ミレと魔女の森 番外編

片崎温乃

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乙女の蜜談

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※先に最終章・人への旅立ち#23 終わりまで読んでおくことをお勧めします。







魔女の森で眠っているところを発見され連れ帰られた少女ことミレは、色々な対応に追われている両親に代わり様子を見に来ていた両親の部下である精霊助師見習いの若い女性に付き添いを受けながら自室で浅い眠りを貪っていました。
コンコンコン、とミレの部屋の扉が控えめに叩かれて見習いの女性が顔を出します。
「ミレさん、お友達の方が三人来られていますが…体調はどうですか?お会いになられますか?」
「あ~まだ眠~また今度にしてえ…あ、お腹空いたからビスケット持ってきてぇえ…」
「ベッドの中で食べる気?元気でしょ!この人も困ってるじゃない!」
「レーナ?」
慌てる女性をどかしてレーナが部屋の真ん中まで入って来ました。その後ろを引っ付くようにしてあと二人が背中から顔を出します。
「ミレ‥久しぶり!もう戻ってこないかと思って私すっごく泣いたんだから!」
「ミィナ?」
「うっ…私はっ‥今も泣いてるぅ…」
「リドリー!?」
三人はミレが腕を広げたのを合図に、ベッドに飛び込みます。
「わーみんなっ!!ほんと会いたかったー…!くっ、くるしい…」
リドリーがミレにきつく抱きついて、その上から二人の頭を撫でながらミィナが抱きついて、最後はため息をついてレーナがそのかたまりに軽く手を添えて寄りかかりました。
「本当に、おかえりミレ…あんたが男の子について魔女の森の方へ消えていったときもう私の人生終わりだって思って…とにかく、ミレ、あんたがいない毎日は最悪だわ…」
「あはは!やっぱレーナはけっこうロマンチストだねー‥いてっ!」
「レーナ!こんなときこそ殴るのはなしだよ…もう‥作ったマフィンもぺしゃんこになってるかも…」
女の子同士のひっつき合いからいちぬけたリドリーは手に持っていた包みをミレに見えるように向けながらほどきます。
それを合図にレーナとミィナも部屋に入った際に床に転がしたバスケットからリボンで飾られたお菓子や布を取り出します。
「ぺしゃんこのマフィンに可愛い包みのお店のお菓子にお菓子みたいなフリルの寝まき…!もしかしてもらってもいい?」
「もちろん」「あんた以外誰がいるの」「う‥ん」
四人が再び笑ったり泣いたりしながらハグしあっていると
「あの…みなさんお茶はいりますか?」
見習いの女性が微笑みながら扉から顔を出して、女の子達がありがとうございます、と微笑みを返し合います。

