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 「ねぇソフィー。どうしてルーカスが好きなのに、こんなことをするの?」

 教室を出てソフィーに連れられるがまま、別の教室で着替えさせられる。

 プロムは制服では出れない。わざわざしまったのに巾着から正装を取り出して、着替えるはめになってしまった。

 「こんなこと、とはなんでしょうか?」

 今は正装に着替え終わったので、一応髪をセットしているところだ。ただあまり気に入る髪型ではなかったようで、ソフィーが俺を椅子に座らせて髪を触る。

 「……ルーカスが好きなら、このままルーカスと婚約すればいいじゃん。なんでアデルと婚約したいの?」

 前まではそんなに嫌じゃなかったのに。今はソフィーに触られるのが嫌で仕方ない。

 俺はちらっとバルトを見たけれど、到底荷物を奪って逃げられそうな雰囲気ではなかった。

 「そもそも、私はルーカス様のことは好きじゃありませんわ」

 「えっ」

 一生懸命髪をいじるソフィーを見つめる。
 ソフィーはルーカスの話より、俺の髪をまとめる方がとても大事なようだった。

 「ルーカス様が私に言い寄ってきたんです。本当は断るべきだったとわかっていたのですが、あんまりにも熱烈で……それに、はっきり断ってしまっては、ルーカス様を傷つけると思ったのです。だから、仕方なく付き合っていたのです」

 「仕方なく、ね……」

 俺は今まで彼女を優しいと思っていたけれど、まったく本質が見えていなかった。
 彼女が優しいのは、自分が常に被害者でありたいからだ。

 きっとソフィーは『可愛い』より『可哀想』と言われた方が嬉しいに違いない。

 「でも冷静に考えてセム様、アデル様、ルーカス様の中でしたら、一番いい未来を築けるのはアデル様ではありませんか? 第八ですけど皇族には変わりありませんし、見目も麗しいですから」

 「…………」

 アデルは皇族だけど、魔力過多症を抱えてる。顔だって甘く見えるけど、本当はすごくいじわるで冷たい部分だってある。

 そういうのを全部知った上で、ソフィーはアデルと婚約したいの?

 俺は知った上で、アデルと一緒にいたいって思ってるよ。
 
 「ソフィー、初めて言うけど……」

 喉元まで出かかった言葉はぐっと飲み込み、別の言葉を選ぶ。

 「……君はこれから苦労すると思う」

 ぴたっと髪を撫でていた手が止まる。

 俺はどうしたのだろうと思ってソフィーを見つめると、呆れたような表情のソフィーがいた。

 「何をおっしゃってるんですか? 苦労するのはセム様ですわよ? 私を捨てて、どうなさるおつもりですか?」

 「あー……うん。そうだね」

 大事だと思ってた人だから最後の最後で忠告してみたけれど……あんまり意味はなさそう。

 俺はこのときやっと、ソフィーと対話することを諦められた。
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