白樫学園記

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13■艶めく初秋☆夕焼けロマネスク SIDE:希(了)

16.危機一髪??

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「なんか、いい匂いする」
「へ、あ、そう?」
 あ、あれ?
 春海くんは僕の向かいに、それもすごく近くに立ったまま。メジャーを持った腕が僕の体に触れているわけじゃないけど、その腕は僕の背中の方に回されている。
 春海くんのカールした髪の毛が僕の肩にときどき触れる。一体どうしたのかわからなくて、僕は少し広げた両手を下げることもできず、ただ突っ立っていた。
「春海くん? どうしたの?」
「ほんとうに、久慈先輩とエッチ、してないの?」
「え? あ、うんうん、してないよ、」
「そう。そっか」
 固まっていた春海くんはそう呟くと、やっと動き出してメジャーで僕の胸囲を計った。
 やっぱり、珠希のこと好きなんだよね。きっと。
 だけど、そういうことを聞いたからってなんて言えばいいのか分からないし。
 なるべく珠希のことを話題にするのは避けよう、と心に決めた。
「今のうちに、僕のことも計ってくれる? 」
 肩幅と股下も計り終わると、春海くんが言った。
「僕でいいの? そういうの、詳しくないんだけど」
「うん、お願い。僕がしたみたいに計ってくれればいいから」
 僕はシャツを羽織ると、メジャーを手にした。

「うんと、胸囲は、ここらへんでいい?」
 僕がそう言って見ると、少しだけ僕より背の低い春海くんが僕を見上げていた。
 春海くんはまるで小動物みたいなくりくりの目で、僕を見ている。
 みんなが春海くんのことかわいいっていうの、なんか分かるなあ。なんて僕は考えていた。
「んっ……」
 僕の指先が胸の辺りに触れた瞬間、春海くんが息を漏らした。
 僕はびっくりして、思わず体がびくっと震えた。でも、きっと今のはなにかの間違い……。
「あっ……」
 !!???
 僕は、全く聞こえていないふりを装うことに決めたけど、前に風邪をひいた時の珠希を思い出してしまって、顔が赤くなっていくのが分かった。
 だめ、今そんなこと思い出ちゃだめだっ。
「さっ、肩幅計るからっ、後ろ向いてねっ」
 僕はそう言うと、わざと春海くんの肩を強めに掴んで、くるっと向こうを向かせた。
「もういいだろーう?」
 その瞬間、みんながざわつき初めてこっちを向いた。
 上半身裸の春海くんと、シャツを羽織っただけの僕。
 そしたら、またクラスのみんなから変なため息が聞こえてきた。
 みんなも春海くんも、変ッ


***
「ねえね、珠希、珠希は僕の体見たらなにか思ったりする?」
 放課後。
 薔薇園で珠希の隣で一緒に花がら摘みをしているとき、ふと思って聞いてみた。
「え? それはどういう種類の質問なの?」
 珠希はふっと笑って僕を見下ろした。
「僕の体だけじゃなくって、例えばあゆとか、空也先輩とか、」
「へ?」
 珠希は全く意味を理解できないって顔を僕を見てる。
「あのね、さっき衣装の為に採寸してたんだ。そしたら、みんな僕の裸が見たいんだって。たぶん、そういうこと言ってたと思うんだ」
「見たのっ?」
「え? あ、ううん。なんか、僕と春海くんだけ教室のすみっこでね。順平がみんなを怒って、なんかみんな黒板向かされてた」
「そう。さすが、矢野くん」
「へ?」
 珠希はほっとしたように、呟いた。
 あれ? なんか思ってた反応と違うような。僕はてっきり、みんな変だよねえ、って珠希と一緒に笑えるものだと思っていたから。
「珠希?」
「希の体をみんなに見られるなんて、やだ」
 や、やだ、って珠希。なんかかわいいんだけど。
「でも、この前一緒にみんなで海行ったときは? そんなことぜんぜん言ってなかったよね。みんな平気で泳いだりしてたよ?」
「ああ、あれは。なんか別。なんだろう。気持ちの問題かな。矢野くんや舟木くんと一緒に希が泳いでても嫌な気持ちにはならなかった。でも、希のクラスメイトが希の体をそういう目でじろじろ見るのは、やっぱり……んん、やだな」
 そっか。そういうことなのか。
 あれ? そういう目って、どういう目?
「いいよ、わかんなくっても。とにかく、希は僕の前でだけ裸になればいいんだよ」
 珠希が僕をぎゅうっと抱きしめて、そんな恥ずかしいことをさらっと言っちゃうもんだから、僕は真っ赤になってしまった。
「珠希ぃ?」
「さっきの質問に答えると、空也とか歩くんの体見てもなにも感じないよ。僕は誰でもいいって訳じゃないし。っていうか希にしか反応しないな」
 そんなストレートに言われると、なんて返していいのか分からなくって、僕はもじもじしていた。ありがとう、って言うのも変な気がするし。

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