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後日談2 勘違い女の嫉妬1
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「霧島、こっちだ」
いつものように護衛を撒いて喫茶店に入ると、待ち合わせしていた元相棒、相川に声をかけられた。
「よっ、親っさん」
手をあげて挨拶して相川の前に座る。
「今日は護衛はいないのか?」
相川が店の外を伺いながら問うのに、
「鬱陶しいから、撒いてきた」
あっさりと正輝は答えた。
あんなものをぞろぞろ連れて歩きたくはない。
正輝の気持ちも解る為、相川は薄く笑うと「少し太ったか?」と訊いた。
前に会った時よりは正輝の肉付きが良くなっていることに安心する。
「ああ、トレーニングマシーンも買って貰ったから、ちょっとは筋力もついたかな」
正輝は少し出来た力こぶを見せながら、嬉しそうに話す。
「トレーニングマシーン?」
「ああ、言ってみるもんだな。筋力がた落ちしてたから、トレーニングマシーン買ってくれってダメ元で言ってみたら、トレーニングルーム作ってくれたんで、毎日筋トレしてる」
相川は海棠の思わぬ溺愛ぶりに唖然とした。
黄龍会の会長が他の愛人と手を切ったという噂は聞いていたが、正輝一人の為にトレーニングルームをつくるとは。
相川にしてみれば、元相棒であり息子のように思っていた正輝がヤクザの愛人になるとは思いもししていなかった。
それは正輝の方が痛感していることだろう。
心中複雑なものがあるが、正輝が海棠の元にいることを選んだのなら、口を挟むのも野暮だ。
「それで、また新しい情報でも手に入ったのか?」
ヤクザの愛人となった正輝が元相棒とはいえ刑事である相川に会う理由は一つだ。
薬物に関する情報の受け渡し。
刑事だったころの正輝はヤクの取り締まりに特に力を入れていた。
だが、その捜査が行き過ぎてヤクザに目を付けられ、ヤクザに監禁された上に輪姦された。
そのことをきっかけに刑事を辞める羽目になった彼は黄龍会の会長に囲われ、エスとして相川に情報を流していた。
「ん、こっちが粉で、こっちは拳銃」
そう言って二枚の折りたたんだ紙を正輝は相川に差し出した。
「おい、これまで貰えるのか?」
愛人報酬として薬物の情報を貰えることになっているとは聞いていたが、拳銃の情報まで貰えるとは思っていなかった。
「ああ、それ敵対組織の情報だから大丈夫」
黄龍会にとってもぜひとも潰してほしい取引だ。
「・・・まあ、そういうことなら、有難く受け取っておく」
「うん。もう俺は関われないし・・・有効に使ってくれたほうが嬉しい」
相川も暇じゃない。あまり長い時間は一緒に居られないから、小一時間ほど世間話をして彼らは喫茶店を後にした。
「あの、助けてください」
つい刑事時代の癖で夜の繁華街の裏を歩いていた正輝に、後ろから声がかかった。
振り向いた先には如何にも水商売に携わっているような淡い色合いの黄色いワンピースドレスを着た女が青ざめた顔で駆け寄ってきた。
「どうした?」
もう刑事ではないが、若い女が助けを求めてきて素知らぬ顔も出来ない。
「あ・・・あの、男の人が後をつけてきて・・・」
女は後ろを振り返りながら怯えたように小さな声で訴えてくる。
正輝は女が振り返った先を見ると、確かに人影が角へと身を潜めるのが見えた。
「ちょっと待っててくれ」
正輝は女にそう言いおくと、その人影が見えた場所へ走っていった。
だが、既に逃げた後なのか見当たらない。
このまま追うのは一人で残した女が危険だと判断し、女のもとへ戻る。
「悪い。逃げられた。君はこの辺の店の子?」
「あ、はい。この先の『スイートキャット』っていう店で働いてます」
「とりあえず、店まで送ろう」
正輝は女を促して路地裏を進む。
「なんでこんな裏通りを通ったんだ?」
表通りは人通りも多いが、裏通りは人通りも少なく、灯りも少ない。
女が一人で通るのは危険極まりない。
「家からだと、ここを通った方が近いんです。
いつもは一緒に暮らしてる子と来てるんですが、今日はその子は同伴出勤で、私一人になったんです・・・」
「なら、尚更こんな道通ったらダメだろ」
「はい・・・」
裏通りから出る前の裏口を指さし、「あ、ここが店の裏口です」と女が足を止めた。
「じゃあ、これからは気を付けろよ」
「あっ、あの。お礼にお店に寄ってください。
それに、ちょっと遅刻しちゃったんで……一緒に説明して貰えると助かります」
踵を返そうとする正輝の腕を女は慌てて掴んできた。
「いや、俺はこういう店は苦手だから・・・」
正輝は遠慮して女の手を離そうとする。
「お願いですから。お金は要りません。お礼に奢らせてください」
縋るように言われて、正輝は渋々折れる。
「わかった。少しだけなら」
正輝の返事に女はホッとして、「どうぞ」と正輝の腕に自分の腕を絡ませて店に入っていった。
遅刻と言っていたわりに、店内はガランとしていた。
「・・・ごめんなさい」
微かな声が横から聞こえたと思うと、店の奥から人がぞろぞろ出てきた。
黒服の男たちの後ろに、30代だろうか。如何にもな夜の店にいそうな紅いドレスの女が出てきた。
「ミヨちゃん、よくやってくれたわ」
「ごめんなさいっ!」
紅いドレスの女が声をかけると同時に隣の女がもう一度震えながら謝り、慌てて奥へと引っ込んでいった。
