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7■きらめく初夏☆物憂い木漏れ日 SIDE:希(了)
14.白樺林にて
しおりを挟む門の方から車の音が聞こえて、人の声がした。
「また呼ぶから」
その声を聞いて、全身が石になった。
絶対に今会いたくない。隠れなきゃ。はやく!
そう思っているのに、体がぜんぜん動かなかった。近付いてくる足音が聞こえる。
「あれ? 希くん。よく会うね。なにしてるの?」
「み、ずさわさん。散歩です」
「そうなんだ?」
水沢さんは、昨日のことなんてなかったみたいに僕に微笑んでる。
「ちょうどよかった。会いたいと思ってたから」
「へ?」
珠希にじゃなくって、僕に用があるの?
考え込んでいると、ふいに水沢さんの指先が頬に触れた。
「目が腫れてる。泣いたの?」
そう言って微笑む。違うって強がりを言いたいけど、さっき鏡で見たから自分がどんなにみっともない顔をしてるのかも、分かってる。
「ほんと、かわいいよね」
そう言って水沢さんが僕の頬を撫でたから、恐くなって僕は後ずさった。
「み、水沢さんは珠希のことが、ずっと好きだったんですか?」
僕は、張り詰めた空気をなんとかしたくて、口を開いた。声が、震えてる。
「好き? うん。まあ、どうだろう。あの頃は好きだったよ。かわいかったし新鮮だったし。でも、僕は卒業後にフランス行くこと決まってたから。遠距離とか続くわけないの分かってたし。すっぱり切ったんだ」
切った? なにそれ。
珠希を、物みたいに言うの?
僕は手に持ったままだった携帯をぎりぎりと握り絞めた。
「珠希は可愛かったよ。だって、なんにも知らなかったんだ。わかる? 今希くんにするキスだって、僕が教えたんだから」
ずきんっと胸に痛みが走る。
「泣きじゃくって、絶対に離れるの嫌だって駄々こねて。それでもパリに連れて行ける訳じゃないからね。僕は突き放した。珠希は言ったよ。それでも待ってるって。だから、僕は好きにすればいいって言ったんだ」
水沢さんの手が僕の髪の毛に差し込まれる。僕は恐くて、首をすくめた。
「なのにさ、分かる? 珠希ったらあんなに変わっちゃって。僕を忘れたふりして、かわいくない。こんな子供相手にして」
水沢さんが僕の髪を強く掴んだから、頭にぴりっとした痛みが走った。
「珠希のこと、今は好きじゃないんでしょ? ほんとはっ」
咽がからからに乾いて、うまく喋れない。
「さあ、どうだろう。あんなに可愛げのない珠希は好きじゃないな。昔みたいに、弱くて、泣き虫の珠希じゃないとね。今の希くんみたいに、かわいくないと」
「じゃあ、なんで、」
「珠希がどうして君のこと好きになったのか、僕には理解できるよ」
水沢さんは、僕の髪を掴んでいるのとは反対の手を僕の顔に添える。
「真っ白で、なんの汚れもない物をさ、自分の色に染めて、思い通りにするの……それって最高だからね。それは僕もよく知ってる。わかる? 珠希はそれを面白がってるだけだよ。君がうぶで、なんにも知らないからいいんだ」
面白がってる? 珠希が?
そんな訳ない、珠希はいつだって真剣だった。本気だった。
「そんなの違う!」
「そう? じゃあ、試してみようよ。希くんが他の人のものになっても、珠希はまだ君のこと好きかな?」
水沢さんの顔が近付いてくる。僕は必死で顔を背けた。
頬に湿った感触があった。
いやだ、こわい、
僕は手に握っていた携帯のぼたんをやみくもに押した。
誰でもいい、誰かに繋がって……。
肩を押さえ付けられて、無理矢理キスされそうになる、絶対嫌だ、珠希以外の人とこんなことしたくないっ。
もがくうち、携帯を落としてしまった。
「意外と強情なんだ? そういうとこもかわいいね」
隙を見つけて水沢さんを突き飛ばそうと腕を突っ張ったけど、彼はびくともしない。
それどころか、白樺の幹に押さえつけられて、完全に逃げられないようにされてしまった。
「や、めてっ、いやだっ」
僕はなんとかその腕から逃れようともがいた。
「ほら、おとなしくして。僕、教えるのは上手だから」
Tシャツの下から手が入ってくる」
僕はびくっと体を震わせた。
この人、本気だ、
「やだっ、やめてッ、珠希ッ」
「かわいい。でも、こんなとこに来る生徒なんていないでしょ、普通」
水沢さんは、僕がいくら暴れても余裕で、くすくす笑っている。
「おとなしくしてたら、痛くしないから」
水沢さんは僕の首に舌を這わせる。
耳もとで囁かれても、そんなふうにされても、ちっとも気持ちよくなんかない、嫌だ、ただそれしか感じない。
力ではかなわない。それでも、僕は無駄な抵抗をしないではいられなかった。
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