白樫学園記

8■きらめく初夏☆物憂い木漏れ日 SIDE：歩(了)

3.ノンの忠告

　春日さんと別れて、自分の部屋に戻る途中、空也に会った。
「あれ？　そのジャージ…春日？ 」

　空也は訝しげにオレの着ているジャージを見て、ネームの刺繍に気がついた。
「あ、春日さんに借りたんだ」
「優哉？　なんで？ 」
「雨に濡れちゃったから」
「濡れた？ 」
「うん、雨のさー、でっかい川ができてて、見に行ったんだよ。そしたら春日さんが風邪ひくから、って」
「…ふぅん」
「あ、空也部屋戻るの？ 」
「ああ」
「じゃあオレ一回部屋戻って着替えてから行っていい？ 」
「いいよ」
「やった。じゃーね、あとでね」

　おやーつおやつ♪
　今日は何のおやつかな。空也の部屋にあるのは。
　オレは上機嫌で部屋に戻って着替えた。

　その後すぐに、ノンが戻ってきた。
「あゆ、勉強してる？ 」
「何ー？　今日はみんな勉強勉強って」
「だってここへきて初めての試験があるんだよ？　あゆ、いつものことだけど、ここへ来てから一度も勉強してる様子もないし」
「うん、してないもん」
「アーユ！　ほんっとに大変だよ。赤点だったら夏休み半分なくなっちゃうんだよ??」
「ひいっ！　やだーそれはやだ」

　夏休みぃ。海、かき氷…
　一瞬、オレの頭の中からそれらが消えて、へなへなとソファに倒れこんだ。
「ね？　だよね？　だから勉強しないと」
「ああ、うんする。絶対する。でも今日はこれから空也んとこ行かなきゃだし。ほら、ノンも薔薇園行くんだろ？　また、帰ってきてからやるから！　じゃな！」

　やだー。もう、ノンってば。勉強勉強って。母さんみたいなこと言うんだからー。

　それ以上勉強の話は聞きたくなかったし、空也に部屋に行く約束をしたので、ばたばたとあわただしく部屋を出た。