どうやら陳腐な罠に引っかかったらしい。
いつものように護衛を撒いて喫茶店に入ると、待ち合わせしていた元相棒、相川に声をかけられた。
「よっ、親っさん」
手をあげて挨拶して相川の前に座る。
「今日は護衛はいないのか?」
相川が店の外を伺いながら問うのに、
「鬱陶しいから、撒いてきた」
あっさりと正輝は答えた。
あんなものをぞろぞろ連れて歩きたくはない。
正輝の気持ちも解る為、相川は薄く笑うと「少し太ったか?」と訊いた。
前に会った時よりは正輝の肉付きが良くなっていることに安心する。
「ああ、トレーニングマシーンも買って貰ったから、ちょっとは筋力もついたかな」
正輝は少し出来た力こぶを見せながら、嬉しそうに話す。
「トレーニングマシーン?」
「ああ、言ってみるもんだな。筋力がた落ちしてたから、トレーニングマシーン買ってくれってダメ元で言ってみたら、トレーニングルーム作ってくれたんで、毎日筋トレしてる」
相川は海棠の思わぬ溺愛ぶりに唖然とした。
黄龍会の会長が他の愛人と手を切ったという噂は聞いていたが、正輝一人の為にトレーニングルームをつくるとは。
相川にしてみれば、元相棒であり息子のように思っていた正輝がヤクザの愛人になるとは思いもししていなかった。
それは正輝の方が痛感していることだろう。
心中複雑なものがあるが、正輝が海棠の元にいることを選んだのなら、口を挟むのも野暮だ。
「それで、また新しい情報でも手に入ったのか?」
ヤクザの愛人となった正輝が元相棒とはいえ刑事である相川に会う理由は一つだ。
薬物に関する情報の受け渡し。
刑事だったころの正輝はヤクの取り締まりに特に力を入れていた。
だが、その捜査が行き過ぎてヤクザに目を付けられ、ヤクザに監禁された上に輪姦された。
そのことをきっかけに刑事を辞める羽目になった彼は黄龍会の会長に囲われ、エスとして相川に情報を流していた。
「ん、こっちが粉で、こっちは拳銃」
そう言って二枚の折りたたんだ紙を正輝は相川に差し出した。
「おい、これまで貰えるのか?」
愛人報酬として薬物の情報を貰えることになっているとは聞いていたが、拳銃の情報まで貰えるとは思っていなかった。
「ああ、それ敵対組織の情報だから大丈夫」
黄龍会にとってもぜひとも潰してほしい取引だ。
「・・・まあ、そういうことなら、有難く受け取っておく」
「うん。もう俺は関われないし・・・有効に使ってくれたほうが嬉しい」
相川も暇じゃない。あまり長い時間は一緒に居られないから、小一時間ほど世間話をして彼らは喫茶店を後にした。
「あの、助けてください」
つい刑事時代の癖で夜の繁華街の裏を歩いていた正輝に、後ろから声がかかった。
振り向いた先には如何にも水商売に携わっているような淡い色合いの黄色いワンピースドレスを着た女が青ざめた顔で駆け寄ってきた。
「どうした?」
もう刑事ではないが、若い女が助けを求めてきて素知らぬ顔も出来ない。
「あ・・・あの、男の人が後をつけてきて・・・」
女は後ろを振り返りながら怯えたように小さな声で訴えてくる。
正輝は女が振り返った先を見ると、確かに人影が角へと身を潜めるのが見えた。
「ちょっと待っててくれ」
正輝は女にそう言いおくと、その人影が見えた場所へ走っていった。
だが、既に逃げた後なのか見当たらない。
このまま追うのは一人で残した女が危険だと判断し、女のもとへ戻る。
「悪い。逃げられた。君はこの辺の店の子?」
「あ、はい。この先の『スイートキャット』っていう店で働いてます」
「とりあえず、店まで送ろう」
正輝は女を促して路地裏を進む。
「なんでこんな裏通りを通ったんだ?」
表通りは人通りも多いが、裏通りは人通りも少なく、灯りも少ない。
女が一人で通るのは危険極まりない。
「家からだと、ここを通った方が近いんです。
いつもは一緒に暮らしてる子と来てるんですが、今日はその子は同伴出勤で、私一人になったんです・・・」
「なら、尚更こんな道通ったらダメだろ」
「はい・・・」
裏通りから出る前の裏口を指さし、「あ、ここが店の裏口です」と女が足を止めた。
「じゃあ、これからは気を付けろよ」
「あっ、あの。お礼にお店に寄ってください。
それに、ちょっと遅刻しちゃったんで……一緒に説明して貰えると助かります」
踵を返そうとする正輝の腕を女は慌てて掴んできた。
「いや、俺はこういう店は苦手だから・・・」
正輝は遠慮して女の手を離そうとする。
「お願いですから。お金は要りません。お礼に奢らせてください」
縋るように言われて、正輝は渋々折れる。
「わかった。少しだけなら」
正輝の返事に女はホッとして、「どうぞ」と正輝の腕に自分の腕を絡ませて店に入っていった。
遅刻と言っていたわりに、店内はガランとしていた。
「・・・ごめんなさい」
微かな声が横から聞こえたと思うと、店の奥から人がぞろぞろ出てきた。
黒服の男たちの後ろに、30代だろうか。如何にもな夜の店にいそうな紅いドレスの女が出てきた。
「ミヨちゃん、よくやってくれたわ」
「ごめんなさいっ!」
紅いドレスの女が声をかけると同時に隣の女がもう一度震えながら謝り、慌てて奥へと引っ込んでいった。
どうやら陳腐な罠に引っかかったらしい。
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