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ソフィーはとある空き教室に俺らを案内すると、じっと見つめてきた。
「……セム様。本当に私と婚約破棄をなされるおつもりですか?」
「う、うん……今日この学園を出たら、フィッセル家と俺の実家には婚約破棄の手紙が行くことになってる。あ、もちろん、ソフィーの責任が問われないように『セム・マイヤーの心変わりが原因』って書いてあるから……」
「そうですか……セム様は、私を捨てるのですね」
「えっ?」
最後まで言い切る前に、ソフィーの発言に驚きが隠せない。
捨てるだなんて……先に捨てたのはソフィーのほうなのに。なんなら俺は、ソフィーとルーカスがうまく行くよう、自分を悪者にした手紙まで送る予定なのに。
「そんな、ソフィーにはルーカスがいるじゃ……」
「ルーカス様は嫡子では無いですわ!」
初めて聞くソフィーの叫びに、心臓がバクッと跳ねた。
「ルーカス様は正式な後継では無いですし、マイヤー伯爵と血も繋がっておりません。そんな未来の無い方に私の身を預けるだなんて、セム様、あんまりですわ……!」
わっと顔を覆って泣き出してしまったソフィーに、俺はどうしていいかわからない。
えっ、なんで彼女は泣いているんだろう? 婚約者がいながら、浮気するぐらいルーカスのことが好きなんじゃないのか?
好きな人と一緒になれるのに、なんで彼女は被害者みたいに傷ついているんだ?
「セム、もう行こう。僕聞いてらんない」
アデルが俺の腕を引っ張り、外に出ようとする。が、教室の扉が外から乱暴に開かれた。
「「!?」」
「……アデル様、私考えたのです」
扉から入ってきたのは屈強な体つきをした男二人。でも俺は彼らを見たことがある。
「……アデル、多分この二人、フィッセル家に仕えている護衛の人だ。前に魔法球技の試合でソフィーと一緒に来てたから、間違い無いと思う」
「なるほどね……そう簡単には帰れないってことか……」
アデルが魔法を使おうとしていた腕を下げる。後ろから、ソフィーの震える声が聞こえてきた。
「このままでは私、将来に不安を抱えたまま卒業することになりますわ……そんなの、耐えられない。だから、多少手荒な手段をとることにしたのです……バルト、あれを出して」
ソフィーの指示で、右側にいた男が手に持っていたものを前に掲げる。
「……! これ、俺の巾着!!」
「ええ、そうですわ。そしてこの中には、魔法薬草のノートが入っているはず……セム様もアデル様も、このノートが無くなったら、大変困るでしょう?」
「ソフィー……なんでこんなことを……」
俺は振り返って、ソフィーを見つめる。けれどソフィーの顔には表情が一つもなかった。
「なんでこんなことを? それをセム様がおっしゃるのですか? セム様が私を捨てなければ、私だってこんなことしませんでしたわ!」
「…………」
俺はこのとき、やっと気づいた。彼女はいつだって、悲劇のヒロインだってことを。
——私は悪くない、あの人のせい。自分は仕方なくやった。
いつも彼女のそばにいると、自分が悪者になった気分だった。彼女を縛り付けている自分が悪くて、魔力のない無能な俺が最低で……
でも違ったんだ。俺が悪者なんじゃなくて、彼女が俺を悪者に仕立ててたんだ。
「……セム様。本当に私と婚約破棄をなされるおつもりですか?」
「う、うん……今日この学園を出たら、フィッセル家と俺の実家には婚約破棄の手紙が行くことになってる。あ、もちろん、ソフィーの責任が問われないように『セム・マイヤーの心変わりが原因』って書いてあるから……」
「そうですか……セム様は、私を捨てるのですね」
「えっ?」
最後まで言い切る前に、ソフィーの発言に驚きが隠せない。
捨てるだなんて……先に捨てたのはソフィーのほうなのに。なんなら俺は、ソフィーとルーカスがうまく行くよう、自分を悪者にした手紙まで送る予定なのに。
「そんな、ソフィーにはルーカスがいるじゃ……」
「ルーカス様は嫡子では無いですわ!」
初めて聞くソフィーの叫びに、心臓がバクッと跳ねた。
「ルーカス様は正式な後継では無いですし、マイヤー伯爵と血も繋がっておりません。そんな未来の無い方に私の身を預けるだなんて、セム様、あんまりですわ……!」
わっと顔を覆って泣き出してしまったソフィーに、俺はどうしていいかわからない。
えっ、なんで彼女は泣いているんだろう? 婚約者がいながら、浮気するぐらいルーカスのことが好きなんじゃないのか?
好きな人と一緒になれるのに、なんで彼女は被害者みたいに傷ついているんだ?
「セム、もう行こう。僕聞いてらんない」
アデルが俺の腕を引っ張り、外に出ようとする。が、教室の扉が外から乱暴に開かれた。
「「!?」」
「……アデル様、私考えたのです」
扉から入ってきたのは屈強な体つきをした男二人。でも俺は彼らを見たことがある。
「……アデル、多分この二人、フィッセル家に仕えている護衛の人だ。前に魔法球技の試合でソフィーと一緒に来てたから、間違い無いと思う」
「なるほどね……そう簡単には帰れないってことか……」
アデルが魔法を使おうとしていた腕を下げる。後ろから、ソフィーの震える声が聞こえてきた。
「このままでは私、将来に不安を抱えたまま卒業することになりますわ……そんなの、耐えられない。だから、多少手荒な手段をとることにしたのです……バルト、あれを出して」
ソフィーの指示で、右側にいた男が手に持っていたものを前に掲げる。
「……! これ、俺の巾着!!」
「ええ、そうですわ。そしてこの中には、魔法薬草のノートが入っているはず……セム様もアデル様も、このノートが無くなったら、大変困るでしょう?」
「ソフィー……なんでこんなことを……」
俺は振り返って、ソフィーを見つめる。けれどソフィーの顔には表情が一つもなかった。
「なんでこんなことを? それをセム様がおっしゃるのですか? セム様が私を捨てなければ、私だってこんなことしませんでしたわ!」
「…………」
俺はこのとき、やっと気づいた。彼女はいつだって、悲劇のヒロインだってことを。
——私は悪くない、あの人のせい。自分は仕方なくやった。
いつも彼女のそばにいると、自分が悪者になった気分だった。彼女を縛り付けている自分が悪くて、魔力のない無能な俺が最低で……
でも違ったんだ。俺が悪者なんじゃなくて、彼女が俺を悪者に仕立ててたんだ。
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