漫画家とアイドルはドラマをなぞって上を行く

漫画家とアイドル

アイドルの威力

　斉藤くんの後輩である関西弁を話す年下の男の子たち。その真ん中、一際目を引く男の子。本当に綺麗な顔だな。そんな感想の裏側。
「今日の企画、発表しまーす、特別ゲスト来てるんすよね、えー、ゲームに勝ったら、質問権が貰えるらしいんすよ、三つまでらしいけど！」
そう、司会の言葉が続けられた。は？聞いてないんだけど？
「なんやそれ」
　真ん中の一際目を引く男の子、改め、伊永これなが駿しゅんくんがつっこむ。
「え、てか、それ、どういう企画なん？」
周りのメンバーもガヤガヤと賑やかす。
「まあまあ、伊永くんのための企画みたいなもんやん、こんなん。題して！いや、待て、先に登場してもらってからにした方が良いっすね」
　そんな雑な前振りで、私が出る為のゲートのカーテンが開く。いや、待て、これ、私の説明なさすぎて、こんな被り物で出たら不審者じゃん！
　そんな心配も無視して、無情にもカーテンは開く。そして、私はこの言葉の違和感というかそういうものを全て察せないままゲートを潜った。
「え！」
短いけど、すごく嬉しそうな声。伊永くんのものである。
「待って、あかんあかん、え？まじ？」
続けてパニック状態に近い伊永くん。
「え？なになに？誰なん？」
他のメンバーが、気になって聞いている。当たり前だろ。
「ちょ、え、これ、え？夢なん？待って、何に勝ったらええん？俺は」
　何故か、伊永くんは、誰？とは思っていないみたいで、驚いてしまう。
「待って待って、俺たちこの人誰か分かってないんやけど」
「はあ？この人、天才漫画家の神崎蘇雨先生だよ」
待って、何で分かってんの？しかも、何でキレ気味？それに、買い被りすぎ。
「え、何で分かったんすか、伊永くん」
　司会を務める最年少メンバー、進藤しんどうくんに問いかけられている。それは、私も同感。
「いや、漫画って、カバーのところに漫画家さんの紹介書いてあるやん？それのとこに、ネズミの被り物した先生描いてあるねん」
その発言を聞いて分かったことがある。伊永くんは、どうやら、私の漫画のファンらしい。そういえば、さっき、伊永くんのための企画みたいなもんだと進藤くんが言っていたなと頭に浮かんだ。
「すっげー、そんなんで分かるんすね、じゃあ、気を取り直してゲーム行っちゃいましょ！」
　それから、バスケのフリースロー対決が開催されるということで、準備が進められる。
「ちょ、待ってよ、そんなん、経験者メンバーに伊永が負けるみたいな感じになるんちゃう？え、大丈夫なん？」
グループ最年長、リーダー山野やまのくんが困ったように眉を寄せる。
「心配いらんて、男には、どうしても決めたいっていう時に発揮できる力があんねん」
　伊永くんの綺麗な顔でドヤ顔をキメられると、大分ダメージがでかい。
「伊永、質問三つらしいけど、決めてるん？」
そう問いかけるのは、真面目キャラで定評のある岩井いわいくん。
「いや、まだ、何も考えられてないし、気になることばっかりやねん」
「えーっと、先生は、聞いたらダメっすよみたいなことあるんすか」
顔の整ったメンバーたちに真っ直ぐ見つめられて、緊張で頭には何も浮かばない。もう、どうにでもなれ。そんな気持ちで言葉を話す。
「無い、と思います」
途切れ途切れの言葉に、自分で自分に嫌気が差した。
　瞬間、伊永くんの瞳に射抜かれたのが分かって、伊永くんを見てみる。綺麗な唇が動き出した。落ち着く低さの声が言葉を紡ぐ。
「やば、先生の生の声聞けるなんて、思ってなかったから、思ったよりやばいな」
恍惚と見つめられて、微笑まれる、否、ニヤけられると、何とも言えない気持ちになる。落ち着かないし、勝手に脈は速くなった。
「さ、始めよか！」
張り切って場の空気を壊したのは、メンバー唯一のバスケ経験者。白鳥しらとりくん。
　空気は読めなそうなので、多分、手加減とかはしない。それがわかる空気感を感じる。
「おっしゃ、伊永盛り上がってるけど、負けんからな！」
ほら、言ったよ。これはガチだよ。
「俺、絶対勝つで。だって、聞きたいこと、いっぱいあるもん」
もんとか、ぐうかわ。あ、やば、オタク出てきた。めっちゃ可愛いやんか。背高くて甘いマスクの攻撃力を全力で使ってくるやん。まじ、脅威やん。
　いや、でも、これは、普通に経験者が勝って、バラエティオチになる。しかし、そう、たかを括っていた少し前の自分を馬鹿と罵りたくなる結果となった。伊永くんの放つボールは全て綺麗に弧を描き、ゴールに吸い込まれていったのだ。
「よっしゃあ」
何で？この人、ガチすぎでしょ。
「うわ、強すぎやん！何なん！チートやん！」
語尾全てに、！マークが付いていそうな白鳥くん。めっちゃ同感。