7 / 10
第7話 特定繁殖区域
しおりを挟むちょっとだけ湧き上がる力を感じながら、森の外へ向かって歩き出す。少し薄暗くてジメジメする。
「じゃあアタッカー特性が強いのか?」
「違う、ポーションよ」
「ポーションって何処にでも売ってるだろ」
「このゲームにはアタッカーポーションしか他のゲームみたいに即効性のある回復アイテムはないの」
「普通の回復はどうするんだよ」
「包帯とか消毒とか血清とか……回復速度も遅くて使ってられないわね、特にナース以外が使った時の効能は恐ろしい」
ヴァイパーはわざとらしく震える素振りを見せた。
攻撃を受けない立ち回りが良さそうだな。まあ一撃で死ぬような強さだとそんなの関係無いが。
「回復は納得したけど、ソウルスレイヴってなんだ?」
「そんなのも知らないの? ペットっていう仲間にするシステムがあるんだけど、アタッカーだけはそのペットを一時的に武器化出来るの、強さは知らないわ」
「ふーん」
そんなに強くなさそうだ。どうせ育成とかなら連れ回す手間もあるし、エンドコンテンツの武器が最強ってオチ。
森を抜けた俺達は徒歩で街まで戻った。レベル5の俺はヴァイパーと一緒に居ないと移動だけでも命の危険が迫る事に気づく。
実際、道のど真ん中にさっきのボスより強い狼タイプが現れていた。ヴァイパーが一撃で倒したから無傷で済んだ。
「都合が悪いわね……」
そんな俺の状態を喜ぶこともなく、寧ろ苛立ちを見せている。理由はなんとなくわかる。
多分だが、その刀が刃こぼれしたんだろう。己が強いとその火力に武器が耐えきれなくなることがあるらしい、その前兆が刃こぼれだ。
治すには別途の金がかかる。その金はというと……俺のギルドカードに成り果てた、治すくらいなら買い換えた方がいいだろうけど。
刃こぼれした時点でまた発生する事を留意しないといけないからな。
「まあまあ、武器を持ち替えたらいいだけだろ?」
スキルとかはクラスによって変わるだけなので、刀でもパワースラッシュとかは出来るらしい。
「剣タイプは使いにくいし、スペアの武器は鉄刀タイプだから好かないわ」
「でもスペアを使っていこう、それしかないじゃん」
「そうね……」
という訳で、もう一度探索する事が決まった。ヴァイパーは道具屋に寄るという事でついていくことに。
道具屋の中は木製の棚にコルクで蓋をしたような瓶が並んでいて、毒々しい物まで色々ある。
「いらっしゃい」
店主は少し歳をとったお婆ちゃんだ。不思議な事に見た目よりキビキビ動いている。
「この研石とポーション、あとはそうね……これくださる?」
「えぇ? なんて?」
それでもやっぱりお婆ちゃんのようで、ヴァイパーの注文を聴き逃していた。
「だから……」
「年寄りジョークやよ」
と言って本当に注文されたものを取ってきた。凄いジョークだ、さすがにヴァイパーも呆れてしまった。
店を出た俺達はバスに乗って木のボスとは違う別の経験値稼ぎポイントに向かっていた。ヴァイパーはどんなのか教えてくれないので、着くまで楽しみにしておく。
「武器は変えなくていいのか?」
「メニュー開いたら変えれるわよ」
やっぱり、この辺はゲームなんだな。でも、俺の武器も刃こぼれしてるんだよな、剣タイプあるような言い方をしてたし、聞いてみるか。
「言いにくいんだが、俺の武器も刃こぼれしてる」
「普通の街の武器が初心者のあんたに負けたの?」
「見てみるか?」
鞘から刃こぼれした剣を引き抜くとヴァイパーは「本当ね……」訝しむように呟いた。
「一度死んだ時に実は剣で枝を弾いてたとかじゃない?」
「原因はどうでもいいから武器を貸してくれ」
「どうでも良くないわよ……」
とは言いながらも俺に鉄の剣より良さそうな武器を貸してくれた。名前は「繊細な剣」細身で白い剣だが軽くて丈夫そうだ。早速腰に付けた。
二刀流もこのゲームは出来るらしいので右腰に錆びた鉄の剣を差してある。
「助かる」
「その剣は確率で刃こぼれを無効化するの」
明らかに壊れにくい剣をくれるなんて……!
