21 / 21
21
しおりを挟む
「気が付いた?」
話しかけてきたのは、紗和だった。
紗和が、湖から気を失っている令を引き上げてくれたらしい。
「紗和さん――どうして」
「私はここで、鬼憑病を治す薬の研究を続けていたの。その原因となった毒の解毒もできる薬。完成したわよ」
「ほんとですか!?」
紗和は、微笑んでうなずいた。
「もう、半井の元には届いているわ。帰りましょう」
紗和が手を差し伸べてきた。
令はうなずき、しっかりとその手を握った。
2
家に帰ると、ごはんのいい匂いがしていた。
務が作ったのだろうか。それとも、隣のおばちゃんが来てくれているのだろうか。
家に入ると、半井が笑顔で座っていた。
令は、その姿を見て、涙が止まらなくなった。
助かった――。
お母さんが、言ったとおりだった。
「令、」
半井は、令に気づくと、
「おかえり」
と言った。
「ただいま」
そんな当たり前のセリフを言えることが、こんなにもうれしいなんて。
でも、
「どうしたの。このきんぴらものすごくおいしそう」
食卓に並ぶ料理はどれもきちんとしている。
まるで、玄人が作ったような……
「おいしそう、じゃなくておいしいんだよ」
そう言っておくから出てきたのは、真名だった。
「真名――」
令は驚いて一瞬言葉を失った。
「邪魔しているよ」
真名も、どこか居心地悪そうに言った。
「おまえ、どうして」
「助けてもらったお礼だよ。まだ、してなかったから」
「助けたのは、ぼくじゃないよ」
「でも、おまえが半井先生に言ってくれなきゃ、俺は今頃焼け死んでいた。ありがとう」
真名は少し照れ臭そうに、鼻の頭を掻きながら言った。
「それから、前に言ったこと――」
「ごめん!」
令は、真名の言葉をさえぎって言った。
「ぼくが言い過ぎた。おまえのこと、最低だって。わかってないのは、ぼくのほうだった」
真名は、首を振る。
「俺も、言葉足らずだった」
令はなんだかおかしくなって、真名と二人、顔を見合わせて笑いあった。
一緒に笑っていた半井が、ふと真顔になった。
令の後ろから現れた紗和に気がついたからだ。
「紗和!」
半井は立ち上がり、飛びつくようにして紗和のことを抱きしめた。
紗和は半井の腕の中で、本当に幸せそうな顔をしていた。
「よかった、無事で」
二人は同時に、同じことを言った。やはり、夫婦なのだ。
「薬を、ありがとう」
「あなたこそ、戦を止めてくれて、ありがとう」
「ちがうよ」
半井は、令のほうを見た。
「人間同士の争いを止めたのは、ここにいる子どもたちだよ」
忘れないでいようと、令は思った。
今気づいた、本当に大事なことを――。
了
**************************
この作品が少しでも面白いと思っていただけた場合は是非 ♡ や お気に入り登録 をお願いいたします。
ご投票も、よろしくお願いいたします。
話しかけてきたのは、紗和だった。
紗和が、湖から気を失っている令を引き上げてくれたらしい。
「紗和さん――どうして」
「私はここで、鬼憑病を治す薬の研究を続けていたの。その原因となった毒の解毒もできる薬。完成したわよ」
「ほんとですか!?」
紗和は、微笑んでうなずいた。
「もう、半井の元には届いているわ。帰りましょう」
紗和が手を差し伸べてきた。
令はうなずき、しっかりとその手を握った。
2
家に帰ると、ごはんのいい匂いがしていた。
務が作ったのだろうか。それとも、隣のおばちゃんが来てくれているのだろうか。
家に入ると、半井が笑顔で座っていた。
令は、その姿を見て、涙が止まらなくなった。
助かった――。
お母さんが、言ったとおりだった。
「令、」
半井は、令に気づくと、
「おかえり」
と言った。
「ただいま」
そんな当たり前のセリフを言えることが、こんなにもうれしいなんて。
でも、
「どうしたの。このきんぴらものすごくおいしそう」
食卓に並ぶ料理はどれもきちんとしている。
まるで、玄人が作ったような……
「おいしそう、じゃなくておいしいんだよ」
そう言っておくから出てきたのは、真名だった。
「真名――」
令は驚いて一瞬言葉を失った。
「邪魔しているよ」
真名も、どこか居心地悪そうに言った。
「おまえ、どうして」
「助けてもらったお礼だよ。まだ、してなかったから」
「助けたのは、ぼくじゃないよ」
「でも、おまえが半井先生に言ってくれなきゃ、俺は今頃焼け死んでいた。ありがとう」
真名は少し照れ臭そうに、鼻の頭を掻きながら言った。