紅茶とつけあわせのシナモンやジャムの香りが漂う中、女の子達がミレの平均の家庭よりは大きなベッドの上で輪になってプレートの上のティーセットを楽しんでいます。
「ん!このぺしゃんこマフィンおいひ!レシピおひえて~こんどのやすみに、おかあさんにつくってもらうから!」
「もうそろそろ自分で作ったら?向こうで過ごしたとき…その、ご飯は作らされなかったの?」
レーナがやけに真剣な顔で寝っ転がったままのミレの顔をのぞきこんで言いました。そのレーナに体当たりのようにひっつきながらミィナも言います。
「あのね、聞きづらいことなんだけど…ミレが魔女に捕まったからもしかしてむこうでひどい目に…例えば奴隷にされてずっとご飯を作らされたり、それ以外は閉じ込められたり、いじめられたりしたんじゃないかって…ずっと心配してたの。ぱっと見はいつものミレだけど…」
「それお母さんとお父さんにも訊かれたけどそこまでひどいことされてないよー。お菓子自分だけでつくろーとしたら怒られたけど。」
二個目のマフィンかミィナが作ったクッキーか手を迷わせながらミレが答えて、これも美味しいよ…とつぶやいてミレの家にもともとあったマカロンを指差しながらリドリーが意を決した顔で口を開きます。
「怒られたって、魔女に、だよね…魔女ってどんなことするの?」
三人が一瞬しんとして、ミレのマカロンをさくっとかじる音だけが響いた後、ごくんと喉を鳴らすと
「畑仕事とー、洗濯とー、ピクニックとー、鉱石を採りに行ったり、掃除は屋敷が広いから大変だったよ!」
一気にさらに静けさが増して、耐えきれなくなったレーナが膝立ちして叫びます。
「そんなの私達と変わらないじゃない!!何か!?もっと冒険‥っていうか変わったことはなかったの!!?」
「どしたの急にー?…んーなんか変わった生き物はいたよ。」
「どんなの…」
小首を傾げながら、時々ミレにお菓子を差し出すリドリー。
「どんなの?ん~そうだ絵描くから!待ってねーえーとスケッチブックはどこかなー」
ミレが自分の部屋の引き出しや本棚を巡るあいだ、リィナは部屋をきょろきょろ見回して、はっとした顔になります。
「ねぇあの花見たことないんだけど…もしかして魔女の森の植物!?」
ミィナがベッドを降りて、キラキラした目で花に近付いて見つめるとミレがミィナの横に座ってひっついてきます。
「これはナナヤが作った新種のスミレなんだってー。けっこう良い匂いするんだよ。」
「えっ!…ほんとうだ。これが魔女の森の匂い…。」
どこかうっとりした目で花をつついた後、「ナナヤって誰?」と訊きました。
ミレは花の鉢とミィナを両手に抱えながらベッドに戻ると、見つけたスケッチブックに特徴をとらえた似顔絵を描いていきます。
「ナナヤは魔女の中ではお姉さんなの!お料理は苦手だけど畑仕事は好きでね、新種のスミレ作りが趣味みたいでこれを持たせてくれたの!声もきれいで~ナナヤの歌またききたいなー」
「それは、魔法の歌声ってこと!?」
「そうだね!」
はああああ…と三人のため息が響くと、「他のお土産も見る?」とミレが訊いた途端、見る!と荒い息に変わります。
「私用に作ってくれた服!ヘンリーは裁縫が得意でよく服を作って闇市に売りに行ってたみたい!売れっ子なんだって~」
「派手…でもミレが着ると、すごく似合ってる。」
「舞台衣装みたいね!どういう風に出来てる服か興味あるわ…今度じっくり見せてくれる?」
「レーナ服好きだもんね!了~解!」
「もしかしてその髪飾りも贈り物!?」
「うん!この服にも合うよ~って余ってたやついくつかくれた!」
「ヘンリーって名前ってことは男の子よね?その…かっこいいの?」
「ミィナ!?なんでその子がかっこいいかなんて興味あるわけ!?」
レーナが顔を恐くしてミィナの背中を叩いて、ミィナも怒り顔で叩き返します。
「レーナには関係ないでしょ!本当は私男の子に興味あるもん!違う世界の子ならなおさら!!ねぇその子イケメン!?」
「べつにかな~。それになんかリルと恋人だったし。」
はぁ…と先ほどとは違う感じのため息を二人がはきます。
ミレが持ってきたお土産達の中にあった本をめくっていたリドリーが紙片を差し出しました。
「ねぇ…このすごく古そうな本…メモが挟まってたよ。『ミレ、これは闇市で手に入れた古(いにしえ)の言葉で綴られた貴重な本だ。僕も解読したけど少ししか解らなかった。何か発見出来ないか見て欲しい。僕の持ち物だから必ず返す様に。』だって…男の子?」
