
けれど違った。
「俺、ちょっと行かなきゃ」
「え、行くってどこにですか」
闘護は最寄りの道の駅の駐車場に入り車を停めた。
「ごめん、ちょっとトイレ。すぐ戻るよ。車、鍵かけて待ってて」
闘護はそう焦った様子で言うと、車を降りてどこかへ駆けて行った。
一体なんだというのだろう。
それから30分経っても闘護の帰ってくる気配はない。
わたしもトイレに行きたくなってきた。
道の駅はもう閉まっていたが、付随のトイレは開いているようだ。
わたしは車を降りて、トイレに向かった。
広い駐車場には結構な台数の車が停まっていた。
大型車の休憩スポットとしてもここは使われているのだろう。
わたしが用を足して、トイレの出口を出たところだった。
急に後ろから何者かにはがいじめにされた。
口も抑えられて声も出せない。
タバコ臭い指がわたしの口にかまされる。
これってもしかしてやばくない?
わたしはトイレの建物の後ろの薮に引き摺り込まれていた。
************************************
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「どうした?」
「どうしたもこうしたも、こいつが発注の数を間違えて大変なことになってるんだよ」
川瀬が不遜に答える。
だからわたしじゃないのに。
「1000個のところ100個」
部長が資料を手に取る。
「そう。もう土下座するしかないな。如月、おまえ行ってこい」
え、わたし一人で?
戸惑うわたしの横で、冷静に部長が言った。
「責任は検収者にあるものですよ。土下座するなら川瀬さんの役目です」
「なんで俺が!」
川瀬が激昂する。
「しかもこの発注、川瀬さんがしましたよね?」
部長は発注の稟議書を川瀬さんに突きつけ、検収印を押す欄をさし示した。
そこには確かに起案者川瀬の印が押してある。
「え、俺?」
川瀬は闘護の手から書類を奪い取って食い入るように見つめた。
「そんなに見たって事実は変わりませんよ。とにかく、この事態をなんとかしましょう。如月さん、エービー社に連絡を取って在庫にあまりがあるか、ないなら最短でいつ発注可能か聞いてみて」
「あ、はい」
「わたしは納品先に再度数量の確認を取ってみよう」
闘護は川瀬から連絡先を受け取ると、デスクへ戻って電話をかけ始めた。
わたしはわたしでエービー社に電話を掛ける。
川瀬は一人手持ち無沙汰にマウスをカチカチと鳴らしていた。
*******
闘護と納品先を出たのは、夜の9時頃だった。
エービー社に問い合わせたところ、在庫にあまりはないが、夕方仕上がると言うのでそれを待って新潟県にある納品先まで届けに行ったのだ。
遅くなってしまったが、先方はグランドオープンに間に合ってよかったと言ってくれていた。
「部長、ありがとうございました」
ここまで闘護が社用車のトラックを運転してきてくれたのだ。
今も帰りの道を運転してくれている。
「いや。こちらこそ付き合わせて悪かった。わたしと川瀬だけでもよかったんだが、担当がいた方がいいと思ったんだ」
納品先のクラックショップはわたしが注文を取り付けてきた店だった。
けれど、大口の注文で新人には荷が重いだろうと川瀬が自分でやると言い出した案件だった。
「おかげで丸くおさまってよかったよ。日頃の如月さんの対応がよかったからうまくいったんだ。ありがとうね」
「そんなーーわたしの起こした失敗だったので」
発注数を間違えたのは川瀬だ。
でも、今言われたみたいにわたしが担当なんだから、もっと責任を持つべきだった。
「反省するのはいいが、あまり自分を責めるなよ。今回のことは勉強になっただろうが、君が悪いわけじゃない。むしろ、部長であるわたしの監督不行き届きだよ。すまなかったね」
部長がわたしに頭を下げるので、慌ててしまう。
「家に着く頃は夜中になってしまうね。家の人は大丈夫?」
「一人暮らしなので、そのへんは大丈夫です」
「そうか。だけどこの先渋滞だな」
闘護の視線に合わせてナビの画面に目をやると、次のインターから先が赤いラインで引かれていた。
闘護がハイウェイラジオをつける。
するとこの先で事故渋滞が発生しているとアナウンスをしていた。
大型のトラックが横転して道を塞ぎ、解消の見込みはたってないと言う。
そのタイミングでわたしのお腹が鳴ってしまった。
やだ、最悪。
そう思ったけれど、闘護はふっと笑って、
「高速降りて何か食べに行こうか?」
と言った。
「すいません。お昼、カロリークッキーだけで」
「そっか。会議もあったしな。あんまり夜遅く連れ回してセクハラとか言われるのは勘弁なんだけど」
いつもみている部長とは違う、少し砕けた言い方にわたしも少し安心する。もっとしゃべりにくい人かと思っていたけど、行きの高速で助手席に乗っていても緊張はするけど嫌な気はしなかった。
「言わないです。やきとり食べたいです」
「やきとり? ピンポイントだな。まだ新潟抜けれてないから、いい店あるかわからないけどいい?」
「このまま高速進んでトイレも行けなくなるよりはマシかと」
「それはそうだな。よしじゃあ次のインターで降りるよ」
だけど、わたしたちは田舎を舐めてた。
東京じゃ朝まで営業している店なんてザラだけど、降り立った田舎の地では、24時間営業どころか『店』というものがなかった。
「ごめん」
闘護がそう言ったのは、その寂れた街並みに対してだと思った。
けれど違った。
「俺、ちょっと行かなきゃ」
「え、行くってどこにですか」
闘護は最寄りの道の駅の駐車場に入り車を停めた。
「ごめん、ちょっとトイレ。すぐ戻るよ。車、鍵かけて待ってて」
闘護はそう焦った様子で言うと、車を降りてどこかへ駆けて行った。
一体なんだというのだろう。
それから30分経っても闘護の帰ってくる気配はない。
わたしもトイレに行きたくなってきた。
道の駅はもう閉まっていたが、付随のトイレは開いているようだ。
わたしは車を降りて、トイレに向かった。
広い駐車場には結構な台数の車が停まっていた。
大型車の休憩スポットとしてもここは使われているのだろう。
わたしが用を足して、トイレの出口を出たところだった。
急に後ろから何者かにはがいじめにされた。
口も抑えられて声も出せない。
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わたしはトイレの建物の後ろの薮に引き摺り込まれていた。
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