ミレと魔女の森 番外編

片崎温乃

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輪廻の揺り籠

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※先に最終章・人への旅立ち#19まで読んでおくことをお勧めします。








シルバがウィリアン様の友人と名乗った少女とまた森へ消えたみたい…心がいっぱいいっぱいだったけど、ロズンドが心配でこの白い小屋へ戻ってきた。ローズが起きる気配は無い…
ローズ…ずっと、気になって心が揺さぶられていること…
どうして、あの時別れようなんて言ったの……?


あつい、あついっっ!!!あついかたまりにつつまれて、いきができないっっ…!!!
なにか、ぴかってひかった…かみなり?!こわい、けど、そこからかぜもかんじる…そとだ…!
ぼくはてとあしをつかってすすむ、でたい、はやくそとへっ!!…
「…ここ‥‥、どこ…」
もりのなかだけど、きのかんじとか、きたことないところだ…
「出てきた…元の姿?汚い。おはよう、リージャ。」
リル…ほかのみんなは…?ぼくはなんでここにいるの…
「おっと、リージャそっちはみちゃ駄目。」
「どうしてめかくしするの…なんだかつかれたし、なにかへんだよ…おなかもすいた…」
くびがちくっとした…ね、む…‥ぼくは、なに…してたの…


つめたい…ぼくはおきた…?もっと、みたことのないところ…だれかのうごくあしがみえた…
「さすが覚醒が早いわね。身体はどんな感じ?」
またリルだ…さっきから、ううん、もっとずっとまえから…ぼくは、リルといっしょにいたきがする…みんなとはぐれて…
どうしてはぐれたんだろう?ぼくはいつから…
「この硝子の棺から出すわね。よいしょっ…っと。」
「どうしてぼくふくきてないの…それになんだか、せなかがむずむずするよ…」
「ウィリアン様の攻撃で初期の状態に戻ったみたいね。なんとか死なずにすんでよかった、のかしら。にしてもまたあの状態までもっていこうとするなら人の肉を食べ続けなきゃ…でもいきなり過食すると身体が壊れる可能性も…それに肉の予備も…」
リル…ずっとぶつぶついってぼくのことむししてる…どうしよう…
「おなかすいた…あれ?」
なんか、うしろからきのえだがうごいて、のびてきた…
「これなに…」
リルにむかって、にほん、さんぼん、のびていく…
「きゃっ!触らないでリージャ…あ、私は食べても美味しくないわよ」
「たべものがどこかにあるの?」
「食べもの…食べたいの?」
たべたい。たべたい。たべたい。たべたい―……。
「まだ回復出来る見込みはありそうね。そう…まずは自分に近しい肉から食べる…我ながら良い考えだわ…リージャ、ブランチに行きましょうか?」


今日はローズの為に新しい詩を書いてみた。自分で自分を褒めるのも変だけど最近の中では一番良い出来だと思う。
はやく、一刻もはやく目覚めて、私と愛を語り合ってほしい…願いを込めて私は棺のふたに触れる。
「美しい薔薇の名前を持つ貴方。貴方は眠ったまま目覚めない。私が流す朝露を浴びれば、きっと目覚めるのでしょうか。だからお願い、この硝子の棺を開けて…」
「それ何なの?自作の小説?」
詩を綴った便箋から顔を上げた。いつの間にか開いていた扉から入ってきたのは…リルティーヌとリージャだった。
「あ…ローズのお見舞いに来てくれたの?ありがとう…でも、二人共どこへ行ってたの?さっき屋敷では見かけなかったし‥」
「?あなた何も聞いてないの?」
「何を?ねえ、ウィリアン様の…お葬式はいつか知ってる?誰もはっきり答えてくれなくて…」
「本当に色惚けもいいところよね…そんなんだから若くして孕んだのかしら。」
え、リルティーヌがよく分からないこと言った、と思った瞬間、リルティーヌがリージャを突き飛ばした?!
「リージャっ、大丈夫!?リル、なんで突き飛ばしたの!?」
リルティーヌが、見たことのない笑顔を浮かべてる…何…この…昔、客が、してた表情、吐き気と震えがこみあげてくる…
「親子の感動の再会ね。ナナヤは美味しい匂いがする?」
「リルティーヌ、さっきからどうして酷いことをするの?わけ分からないこと言ったり…」
「本当は分かるでしょ?初めて魔女の森へ来た時不思議な女の子と会わなかった?その子があなたの腹の子を消してくれた、いえ取り出したの‥腹の子が今、あなたに会いに来たのよ。」
私は震えが抑えられないまま、腕の中のリージャを見た。だって、私は茶色の髪で、この子は金髪。目の色だって違う…
誰かに私達が似てるって言われたことがある様な気がするけど、一緒に暮らして姉として面倒を見ている私だけじゃなくて、私達魔女はみんな、家族で…母は、ウィリアン様で…私は…私は…
「母親なんかじゃない!!!」
リージャが後ろへ転がっていく。違う、私は突き放すつもりじゃ、
「私はっ、ずっと女の子なの!!!女の子は、男なんて知らないっ!!!」
リージャは床に転がったまま動かない。なにこれ…?背中から、木みたいのが生えてる…それが私に向かって伸びてくる!
私は慌てて逃げて、ローズの棺の反対側へ隠れようとしたけどワンピースの裾を掴まれて引きずり戻された!
「やめてっ!!助けてローズッッ!!起きてよっ、お願い!!」
「ロズンドがぼくのおとうさんなの?」
木の枝の根本…起き上がっているリージャを見た。真っすぐな目…
「違う…私と、ローズはそんな汚らわしいことはしてない。」
「けがらわしい?ってなに…」
私は、目の前にいる自分の子どもかもしれない男の子をもう見据える事が、苦しくて苦しくてたまらない…!!!
「あなたが生まれて来たことそのもの。間違い!罪!苦痛!恥!なければ良かったものよ!!!」
リージャが大泣きしてる…可哀想なのに近づきたくない、可愛い弟なのに、どうして私はこんな酷いことが言えるの…
リルティーヌが私を責めるみたいにじっと見た後、リージャを母親のように抱きしめて何か囁いてる…