「挿絵からみても昔の童話集ぽくて~。お母さんとお父さんに見せて解読お願いしよーかなって思ってるとこ。レオの見解でも少ししかだから逆に腕が鳴るね!」
「知的な男の子なんだね。それだけで格好いい!」
「でもいっつもアイヴァンのいたずらにひっかかってこけたりしてる姿みたらかっこいいっていえるかなー」
「もう!イケメンはいないの!?夢を見させてよ~!」
「そうそういるわけないでしょ。恋愛は大人になってから!大人の男の人とするのが正しいの!」
「わっ、ミィナ‥レーナ、とっくみあうの止めて…お菓子がっ‥」
二人が軽く服を掴み合って体を揺らすと周りに置かれたお菓子が皿ごと生きている様に跳ねています。
「あ!でもリルは狩りが得意だったよ!魔女の森にしかいない動物を狩ってたから私弟子入りした!」
ミィナがレーナから離れてミレの方に跳ねながら近寄ります。
「狩りの出来るイケメン!?ていうかやっぱり魔女の森だから魔物がいるのね…どんな恐ろしい化け物がいたの?」
ミレはお菓子の皿をいくつか端へ除けると、全員に見えるようにスケッチブックを真ん中に置き色々な奇妙な線を描きます。
「これは食べられないやつなんだけどー、うねうね~って木の枝が動いて、変な匂いのする木なの!周りに小さい動物の骨が落ちてたから肉食だと思う!友達のアイヴァンが食べられそーになって、私も捕まって大変で、…シルバが矢を飛ばして先に助けに来てくれた。」
「こわい…魔物…」
「シルバ君もイケメンじゃん!あれ?顏赤くない?」
「えっ!?そんなことは‥」
「そのシルバってのとリル、どっちが好きなの?」
レーナが観念しろとばかりに腕を組んでミレを正面きって睨みます。
「リル可愛いし、友達として好きだったよ。シルバは…私はどう思ってるんだろう。」
「何でひとごとなのよ!?」
ミレは皿に置かれたマシュマロをつついたまま静かになります。
「魔女のみんな…優しかったの?」
リドリーがミレの顏をそっと覗き込んで、目が合ったミレは顔を上げると今度はリドリーの頬をつつきます。
「優しかった…何も、魔法が使えなかった私にも優しくしてくれて……。」
見たことのないミレの表情に三人は何かを察しますが、お互いに目配せしてうなずいて、
「大人の言ってたことは気にしなくていいよ!」
「魔女の人達との思い出とか気の済むまで聞いたげるから、ほら!」
「こっちであった、私達のニュースも聞かせてあげる‥」
ミレは流れそうになった涙を一瞬で払うと、急に真顔になりました。
「私がもし出世して魔女の長になっても…みんな仲良くしてくれるってことなんだね。」
ガチャン!!ガラララ…
三人が何か反応する前に扉の向こうでいくつもの食器が割れて転がる音が響きました。
レーナとミィナがベッドを飛び降り扉に近寄り開けると、見習いの女性が食器を拾いながら呆然とした顔を上げます。
ミィナとレーナが拾うのを手伝いながら、
「あのっ今のはミレが得意な周りを凍りつかせる冗談です!」
「ミレ!あんたは精霊助師の家の子なんだから冗談も考えて言いなさい!」
ミレはベッドの布団から抜け出し、驚くリドリーの前で元気良く跳ねると、お菓子も砂糖の粉を撒きながら皿から逃げます。
「冗談じゃないよー。私がこれから、みんなが魔女とも仲良くなって生きていけるように導くから!私が精霊助師になるの楽しみにしててー!」
ミレの言葉を聞いた見習いの女性は遠い目をした後、横に傾きそのまま食器の様に転がり気を失いました。
「……あははははは!!!なんであんたはほんとに…あははは!!!」
普段以上に大きな声で笑い出したレーナ。
「私、は…ミレなら出来ると思うよ。言ってくれたら何か手伝うから‥」
ミレのスカートを引っ張りながらそう言い座らせるリドリー。
「……もうっ!!ミレは前以上にミレらしくなってない!?ていうよりこの人大丈夫なのかな?とりあえず部屋に入れて寝かせとく?!」
レーナをたたいて手伝わせながらミレの部屋の床に女性を転がすミィナ。
「あーなんか元気でてきた!私ほんとにいつか魔法が使えるようになる気がする!」
『まずはこの女の人の記憶が消せる魔法が使えるようにならないと』
またベッドの上で跳ねながら散らばったお菓子を拾って食べるミレをあきれ顔で見つめながら、三人はこの意味の言葉をそれぞれ言いました。


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