婚約者が義弟と不貞を働いていたので、俺も隣国の皇子と浮気します

栄円ろく

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 ふらふらなところに、もっと疲れる人が来た。いまだにルーカスはソフィーのことを盲目的に信じているようで、俺を殺しそうな目で睨んでくる。

 「お前は今頃アデル様と領事館だろっ!? どうなってんだ! もしかしてアデル様に捨てられたのか!? だからソフィーのところに戻って……」

 「いや、違うよ……うん……」

 と言いながら、少し心配になってくる。

 もしかして、アデルは俺を置いて帰ったのでは? ノートを奪ってこっちに来るって言ってたけど、ノートだけが目的だったら?

 ふと、今まで裏切られてきた記憶が走馬灯のように蘇る。

 途端に不安になって足に力が入らなくなった。

 「おいっ! セム、大丈夫か!?」

 「あ、ご、ごめん……ありがとう、ルーカス」

 ルーカスに腕を引っ張られ、なんとか立ち上がる。そのとき、音楽が鳴って舞踏会が本格的に始まった。

 「セム様、お戻りが遅いので迎えに来てしまいましたわ」

 「あっ! ソフィー、どうしてこいつと一緒に……」

 「さぁ、行きましょうセム様」

 ルーカスの発言を無視して、ソフィーは俺の手を引く。まったく踊る気になんてなれなかったけれど、今はソフィーの操り人形になるしかなかった。

 「……一曲目が踊り終わりましたら、私を突き飛ばしてください。それで婚約破棄を」

 「…………」

 踊っている最中に、ソフィーが小声で指示を出す。
 扉の方を見ても、アデルが来る気配がしない。

 ……嫌だ。こんなことしたくない。

 でも、アデルが隙を見て助けに来てくれるって言っていた。なら、少しでも時間を稼ぐべき?

 けど、本当に来てくれるのだろうか? いや、疑っちゃダメだろう、アデルを信じるって決めたんだから。

 「……きゃあっ!! セ、セム様?」

 突然倒れたソフィーに、俺ははっとする。いつの間にか音楽が止まってる。一曲目が終わったんだ。

 俺は倒れたソフィーの怯えた顔に、ある意味で感激した。
 自分で倒れたくせに。こんな茶番に付き合わないといけないなんて、涙が出る。

 「……ソフィー」

 早く言って。と彼女の口がぱくぱくと動く。周りの視線が痛いほど刺さっている。

 「ソフィー……君はなんてやつだ」

 大広間に入る前に、ソフィーから言えと言われていた内容を口にする。

 「ルーカスと浮気をしていたんだろう?……本当に、最低だ」

 突然始まった痴話喧嘩に会場がどよめいた。一方ソフィーは迫真の演技で「そ、そんな、セム様! ルーカス様と浮気なんて……」と声を震わせた。

 「はっ、白々しい。内心で無能な俺を笑って、ルーカスとの浮気を楽しんでいたんだろう!?」

 本当、白々しい。なんだこれ、なんで俺は付き合わされているんだ?

 「セム様、どうか怒りを鎮めて……」

 「ソフィー、俺は怒ってないよ……でも、」

 怒ってない。ただただ悲しい。もしアデルが来なかったら? このまま俺の居場所だけがなくなったら? やっぱり人は裏切るもので、結局は一人なのでは——

 暗い不安が襲いかかってきて、過呼吸になりかける。

 でも、信じるって決めたんだ。信じたいって思ったんだ。アデルなら……アデルだから、絶対に来てくれる。一人で逃げたりしない。

 「ソフィー……俺は君との婚約を破棄する!」

 涙声にならないようにはっきりと、口に出して宣言した。

                                      
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