「それから、前に言ったこと――」
「ごめん!」
令は、真名の言葉をさえぎって言った。
「ぼくが言い過ぎた。おまえのこと、最低だって。わかってないのは、ぼくのほうだった」
真名は、首を振る。
「俺も、言葉足らずだった」
令はなんだかおかしくなって、真名と二人、顔を見合わせて笑いあった。
一緒に笑っていた半井が、ふと真顔になった。
令の後ろから現れた紗和に気がついたからだ。
「紗和!」
半井は立ち上がり、飛びつくようにして紗和のことを抱きしめた。
紗和は半井の腕の中で、本当に幸せそうな顔をしていた。
「よかった、無事で」
二人は同時に、同じことを言った。やはり、夫婦なのだ。
「薬を、ありがとう」
「あなたこそ、戦を止めてくれて、ありがとう」
「ちがうよ」
半井は、令のほうを見た。
「人間同士の争いを止めたのは、ここにいる子どもたちだよ」
忘れないでいようと、令は思った。
今気づいた、本当に大事なことを――。
了
**************************
この作品が少しでも面白いと思っていただけた場合は是非 ♡ や お気に入り登録 をお願いいたします。
ご投票も、よろしくお願いいたします。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
GREATEST BOONS+
丹斗大巴
児童書・童話
幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。
異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)を生みだし、規格外のインベントリ&ものづくりスキルを使いこなす! ユニークスキルのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅する、ほのぼの異世界珍道中。
便利な「しおり」機能、「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です!
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
おねしょゆうれい
ケンタシノリ
児童書・童話
べんじょの中にいるゆうれいは、ぼうやをこわがらせておねしょをさせるのが大すきです。今日も、夜中にやってきたのは……。
※この作品で使用する漢字は、小学2年生までに習う漢字を使用しています。
小さな王子さまのお話
佐宗
児童書・童話
『これだけは覚えていて。あなたの命にはわたしたちの祈りがこめられているの』……
**あらすじ**
昔むかし、あるところに小さな王子さまがいました。
珠のようにかわいらしい黒髪の王子さまです。
王子さまの住む国は、生きた人間には決してたどりつけません。
なぜなら、その国は……、人間たちが恐れている、三途の河の向こう側にあるからです。
「あの世の国」の小さな王子さまにはお母さまはいませんが、お父さまや家臣たちとたのしく暮らしていました。
ある日、狩りの最中に、一行からはぐれてやんちゃな友達と冒険することに…?
『そなたはこの世で唯一の、何物にも代えがたい宝』――
亡き母の想い、父神の愛。くらがりの世界に生きる小さな王子さまの家族愛と成長。
全年齢の童話風ファンタジーになります。
【1章完】GREATEST BOONS ~幼なじみのほのぼのバディがクリエイトスキルで異世界に偉大なる恩恵をもたらします!~
丹斗大巴
児童書・童話
幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。
異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)とアイテムを生みだした! 彼らのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅するほのぼの異世界珍道中。
便利な「しおり」機能を使って読み進めることをお勧めします。さらに「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です! レーティング指定の描写はありませんが、万が一気になる方は、目次※マークをさけてご覧ください。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる