59 / 64
59
しおりを挟む
ふらふらなところに、もっと疲れる人が来た。いまだにルーカスはソフィーのことを盲目的に信じているようで、俺を殺しそうな目で睨んでくる。
「お前は今頃アデル様と領事館だろっ!? どうなってんだ! もしかしてアデル様に捨てられたのか!? だからソフィーのところに戻って……」
「いや、違うよ……うん……」
と言いながら、少し心配になってくる。
もしかして、アデルは俺を置いて帰ったのでは? ノートを奪ってこっちに来るって言ってたけど、ノートだけが目的だったら?
ふと、今まで裏切られてきた記憶が走馬灯のように蘇る。
途端に不安になって足に力が入らなくなった。
「おいっ! セム、大丈夫か!?」
「あ、ご、ごめん……ありがとう、ルーカス」
ルーカスに腕を引っ張られ、なんとか立ち上がる。そのとき、音楽が鳴って舞踏会が本格的に始まった。
「セム様、お戻りが遅いので迎えに来てしまいましたわ」
「あっ! ソフィー、どうしてこいつと一緒に……」
「さぁ、行きましょうセム様」
ルーカスの発言を無視して、ソフィーは俺の手を引く。まったく踊る気になんてなれなかったけれど、今はソフィーの操り人形になるしかなかった。
「……一曲目が踊り終わりましたら、私を突き飛ばしてください。それで婚約破棄を」
「…………」
踊っている最中に、ソフィーが小声で指示を出す。
扉の方を見ても、アデルが来る気配がしない。
……嫌だ。こんなことしたくない。
でも、アデルが隙を見て助けに来てくれるって言っていた。なら、少しでも時間を稼ぐべき?
けど、本当に来てくれるのだろうか? いや、疑っちゃダメだろう、アデルを信じるって決めたんだから。
「……きゃあっ!! セ、セム様?」
突然倒れたソフィーに、俺ははっとする。いつの間にか音楽が止まってる。一曲目が終わったんだ。
俺は倒れたソフィーの怯えた顔に、ある意味で感激した。
自分で倒れたくせに。こんな茶番に付き合わないといけないなんて、涙が出る。
「……ソフィー」
早く言って。と彼女の口がぱくぱくと動く。周りの視線が痛いほど刺さっている。
「ソフィー……君はなんてやつだ」
大広間に入る前に、ソフィーから言えと言われていた内容を口にする。
「ルーカスと浮気をしていたんだろう?……本当に、最低だ」
突然始まった痴話喧嘩に会場がどよめいた。一方ソフィーは迫真の演技で「そ、そんな、セム様! ルーカス様と浮気なんて……」と声を震わせた。
「はっ、白々しい。内心で無能な俺を笑って、ルーカスとの浮気を楽しんでいたんだろう!?」
本当、白々しい。なんだこれ、なんで俺は付き合わされているんだ?
「セム様、どうか怒りを鎮めて……」
「ソフィー、俺は怒ってないよ……でも、」
怒ってない。ただただ悲しい。もしアデルが来なかったら? このまま俺の居場所だけがなくなったら? やっぱり人は裏切るもので、結局は一人なのでは——
暗い不安が襲いかかってきて、過呼吸になりかける。
でも、信じるって決めたんだ。信じたいって思ったんだ。アデルなら……アデルだから、絶対に来てくれる。一人で逃げたりしない。
「ソフィー……俺は君との婚約を破棄する!」
涙声にならないようにはっきりと、口に出して宣言した。
「お前は今頃アデル様と領事館だろっ!? どうなってんだ! もしかしてアデル様に捨てられたのか!? だからソフィーのところに戻って……」
「いや、違うよ……うん……」
と言いながら、少し心配になってくる。
もしかして、アデルは俺を置いて帰ったのでは? ノートを奪ってこっちに来るって言ってたけど、ノートだけが目的だったら?
ふと、今まで裏切られてきた記憶が走馬灯のように蘇る。
途端に不安になって足に力が入らなくなった。
「おいっ! セム、大丈夫か!?」
「あ、ご、ごめん……ありがとう、ルーカス」
ルーカスに腕を引っ張られ、なんとか立ち上がる。そのとき、音楽が鳴って舞踏会が本格的に始まった。
「セム様、お戻りが遅いので迎えに来てしまいましたわ」
「あっ! ソフィー、どうしてこいつと一緒に……」
「さぁ、行きましょうセム様」
ルーカスの発言を無視して、ソフィーは俺の手を引く。まったく踊る気になんてなれなかったけれど、今はソフィーの操り人形になるしかなかった。
「……一曲目が踊り終わりましたら、私を突き飛ばしてください。それで婚約破棄を」
「…………」
踊っている最中に、ソフィーが小声で指示を出す。
扉の方を見ても、アデルが来る気配がしない。
……嫌だ。こんなことしたくない。
でも、アデルが隙を見て助けに来てくれるって言っていた。なら、少しでも時間を稼ぐべき?
けど、本当に来てくれるのだろうか? いや、疑っちゃダメだろう、アデルを信じるって決めたんだから。
「……きゃあっ!! セ、セム様?」
突然倒れたソフィーに、俺ははっとする。いつの間にか音楽が止まってる。一曲目が終わったんだ。
俺は倒れたソフィーの怯えた顔に、ある意味で感激した。
自分で倒れたくせに。こんな茶番に付き合わないといけないなんて、涙が出る。
「……ソフィー」
早く言って。と彼女の口がぱくぱくと動く。周りの視線が痛いほど刺さっている。
「ソフィー……君はなんてやつだ」
大広間に入る前に、ソフィーから言えと言われていた内容を口にする。
「ルーカスと浮気をしていたんだろう?……本当に、最低だ」
突然始まった痴話喧嘩に会場がどよめいた。一方ソフィーは迫真の演技で「そ、そんな、セム様! ルーカス様と浮気なんて……」と声を震わせた。
「はっ、白々しい。内心で無能な俺を笑って、ルーカスとの浮気を楽しんでいたんだろう!?」
本当、白々しい。なんだこれ、なんで俺は付き合わされているんだ?
「セム様、どうか怒りを鎮めて……」
「ソフィー、俺は怒ってないよ……でも、」
怒ってない。ただただ悲しい。もしアデルが来なかったら? このまま俺の居場所だけがなくなったら? やっぱり人は裏切るもので、結局は一人なのでは——
暗い不安が襲いかかってきて、過呼吸になりかける。
でも、信じるって決めたんだ。信じたいって思ったんだ。アデルなら……アデルだから、絶対に来てくれる。一人で逃げたりしない。
「ソフィー……俺は君との婚約を破棄する!」
涙声にならないようにはっきりと、口に出して宣言した。
45
お気に入りに追加
2,003
あなたにおすすめの小説
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません
月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない?
☆表紙絵
AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる