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 「私が合図をしたら婚約破棄を宣言してください。どうせ捨てるのですから、最後くらい私の願いを聞いてくださいますでしょう?」

 そうソフィーに言われてから俺は大広間に入った。ちなみに『ルーカスにはなんて言ったの?』と聞いたら、『特に何も言っていない』と驚きの返事が返ってきた。

 だから大広間に入ってすぐ、ルーカスが「……はぁ?」と大きな声をあげたのも頷けた。

 「おい、セム、お前っ、どういう……」

 つめよってくるルーカスを、ソフィーは無視する。他にも俺とアデルの浮気の噂も立ち上がっていたので、周りの学生たちも「えっ?」という顔で俺らをみていた。

 「えっ、どういうこと……?」
 「アデル様はいらっしゃらないし……やっぱりあれはただの噂かしら?」
 「でも、ルーカス様が、今日はソフィー様といらっしゃるって……『セムとアデル様は仲がいいからな。ソフィーは俺のものだ』って、それとなく匂わせていたらしいけれど……」

 どうもルーカスは、ソフィーと来る気まんまんで、すでに周りに言いふらしていたらしい。それはそうだろう。俺もそう思ってたんだから。

 「あ、あの、ソフィー……今日はその……どうしたの?」

 ざわつく会場のなかで、一人の女の子がソフィーに話しかけてくる。
 どこかで見たことある顔だな……と思っていたら、ソフィーが「あら! エマ!」と嬉しそうに駆け寄った。

 そうだ。思い出した。ルーカスとソフィーの仲を知ってるお友達だ。

 ソフィーは彼女にも何も言っていなかったようで、エマが動揺しているのが伝わる。

 「その、色々あったの……ルーカス様、少し強引なところがあるじゃない? だから私が『心の準備があるからもう少し待って欲しい』って言ったら、婚約を無理に推し進めようとしてて……」

 「えっ、そうなの?」

 「うん……私、どうしたら……」

 二人は小声で話しているつもりかもしれないけど、近くにいる俺には丸聞こえだ。

 というかソフィー……それは本気で言っているの? だとしたらあまりにもルーカスが可哀想すぎる。

 ソフィーの勝手な主観でルーカスに価値がないから、アデルに乗り換えるのに。まるでルーカスからの圧力に耐えられなくて他に逃げた、みたいに聞こえる。

 「ああ、ソフィー、可哀想に。どうして相談してくれなかったの?」

 ほら、お友達も騙されちゃってる。ソフィーはこうやって、みんなからの同情を集めてたのか。

 「……ソフィー、俺飲み物とってきていいかな」

 急激に胃のなかがムカムカしてきて、その場を離れたくなる。けれどソフィーは「そんな、セム様。私一人では寂しいですわ」と言って離してくれなかった。

 ……ああ、嫌だ。本当はこの時間には領事館にいるはずだったのに。

 このまま走って大広間の外に出たいけれど、扉の外にはバルトがいる。護衛の二人は学園の許可を得ているらしく、学内にいても咎められることはなかった。

 「……ソフィー、お願い。逃げたりしないから、少し何か飲ませて」

 「……わかりましたわ、なるべくすぐに戻ってきてくださいね」

 わずかな間だけど、解放された。俺はどっと息を吐いて、飲み物の置かれたテーブルへ向かう。が、辿り着く前に腕を引っ張られた。

 「おい、セム! これはど言うことだっ!」

 「ルーカス……」

                                      
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