リルがすごくはやあしでぼくのてをひっぱってる…みちとか、きのしゅるいがちがう、いままできたことがないばしょにきてる…
「リル、どこにいくの?おひるごはんはなにをたべるの‥?」
「リージャは、自分がどうやって魔女の森へ来たか知ってる?」
「コウノトリがもりのいりぐちにおいていったんだよ…」
リルがふりむいてぼくをにらんだ、きがした…
「違うの。そうね、お父さんとお母さんって、言葉は知ってる?」
「…ぼくにはいないけど、えほんのなかにはいたり、ミレにもいるっていってた。リルにもおかあさんがいるってまえにいってたよね…」
「そうよ。理解出来てるじゃない。貴方にももちろんいるのよ。そしてこれから会いに行くのはお母さん。とても楽しみね‥」
「えっ、おかあさん!?ぼくの…だれ、なの?」
「会えば分かるし、そこで説明もしてあげる。それから三人で、いえ四人かしら?楽しくブランチしましょう…」
「ブランチって、おひるごはんっていみだよね…どうしてちがうくにのことばでいうの?」
「オシャレだからよ?貴方も大人に成れたら解かるかもね。」
しろいいえがみえてきた。ここにぼくのおかあさんがすんでるのかな…
リルのてをぎゅっとした。リルがにぎりかえしてくれた。
リルも、ウィリアンさまもぼくのいままでのおかあさんだ。でもきっとこれからあたらしいおかあさんにもあえる。
ときどきこわいゆめがぼくのこころにうまれるけど、かぞくがふえればきっとわすれられるとおもうから、はやくあいたくてしろいいえまでリルといっしょにかけっこした…


リージャが立ち上がって、私に向かって歩いてきた。手を広げて、床へひざをついている私を抱き締める…
あたたかい…しばらく誰の温もりにも触れていなかった私は寄りかかりたくなる…
「ぼくのほんとうのおかあさん」
その言葉を聴いた途端、私はリージャの首を絞めていた。
「やめ、で…がっあっ、あああ゛あ゛っ!!!」
目の前にいるのは、私の子どもなわけないの。この子は私の家族で弟。私は子どもを作った覚えなんてない!!!
リージャの背中の木の枝がのびてきて私の髪の毛をすごい力で引っ張るっつ…!!!!
「きゃああ゛あ゛っあ゛っ!!!私は違うっ!!私は違うのっ!!!!」
痛いっ!!!頭にもの凄い痛みがはしって、私とリージャの間に何か落ちたああ…な、に…‥
それは、私の髪の毛がたくさん付いた血塗れの皮、だった。
そこから顔を上げると、舌を出したまま涎にまみれてどこか見つめたまま動かないリージャ……
「リージャ…」
「あーあ。少しの差だけどあなたが勝ったわね。リージャも早く食べれば回復出来たのに。」
これは、血?赤い流れが私の視界を遮って、先にいるリルティーヌが視えない。
恐ろしい痛みとリルの嗤い声の中で、私は気を失った……。


「リージャ!こっちへおいで!ルルカも!どっちがはやいかな?」
「あ、ルルカの方がはやそうだけど、リージャもゆっくりでいいよ!」
ぼくはちいさいときからあしがおそかったんだ。でも、やさしそうなえがおでナナヤとロズンドがぼくをよんでくれる。ルルカがさきについて、ナナヤがルルカをハグしてたから、ぼくはロズンドにハグしてもらった。
「リージャとルルカはたしか同い年ぐらいだけど、リージャの方が軽いね。もう少し食べたほうが良いかな。ウィリアン様にこの子のおかずを増やしてもらえないか相談してみようか。」
ぼくはしってた。えほんのなかにいるおとなのおとこのひと、ぼくにやさしくしてくれるひと。ロズンドがぼくにときどき、よんでっていうなまえ。
「パ、パ…。」
「パパ?」
「いや、ちがうよ?あの、分かりやすいかなーって時々教えてただけで…」
「二度と変な事教えないで。」
そのときのナナヤはすごくこわかったけど、それいがいはいつもぼくにやさしくしてくれて、ぼくとルルカにもないしょでおやつをくれた。
ぼくらのママはウィリアンさまだけど、えほんのなかみたいによりそってくれるおとなは、ナナヤとロズンドだったから、ぼくのあこがれだったんだ。
あれ?なんか、めのまえがしろくなってく…
ナナヤのこえが、ロズンドのぬくもりが、みんなとのおもいでが、
とおくへー?……‥―――。


