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8.涙の告白

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「ごめんミノ、先帰ってて」
 俺は腕の中からそう告げた。こんなみっともないとこまで見せて、ほんとにもう終わりだ。
「ジュン」
 すぐそばでミノの声が聞こえて、暖かい体の感触。
「ミノ?」
 俺は不思議に思って顔をあげた。ミノが俺を抱き締めている。
「どうして泣いてるの」
 ミノは眉間にシワをよせて俺を見ていた。
「腹立って」
「誰に。あ、僕か」
「ちがうっ、ミノにじゃない。あいつ、ヒロ先輩。ミノを泣かせたから……それと、こんなこと言うつもりじゃなかったのに、もうミノに嫌われた」
「嫌ってない」
「え」
「嫌いになんかならない。今さら、僕らの仲は簡単に壊れたりしない」
 ミノは、強い口調でそう言った。
「ほんとか?」
 ミノは頷く。
 そう言われたら、また目が曇って涙が浮いてくる。
「ふふっ」
 ミノが笑う。
「ジュンがこんなに泣き虫だなんて知らなかった。今までどこで泣いてたの?」
「ふ……風呂場とか」
 俺が白状すると、ミノは面白そうに笑う。
 こんなはずじゃなかった。なにもかも。
 ミノが俺の頭を撫でる。俺はぐすんぐすんと鼻をすすった。
 ミノに抱き締められて、しばらく泣いた後、気まずさになんとか耐えながら、コテージに戻った。

 日が暮れていた。
「実っ、どこ行ってたんだっ」
 コテージの前にヒロ先輩がいた。ミノが俺をちらっと振り返ったから、俺は行けって促した。

 俺が告白をしたからって、なにかが変わる訳じゃない。
 ほんとなら、ミノに絶好を言い渡されるか避けられるかして、俺は完全にミノを失うはずだった。
 けど、そうもならなかった。
 かといって受け入れられた訳でも、ミノの恋愛対象になった訳でもない。

 何年もずっと想像してた。
 告白したらどうなるだろう、って。

 でも、リストの中にコレはなかった。
 ミノは、なにも言わなかった。
 俺に好きだと言われてどう思ったのか。ただ、友情は無くならないって言っただけだ。

 そこで気付いて俺は新たなダメージを受けた。

 これって。さくっとスルーされたってこと?



***
 ミノを避けようと、食事を断ろうと思ったのに、言いに行くよりも先にミノが部屋に呼びに来た。
「あ、ごめん俺食欲ない」
 それは大嘘だったけど、まだシュウも戻って来てないし、ミノとヒロ先輩と3人で夕食を食べるのだけは避けたかった。
「僕とはもう、一緒にいたくないから、だからそういうふうに言うの?」
 俺の言い訳を察してくれるだろうなんてのは甘くて。 
 あろうことかミノはずばりと核心を突いて来た。
「え、あ、ちが、」
「違うくないよ。僕に避けられたくないとか言ったくせに、結局ジュンが僕のこと避けるんじゃない」
 そう言って、ミノが眉をひそめる。
「あの、ごめんミノ、なんていうか、俺あんなみっともないとこ見せたから、だから恥ずかしいっていうか。だから」
「僕はぜんぜん気にしてないよ。だから、ジュン、一緒にごはん食べよ? ね?」
 そうやって微笑みながら上目使いで見られると、弱いんだよ。
「ああ。うん、わかった」
 気がつくと、俺は気持ちとは裏腹にそう答えていた。
 ミノの後をついて歩いて行く途中、俺は激しく突っ込みを入れたい気分になった。
 ちょっとは気にしてくれよ。
 ミノ。
 俺が決死の覚悟で告白して、10年間一度も見せたことのなかった涙をおめおめと見せたってのに。
 ぜんぜん、気にしてないのかよ?
 俺は体の奥深い所から沸き上がった来たため息を、なんとか押し殺した。

 そのディナーは俺が予想した通り、まさしく地獄のようだった。
 ヒロ先輩とミノはかろうじて仲直りしたようだったけど、元通りという訳ではなさそうだし、どこかぎくしゃくしている。

 ミノが俺とのことをなにか話したとは考えにくいけど、ヒロ先輩は明らか俺のことを疎ましく思っているようで、その態度が昨日よりもあからさまだ。
 俺はなるべく音をたてず、発言もせず、縮こまっていた。
 なのに、なぜかミノは俺に笑いかけるし、話し掛ける。
 その度にヒロ先輩のこめかみに血管が浮き上がるようで、俺はどうしていいのか分からなかった。

 ミノの気持ちが分からない。
 こんな時こそ、シュウがいれば場も和むし、あいつは俺には分からないことが分かる奴だから、後で説明してもらえたかもしれないのに。

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