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「気が付いた?」
話しかけてきたのは、紗和だった。
紗和が、湖から気を失っている令を引き上げてくれたらしい。
「紗和さん――どうして」
「私はここで、鬼憑病を治す薬の研究を続けていたの。その原因となった毒の解毒もできる薬。完成したわよ」
「ほんとですか!?」
紗和は、微笑んでうなずいた。
「もう、半井の元には届いているわ。帰りましょう」
紗和が手を差し伸べてきた。
令はうなずき、しっかりとその手を握った。
2
家に帰ると、ごはんのいい匂いがしていた。
務が作ったのだろうか。それとも、隣のおばちゃんが来てくれているのだろうか。
家に入ると、半井が笑顔で座っていた。
令は、その姿を見て、涙が止まらなくなった。
助かった――。
お母さんが、言ったとおりだった。
「令、」
半井は、令に気づくと、
「おかえり」
と言った。
「ただいま」
そんな当たり前のセリフを言えることが、こんなにもうれしいなんて。
でも、
「どうしたの。このきんぴらものすごくおいしそう」
食卓に並ぶ料理はどれもきちんとしている。
まるで、玄人が作ったような……
「おいしそう、じゃなくておいしいんだよ」
そう言っておくから出てきたのは、真名だった。
「真名――」
令は驚いて一瞬言葉を失った。
「邪魔しているよ」
真名も、どこか居心地悪そうに言った。
「おまえ、どうして」
「助けてもらったお礼だよ。まだ、してなかったから」
「助けたのは、ぼくじゃないよ」
「でも、おまえが半井先生に言ってくれなきゃ、俺は今頃焼け死んでいた。ありがとう」
真名は少し照れ臭そうに、鼻の頭を掻きながら言った。
「それから、前に言ったこと――」
「ごめん!」
令は、真名の言葉をさえぎって言った。
「ぼくが言い過ぎた。おまえのこと、最低だって。わかってないのは、ぼくのほうだった」
真名は、首を振る。
「俺も、言葉足らずだった」
令はなんだかおかしくなって、真名と二人、顔を見合わせて笑いあった。
一緒に笑っていた半井が、ふと真顔になった。
令の後ろから現れた紗和に気がついたからだ。
「紗和!」
半井は立ち上がり、飛びつくようにして紗和のことを抱きしめた。
紗和は半井の腕の中で、本当に幸せそうな顔をしていた。
「よかった、無事で」
二人は同時に、同じことを言った。やはり、夫婦なのだ。
「薬を、ありがとう」
「あなたこそ、戦を止めてくれて、ありがとう」
「ちがうよ」
半井は、令のほうを見た。
「人間同士の争いを止めたのは、ここにいる子どもたちだよ」
忘れないでいようと、令は思った。
今気づいた、本当に大事なことを――。
了
**************************
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話しかけてきたのは、紗和だった。
紗和が、湖から気を失っている令を引き上げてくれたらしい。
「紗和さん――どうして」
「私はここで、鬼憑病を治す薬の研究を続けていたの。その原因となった毒の解毒もできる薬。完成したわよ」
「ほんとですか!?」
紗和は、微笑んでうなずいた。
「もう、半井の元には届いているわ。帰りましょう」
紗和が手を差し伸べてきた。
令はうなずき、しっかりとその手を握った。
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家に帰ると、ごはんのいい匂いがしていた。
務が作ったのだろうか。それとも、隣のおばちゃんが来てくれているのだろうか。
家に入ると、半井が笑顔で座っていた。
令は、その姿を見て、涙が止まらなくなった。
助かった――。
お母さんが、言ったとおりだった。
「令、」
半井は、令に気づくと、
「おかえり」
と言った。
「ただいま」
そんな当たり前のセリフを言えることが、こんなにもうれしいなんて。
でも、
「どうしたの。このきんぴらものすごくおいしそう」
食卓に並ぶ料理はどれもきちんとしている。
まるで、玄人が作ったような……
「おいしそう、じゃなくておいしいんだよ」
そう言っておくから出てきたのは、真名だった。
「真名――」
令は驚いて一瞬言葉を失った。
「邪魔しているよ」
真名も、どこか居心地悪そうに言った。
「おまえ、どうして」
「助けてもらったお礼だよ。まだ、してなかったから」
「助けたのは、ぼくじゃないよ」
「でも、おまえが半井先生に言ってくれなきゃ、俺は今頃焼け死んでいた。ありがとう」
真名は少し照れ臭そうに、鼻の頭を掻きながら言った。
「それから、前に言ったこと――」
「ごめん!」
令は、真名の言葉をさえぎって言った。
「ぼくが言い過ぎた。おまえのこと、最低だって。わかってないのは、ぼくのほうだった」
真名は、首を振る。
「俺も、言葉足らずだった」
令はなんだかおかしくなって、真名と二人、顔を見合わせて笑いあった。
一緒に笑っていた半井が、ふと真顔になった。
令の後ろから現れた紗和に気がついたからだ。
「紗和!」
半井は立ち上がり、飛びつくようにして紗和のことを抱きしめた。
紗和は半井の腕の中で、本当に幸せそうな顔をしていた。
「よかった、無事で」
二人は同時に、同じことを言った。やはり、夫婦なのだ。
「薬を、ありがとう」
「あなたこそ、戦を止めてくれて、ありがとう」
「ちがうよ」
半井は、令のほうを見た。
「人間同士の争いを止めたのは、ここにいる子どもたちだよ」
忘れないでいようと、令は思った。
今気づいた、本当に大事なことを――。
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