…目を開けると、硝子の膜があった‥これは…何度も見た…
硝子の棺の中!?私は混乱しながら叫んで硝子を叩いた。
私の体の上から何かが横に落ちた気配がしてそっちを見ると、それは…リージャ…私が、殺した…
今まであげたことのない叫び声をあげて私はめいっぱい硝子を叩くと扉が開いた。体をあちこちにぶつけながら棺から飛び出る。
息をついて顔を上げると、何度も見た寝顔、
「ロズンド…!!」
思い切り抱きつくと、床に寝ていたローズは痛いのか声を出して目覚めた。
「なんだ、ナナヤ…?無事?…なんだな…」
「ローズ!!ローズッ!!私の、愛しい…はぁ…」
「ローズって言うなって…まぁナナヤが無事ならそんなこと、どうでもいいな‥」
ロズンドが私の髪を優しく梳いてくれる。今まで過ごしてきた、いくつもの夜と同じ様に。ずっとこれを待ってたの…。
「‥おいっ!リージャ!どうしたんだ!?」
夢見心地な私の気分は耳を裂く言葉で醒めてしまった。
私は素早くローズの体の上からどかされて、ローズはリージャのもとへ駆け寄る。
「身体が傷だらけなうえに息もしてない!!おいナナヤ、リージャはどうしたんだよ!?‥ナナヤ、君、顔をどうしたんだ?」
「顔‥?」
「顔、の左半分の皮膚がでこぼこしてるし‥前髪も抜け落ちてる…」
この場所へ来る時に持ってきていた手荷物の入った袋を引っくり返して、鏡を取り出した。‥顔を…ゆっくり映して…
自慢だった私の顔のほぼ半分は赤いでこぼこした皮膚でおおわれ、そこから続く頭の皮も同じようになって、毛はまばらにしか生えていなかった。
そうだ、私、リージャの首をを絞めて、苦しんだあの子が私の頭をつかんで、血が、その後リルに棺の中に閉じ込められた‥
「私の頭っっ!!髪もっ!!私は見た目はいいって!!客にもほめられてっ!誇りなんて無かったけど!それだけが、汚い私の、そうする意味だったのに!!!」
背中に覆い被さる暖かさを感じた。それはもちろんロズンドで。
「もうあの頃は過ぎたんだよ。僕はどんな姿のナナヤでも愛してる。」
「私の、ローズ…」
「と、それはいい!リージャ、どうしてこんな‥」
「リージャは…私の子どもなの。」
ロズンドが本当の馬鹿を見るような表情で私を見てる。今まで見たことの無い表情だなあ…私の知らないローズがまだいる。
「でも認めなかったからリージャが怒って、私の顔をこんなにしたのかな。ねえ、リージャ‥起きて…」
背中の部分が裂けて木の枝が生えたままの不思議なリージャは目は開いているけどもう動かなかった。
「まさかリージャは、ナナヤが…」
「ごめんなさい…でも私も殺されそうになったの…私が死んで、この子が生きていれば良かった?」
「そん、なこと…」
なんでなんだろう、この子リージャを見てると涙が止まらない。
さっきまで憎くて仕方なかったのに、今はこの子の全てが、どこか私に似ている気がしてならないの…
「ロズンド、もう身体は大丈夫なの?」
「ああ、うん、なんかこの入れ物の中にいる間たまに目が覚めてたんだけど、傷が治っていく感じがしたよ‥これは魔法の箱なんだね。」
「私もリージャもこの箱に入っていたけど、リージャは生き返らなかった‥命は戻らない…」
二人でリージャに寄り添って、涙を流す。その姿はきっと、親子みたいで。
「ローズ‥私達、親になりましょう。」
またロズンドが見た事のない顔を見せてくれる。こんなことになる前はすごく哀しそうな顔をしていたのに…嬉しくて胸が高鳴るの。
「本当?僕と結婚してくれるってことで良い…?」
「ええ。愛してるの…」
今までで一番強く抱きしめられた気がした。その中で、足にあたるあの感触も気付いていて。私はそっと握った。
「ナナヤ…っ」
覆い被さろうとするローズの肩を押さえて、私は自分からワンピースの裾をまくりその下の布をずらして跨った。
吐き気のする感覚だけど今は必要な行い。ローズの聞いた事のない声がする。私は過去に叫んだ台詞を再び蘇らせる。
――行為が終わった……。リージャを真ん中にはさんで三人で眠る。
「ナナヤ…子どもが出来たら三人で森の外へ出よう。僕達だけの家族になりたい‥」
「ええ。三人で…生きていきましょう‥ね、リージャ…」
もうローズの寝息がきこえる…私は笑ってお腹に手をあてるともう一度生まれてくるこの子リージャとの出会いを思い出しながら、眠りの淵へ落ちていった…

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