誰も火力をやりたがらないVRMMO

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第5話 メンテナンス

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「まだメンテではないはずよ」

 だが、連打しても【ログイン出来ません】という文字ばかりが残る。

「ヴァイパーはどうだ?」


 聞いてみると急に上の空になった。まあ自分にしか見えないウィンドウを見てるんだ、その状態はわかる。

「……出来ないわ、どうやら運が悪かったようね」

「運?」


 ヴァイパーは「こんなにも無知なの」と天を仰ぎながら俺を煽った。

 ちょっとだけイラっときた。


「このアルマリーサル……略してアリオっていうこのゲームは、ログアウトシステムを停止させるメンテ対策を取ってる割に、臨時メンテが多いのよ」

「そのせいで俺の昼ドラが」

「早い時は30分で済むけれど……酷い時は5時間もあったわ」

「予告とかはないのか? さすがに数分後しますって言うだろ」

「無い」

 ヴァイパーがすまし顔で宣告した辺りでギルド店員が戻ってきた。丁寧にギルドカードはプレートに乗せて、持ってきてくれている。

「出来ましたよ」

「ありがとう」

 お礼は言う、この子は性癖を発表した子じゃないからだ。渡すのは別の人にさせてるのだろう、とても卑怯な店員だな。


 ギルドカードを受け取り、ポケットにしまい込もうと手でポケットに指を引っ掛けて広げる。

 あれ? 何も引っかからない、この辺にあるはず。

 ……もしかして。

 ようやくポケットがない事に気づいた。


 俺はどんだけ簡素な服を選んでしまったんだ!

「どう? 私に渡した方が楽よ」

「マジか……」

 渋々だが渡す事にした。

「武器を買って軽くレベリングしたら、私のクエストを受けてもらうわね」

 することも決められ、武器屋に立ち寄った俺達は鉄で出来た剣を購入。当然だが、ヴァイパーの前借りである。

「ヴァイパーもアタッカーだろ? おさがりとか無かった?」

「あんたが刀を使うとは思えなかったもの、それに今の強さならそれでいいわ」

「……刀使うんだな」

 金色の装飾が施された朱色の鞘に、黒く光る剣を収めて武器屋を後にする。ふと空を見上げると、不思議な数字が映し出されていた。



「なあ、あれって最初からなかったよな」

 俺が指さすとヴァイパーも「私も今気づいたわ」と言った。しかし、臨時メンテだ。緊急イベントを用意していて、今さっきアレが置かれたのかもしれない。

 赤い数字が約25万、青い数字が2万、緑色の文字が約2万だ。今も尚、赤い数字を中心に増加し続けている。

 いったいどんなイベントなんだろう。メンテが終わったらログアウトするからすぐには楽しめないが。

「さて、近くの森でレベリングするわよ」

「俺はレベル1だぞ? 普通の街の普通の森に勝てるわけがない」

「私が最大限に弱体化させてあげるから、後はあんたのセンス」

「まだ戦ったことすらないからな」

 戦う前にドラゴンに食われたし。




 街を出た俺達は、バスの中で揺られていた。行き先の森は徒歩で行くには遠く、バスで行くにも次の停車が結構先という不遇なポイントだった。

 その代わり、経験値がほかよりも高い……らしい。ヴァイパーが言っていた。

「電話ボックスとかバスとか、現代的なモノ多いな」

「パソコンまであるわよ」

「変な魔法具とか出るよりマシだろうけどさ」

 暫くすると。

「……さて、頃合ね。ちょっと失礼するわ」

 ヴァイパーは俺の背中に手を回し、引き寄せた。微かに気持ちが安らぐ匂いが鼻をくすぐる。

 まさかこんな事やあんな事を……。


 パリーンッ!


 そんな妄想は、窓ガラスがぶち破られた事で塵となって消えることになった。

 ヴァイパーがガラスを肘で叩き壊したのだ!

「すげーな!」

「早く降りるわよ」

 ぬいぐるみのようにヴァイパーに抱えられ、一緒にバスから飛び降りた。ひと足遅く地面を踏みしめた俺は、目の前に広がる木々の奥に目を細めた。


 辺りは草原だが、他の生物を視認できる。牛とか猪みたいな自然動物だな。

「ここはレベリングスポットだけど、レベル1じゃキツいから、私から離れないようにね」

「分かった」

 かと言って警戒しないのは馬鹿なので、俺は剣の柄に手を添えてめっちゃそれっぽく歩いた。ヴァイパーは綺麗な装飾が施された刀を引き抜いていつでも戦える状態になっている。

「なあ、なんで俺のレベリングまでしてそのクエストに行くんだ?」

 時々遭遇する狼をヴァイパーが一撃で仕留めつつ、森を進んでいく。

「魔女集会の考えよ」

 魔女集会とは、魔女が拾ってきた弱きものがいずれ魔女を守る事になるとかそういう感じである。


 俺にやらせるって魂胆だな!


 6体目の狼を仕留めた時、俺の体が微かに発光する。

「レベルアップね」



【リュウキのレベルが2になりました! リュウキはパワースラッシュを覚えた!】



「ほんとだ」

 ステータスも上がるのか、少しだけ足の疲れがほぐれた。肝心の能力値は確認出来ない。

 暫く歩くと、辺りを淡く照らす幻想的な泉が見え始める。

 木々で太陽光が遮られていることもあり、輝いて見えた。


 走って近付いてみると、不思議な事に小さな広場のように休める広さがある。キャンプ用品があれば、拠点に出来そうだ。

「ここって休憩ポイントか?」

「いいえ、ボスエリアよ」

 その刹那、地面が大きく揺れた。反動で尻餅をついたが、泉を守る様に木の巨人が立ちふさがっている事に気づく。 



『こいつの経験値、最高だから構えなさい』








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