「もし刃こぼれさせたら許さないわよ」
慎重に扱う必要が出てきそうだ。
「分かった」
いつも通りヴァイパーが肘でバスのガラスを砕く。俺は抱えられながら一緒に飛び降りた。
やっぱり女性に担がれるってのはダメだな、男としての尊厳が消えていく気がする。
「で、ここはどこなんだ」
辺りは砂漠……か、後ろはちゃんと森なのに特定エリアには砂しかない。変わった地形だ。
『特定繁殖区域砂漠部よ』
「よくわかんねえ」
「気がついたら砂漠になっていて、森に再生しようにも砂漠に適応したモンスターがめちゃくちゃ住み着いちゃったから出来なくなったってわけね」
そのモンスターが強いから危険すぎるって所まで読めたぞ。
「でも強いんだろ」
「そんなに? 瀕死にさせるからそれを倒していってね」
「あとこれあげる」と言ってヴァイパーはアタッカーポーションを3個、俺に渡した。
砂漠は熱で体力を奪われる。アタッカーはこのポーションで体力を維持するらしい。
俺がポーション使えるようになったからここで鍛えようということにしたのだろう。
「行くわよ、準備して」
「分かった」
平らにされたバス用の道を逸れて、砂漠地帯に足を踏み入れる。熱でクラクラしそうなのを抑えて剣を引き抜いた。
その刹那、ボコッボコッと地面から無数のエイみたいな保護色柄の生物が現れる。戦闘の合図が待たれる。
『モンスター、私の事だけを見ててくださる?』
ヴァイパーの注目度が上がった。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
VRゲームでも身体は動かしたくない。
姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。
古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。
身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。
しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。
当作品は小説家になろう様で連載しております。
章が完結次第、一日一話投稿致します。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
Free Emblem On-line
ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。
VRMMO『Free Emblem Online』
通称『F.E.O』
自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。
ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。
そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。
なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。
最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO
無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。
名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。
小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。
特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。
姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。
ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。
スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。
そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。
亡国の系譜と神の婚約者
仁藤欣太郎
ファンタジー
二十年前に起こった世界戦争の傷跡も癒え、世界はかつてない平和を享受していた。
最果ての島イールに暮らす漁師の息子ジャンは、外の世界への好奇心から幼馴染のニコラ、シェリーを巻き込んで自分探しの旅に出る。
ジャンは旅の中で多くの出会いを経て大人へと成長していく。そして渦巻く陰謀、社会の暗部、知られざる両親の過去……。彼は自らの意思と無関係に大きな運命に巻き込まれていく。
☆本作は小説家になろう、マグネットでも公開しています。
☆挿絵はみずきさん(ツイッター: @Mizuki_hana93)にお願いしています。
☆ノベルアッププラスで最新の改稿版の投稿をはじめました。間違いの修正なども多かったので、気になる方はノベプラ版をご覧ください。こちらもプロの挿絵付き。
神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…
Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷
くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。
怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。
最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。
その要因は手に持つ箱。
ゲーム、Anotherfantasia
体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。
「このゲームがなんぼのもんよ!!!」
怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。
「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」
ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。
それは、翠の想像を上回った。
「これが………ゲーム………?」
現実離れした世界観。
でも、確かに感じるのは現実だった。
初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。
楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。
【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】
翠は、柔らかく笑うのだった。
春空VRオンライン ~島から出ない採取生産職ののんびり体験記~
滝川 海老郎
SF
新作のフルダイブVRMMOが発売になる。 最初の舞台は「チュートリ島」という小島で正式リリースまではこの島で過ごすことになっていた。
島で釣りをしたり、スライム狩りをしたり、探険したり、干物のアルバイトをしたり、宝探しトレジャーハントをしたり、のんびり、のほほんと、過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる