湖の民

影燈

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「気が付いた?」
 話しかけてきたのは、紗和だった。


 紗和が、湖から気を失っている令を引き上げてくれたらしい。

「紗和さん――どうして」

「私はここで、鬼憑病を治す薬の研究を続けていたの。その原因となった毒の解毒もできる薬。完成したわよ」

「ほんとですか!?」
 紗和は、微笑んでうなずいた。

「もう、半井の元には届いているわ。帰りましょう」

 紗和が手を差し伸べてきた。
 令はうなずき、しっかりとその手を握った。





 家に帰ると、ごはんのいい匂いがしていた。

 務が作ったのだろうか。それとも、隣のおばちゃんが来てくれているのだろうか。

 家に入ると、半井が笑顔で座っていた。
 令は、その姿を見て、涙が止まらなくなった。

 助かった――。
 お母さんが、言ったとおりだった。

「令、」
 半井は、令に気づくと、
「おかえり」
と言った。

「ただいま」
そんな当たり前のセリフを言えることが、こんなにもうれしいなんて。

でも、
「どうしたの。このきんぴらものすごくおいしそう」

 食卓に並ぶ料理はどれもきちんとしている。
まるで、玄人が作ったような……

「おいしそう、じゃなくておいしいんだよ」
 そう言っておくから出てきたのは、真名だった。

「真名――」
 令は驚いて一瞬言葉を失った。

「邪魔しているよ」
 真名も、どこか居心地悪そうに言った。

「おまえ、どうして」
「助けてもらったお礼だよ。まだ、してなかったから」

「助けたのは、ぼくじゃないよ」

「でも、おまえが半井先生に言ってくれなきゃ、俺は今頃焼け死んでいた。ありがとう」

 真名は少し照れ臭そうに、鼻の頭を掻きながら言った。

「それから、前に言ったこと――」
「ごめん!」
 令は、真名の言葉をさえぎって言った。

「ぼくが言い過ぎた。おまえのこと、最低だって。わかってないのは、ぼくのほうだった」

 真名は、首を振る。
「俺も、言葉足らずだった」

 令はなんだかおかしくなって、真名と二人、顔を見合わせて笑いあった。

 一緒に笑っていた半井が、ふと真顔になった。
 令の後ろから現れた紗和に気がついたからだ。

「紗和!」
 半井は立ち上がり、飛びつくようにして紗和のことを抱きしめた。

 紗和は半井の腕の中で、本当に幸せそうな顔をしていた。
「よかった、無事で」

 二人は同時に、同じことを言った。やはり、夫婦なのだ。

「薬を、ありがとう」
「あなたこそ、戦を止めてくれて、ありがとう」
「ちがうよ」
 半井は、令のほうを見た。

「人間同士の争いを止めたのは、ここにいる子どもたちだよ」

 忘れないでいようと、令は思った。
 今気づいた、本当に大事なことを――。













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