白樫学園記

nano

文字の大きさ
上 下
54 / 368
3■球技大会☆双子スター誕生!? SIDE:希(了)

15.勇気のあるひと

しおりを挟む

 15.勇気のあるひと

 球技大会2日目。
 昨日の試合で、練習なんてするほどじゃないのかなって思ったけど、自然と足がトレーニングルームに向かっていた。
 クラスのみんなも、あんなに応援してくれてるし。
  メキ、ペキ、
 微かな音がして、振り返ると、知らない子が立ってた。
「おまえ、目障り」
 小柄で、ぱっと見女の子かと見間違うような子。が、僕を氷みたいな目で睨んでいた。

「あ、の、台使う? なら僕はこれで」
 すごく嫌な予感がして、ここをすぐに出ていかなきゃ、と感じた。
 彼は突然床に置いてあったカゴを蹴飛ばした。大きなかごに山盛りになっていたピン球が床全体に小さな音をたてて広がって行く。
「なんで、」
「なんでこんなことするんだと思う?」
 その子は少しずつ僕との距離を縮めて来る。メキ、メキ、といくつかのピン球が悲鳴をあげた。
 嫌がらせは、この子がやったんだ。直感でそう感じた。
「警告したよね。久慈様に近付くな、って」
「もう会ってないよ」
「はあ? 昨日バスケのコートで並んで応援してただろッ」
 突然彼が声を荒げて、僕はびくついた。
「お前なんか久慈様に相応しくないんだよっ、近付くな!」
 好きなんだ。この人も。珠希のことが。そう思うと、なんだか完全に憎めないような気がした。
「分かったのかよ?? もう会うなよ! 今ここで会わないって誓えよ!」
 そう言いながら彼が詰め寄って来て、僕の肩を掴んだ。肩に食い込む指の感覚。
 恐い。
 僕はずっと考えてた。もし嫌がらせをしている本人に会ったら言おうって。僕は珠希のことが好きだけど、僕がつり合わないことはちゃんと分かってる、って。僕じゃだめだって分かってるんだ、って。
 ほんとにそう思ってた。
 だから、この2週間珠希を避け続けた。なのに、どうしてか口を開けなかった。
「黙ってないで言えよ! ほら!」
 彼は僕の肩を揺さぶる。僕のほうが背が高いけど、怒りに満ちた彼の力は強くて、その手を振り切れそうにない。
「嫌だ……」
 僕は、2週間ずっと考えていたのとはぜんぜん逆のことを言っていた。
 この2週間すごくつらかった。それに、昨日一緒に笑って本当に楽しかった。幸せだった。
 我慢なんて。できないよ。
 ただの友達でもいい。
 珠希のそばにいたい。
「今なんて?」
『僕は、自分が一緒にいたい人間は自分で選ぶ。誰になんと言われようとね』珠希の言葉が、僕の背中を押してくれていた。
「いやだっ、珠希本人に近寄るなって言われない限り、僕は一緒にいる!」
 そう言い切った瞬間、思いっきり突き飛ばされた。
 僕は不様に後ろ向けに倒れた。

「痛ッ」
 運悪く、鋭く尖った卓球台の角に腕をぶつけた。
「お前なに言ってんの? 調子乗ってんじゃねえよ。いいな、忠告したから。言っとくけど、俺だけじゃないから。同じ考えの奴」
 そう言って、ぞくっとするとうな視線を僕に投げ付けると、彼はピン球を蹴散らしながら出て行った。
 僕はぺしゃんこになった玉をポケットに入れながら、床に散らばった玉を元のカゴに戻した。
 泣かない。
 泣くもんか。

 左の二の腕の内側をおもいっきりぶつけたから、擦りむいてる。これは擦りむいたっていうんだろうか。なんか、すごいことになってる。
 物凄く痛いから、相当だとは思ったけど……どうしよ、恐い。なんか、えぐれてるっていうか。
 痛すぎて痛いのかどうかよくわからないくらいで。頭が冴えて、妙に冷静になっていた。
 それに、僕、あの人に負けなかった。あの場だけ頷くのは簡単だったけど、そうしなかった。
 そう思ったら、なんだかすごく自分が勇気のある人間になれたような気がした。
 痛いけど、なんか気持ちいいな。
 僕は残りの玉を片付けると、ユニフォームを汚さないようタオルで傷を押さえて、保健室に向かった。

「うわ、これは痛いねー。昨日から怪我した子がよく来るけど、今のとこ一等賞だね、しみるよー」
「イギッ」
 思わず声が漏れるくらい痛かった。
 先生はそう言いながら薬を塗って、ガーゼと包帯をしてくれた。
「明日、また薬塗るから、包帯取り替えに来てね。傷口は濡らさないように」
 お礼を言って保健室を後にした。幸い、左腕だから卓球に支障はないし、包帯はユニフォームに隠れて見えないから、みんなに心配をかけることもない。
 よかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...