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第7話 特定繁殖区域

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 ちょっとだけ湧き上がる力を感じながら、森の外へ向かって歩き出す。少し薄暗くてジメジメする。

「じゃあアタッカー特性が強いのか?」

「違う、ポーションよ」

「ポーションって何処にでも売ってるだろ」

「このゲームにはアタッカーポーションしか他のゲームみたいに即効性のある回復アイテムはないの」

「普通の回復はどうするんだよ」

「包帯とか消毒とか血清とか……回復速度も遅くて使ってられないわね、特にナース以外が使った時の効能は恐ろしい」

 ヴァイパーはわざとらしく震える素振りを見せた。



 攻撃を受けない立ち回りが良さそうだな。まあ一撃で死ぬような強さだとそんなの関係無いが。

「回復は納得したけど、ソウルスレイヴってなんだ?」

「そんなのも知らないの? ペットっていう仲間にするシステムがあるんだけど、アタッカーだけはそのペットを一時的に武器化出来るの、強さは知らないわ」

「ふーん」

 そんなに強くなさそうだ。どうせ育成とかなら連れ回す手間もあるし、エンドコンテンツの武器が最強ってオチ。





 森を抜けた俺達は徒歩で街まで戻った。レベル5の俺はヴァイパーと一緒に居ないと移動だけでも命の危険が迫る事に気づく。

 実際、道のど真ん中にさっきのボスより強い狼タイプが現れていた。ヴァイパーが一撃で倒したから無傷で済んだ。

「都合が悪いわね……」

 そんな俺の状態を喜ぶこともなく、寧ろ苛立ちを見せている。理由はなんとなくわかる。


 多分だが、その刀が刃こぼれしたんだろう。己が強いとその火力に武器が耐えきれなくなることがあるらしい、その前兆が刃こぼれだ。

 治すには別途の金がかかる。その金はというと……俺のギルドカードに成り果てた、治すくらいなら買い換えた方がいいだろうけど。

 刃こぼれした時点でまた発生する事を留意しないといけないからな。

「まあまあ、武器を持ち替えたらいいだけだろ?」

 スキルとかはクラスによって変わるだけなので、刀でもパワースラッシュとかは出来るらしい。


「剣タイプは使いにくいし、スペアの武器は鉄刀タイプだから好かないわ」

「でもスペアを使っていこう、それしかないじゃん」

「そうね……」

 という訳で、もう一度探索する事が決まった。ヴァイパーは道具屋に寄るという事でついていくことに。




 道具屋の中は木製の棚にコルクで蓋をしたような瓶が並んでいて、毒々しい物まで色々ある。

「いらっしゃい」

 店主は少し歳をとったお婆ちゃんだ。不思議な事に見た目よりキビキビ動いている。

「この研石とポーション、あとはそうね……これくださる?」

「えぇ? なんて?」

 それでもやっぱりお婆ちゃんのようで、ヴァイパーの注文を聴き逃していた。

「だから……」

「年寄りジョークやよ」

 と言って本当に注文されたものを取ってきた。凄いジョークだ、さすがにヴァイパーも呆れてしまった。






 店を出た俺達はバスに乗って木のボスとは違う別の経験値稼ぎポイントに向かっていた。ヴァイパーはどんなのか教えてくれないので、着くまで楽しみにしておく。

「武器は変えなくていいのか?」

「メニュー開いたら変えれるわよ」

 やっぱり、この辺はゲームなんだな。でも、俺の武器も刃こぼれしてるんだよな、剣タイプあるような言い方をしてたし、聞いてみるか。

「言いにくいんだが、俺の武器も刃こぼれしてる」

「普通の街の武器が初心者のあんたに負けたの?」

「見てみるか?」


 鞘から刃こぼれした剣を引き抜くとヴァイパーは「本当ね……」訝しむように呟いた。


「一度死んだ時に実は剣で枝を弾いてたとかじゃない?」

「原因はどうでもいいから武器を貸してくれ」

「どうでも良くないわよ……」

 とは言いながらも俺に鉄の剣より良さそうな武器を貸してくれた。名前は「繊細な剣」細身で白い剣だが軽くて丈夫そうだ。早速腰に付けた。

 二刀流もこのゲームは出来るらしいので右腰に錆びた鉄の剣を差してある。

「助かる」

「その剣は確率で刃こぼれを無効化するの」

 明らかに壊れにくい剣をくれるなんて……!

「もし刃こぼれさせたら許さないわよ」

 慎重に扱う必要が出てきそうだ。

「分かった」


 いつも通りヴァイパーが肘でバスのガラスを砕く。俺は抱えられながら一緒に飛び降りた。

 やっぱり女性に担がれるってのはダメだな、男としての尊厳が消えていく気がする。

「で、ここはどこなんだ」

 辺りは砂漠……か、後ろはちゃんと森なのに特定エリアには砂しかない。変わった地形だ。

『特定繁殖区域砂漠部よ』


「よくわかんねえ」

「気がついたら砂漠になっていて、森に再生しようにも砂漠に適応したモンスターがめちゃくちゃ住み着いちゃったから出来なくなったってわけね」

 そのモンスターが強いから危険すぎるって所まで読めたぞ。

「でも強いんだろ」

「そんなに? 瀕死にさせるからそれを倒していってね」

「あとこれあげる」と言ってヴァイパーはアタッカーポーションを3個、俺に渡した。

 砂漠は熱で体力を奪われる。アタッカーはこのポーションで体力を維持するらしい。



 俺がポーション使えるようになったからここで鍛えようということにしたのだろう。

「行くわよ、準備して」

「分かった」


 平らにされたバス用の道を逸れて、砂漠地帯に足を踏み入れる。熱でクラクラしそうなのを抑えて剣を引き抜いた。

 その刹那、ボコッボコッと地面から無数のエイみたいな保護色柄の生物が現れる。戦闘の合図が待たれる。


『モンスター、私の事だけを見ててくださる?』


 ヴァイパーの注目度が上がった。










 
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