51 / 64
51
しおりを挟む
「「!?」」
俺は目を擦って涙を拭う。これまで言ってこなかったけど、アデルと一緒に国を出るなら、はっきりと自分の意思を言っておきたかった。
それにアデルを前に中途半端な態度は嫌だ。ちゃんと誠意を見せて、俺も覚悟があることを伝えたい。
「二人がキスをしてるのも見たし、恋仲なんだろうなって気づいてた。今までは二人の醜聞が広まってほしくないから、黙ってたけど……でも、俺は家から出て、アデルと一緒になりたい。だから、ソフィーとの婚約も破棄する」
「そ、そんな……セ、セム様……」
ソフィーは『婚約破棄』と言う言葉に、衝撃を受けたようだった。口元に手を当て、声を震わせている。
一方ルーカスはふっ、と鼻で笑った。
「……そいういことなら何も言うまい……ソフィーよかった。これで俺たち一緒に……」
「う、嘘ですわよね? セ、セム様……? 私と婚約破棄だなんて……そ、そこまでひどいこと、私にしないはずですわよね……?」
ソフィーはルーカスが伸ばした手を振り払い、一歩俺らの方に近づいてくる。
俺とルーカスは「「えっ」」と同時に声が出た。
「ソ、ソフィー……? どうし……」
「セム様、セム様は私のことを大事に思われているはずですわよね……? だから婚約破棄だなんて、そんな……」
「そんな、なんだよなぁー。君、やっぱり頭弱いよね。自分のこと、高く見積もりすぎ」
アデルがそう言って俺の腕を引き、肩を寄せる。
「セムは君じゃなくて、僕のところに来る覚悟を決めたんだ。今更後悔したって遅いよ」
「セ、セム様? 今のアデル様の話は嘘ですわよね? 本当は私のことを大事に思っていらっしゃいますよね?」
ソフィーがすがるような目でこちらを見る。どうしてソフィーが俺に執着するのかわからないけれど、嘘ではないことははっきりしていた。
「ソフィー……嘘じゃないよ。俺は、アデルのことを愛してるよ。ずっと、一緒にいたいって思う」
俺はソフィーを見たあと、アデルを見て言った。顔が熱かったけれど、ちゃんとアデルの顔を見て言いたかった。
「そ、そんな……」
「だからソフィーもルーカスと幸せになって。俺も、俺の幸せを掴むよ」
まだ何か言いたげなソフィーに向かって明るく言う。すると彼女がまた一歩近づいてきた。
「で、でも! セム様は魔力欠乏症で、アデル様と釣り合うとは思えません! きっと、アデル様も遊びでセム様と付き合われてるんです! だから私と婚約破棄をなされたら、セム様の行く当てが……」
ソフィーがすべてを言い切る前に、顎をぐっと持ち上げられた。びっくりしている間に、アデルの唇が重なる。
「んっ!?」
突然の出来事に目を白黒させていると、ぬるっとアデルの舌が口の中に入ってきた。俺は唇を閉じる間もなく、アデルの熱い舌を受け入れる。
「……んぅ、ふっ」
ちょ、ちょっと、アデル!! 人が! 人がいるから!!
と叫びたくても、口を塞がれ鼻にかかった声しか出せない。わずかにアデルの胸板を押してみたけれど、うんともすんとも言わず、ただただアデルの愛を受け入れるしかなかった。
ルーカスとソフィーが息を呑む気配がする。二人に見られて恥ずかしいのに、誰にも触れられたことのない部分を舌で撫でられ、背筋のぞわぞわが止まらない。
うわ、やばい、酸欠で意識がぼーっとする。
手足から力が抜けそうになっても、アデルはキスをやめない。唇を食べるようなキスを繰り返し、ちゅっという音がわざとらしく響く。
もう、立っていられない。かくっと倒れそうになると、唇を離したアデルが抱き止めてくれた。
「はぁ、はぁ……」
「セム、ごめん。あとでちゃんと謝るから」
アデルは耳元でそう囁いて、俺の赤くなっているであろう顔を隠すように、ぎゅっと自身の胸板に押し付ける。
「……これでわかったかな? 僕は遊びでセムとは付き合ってないし、セムも僕のことを愛してくれてる。もう君らの出る幕じゃないんだよ」
冷ややかなアデルの声に、よくないとは思いつつ、嬉しくなってしまう。
俺のために怒ってくれてる。自分を愛してくれてる。
そんなの、嬉しくならないほうが難しい。
「……僕とセムは卒業式の日に、そのままここを出る予定だ。あと、1ヶ月ぐらいかな……? それまではお互い仲良くやろうよ。ここまできて卒業証書をもらえないのは、君も嫌だろう?」
まったく仲良くするつもりのないのが、声音だけでわかる。けれどルーカスは「あ、ああ……もちろん。そうだよな、ソフィー?」と問いかけた。
「……ええ。そうですわ」
ソフィーの硬い声に、やっぱり変だなと思う。ルーカスを愛しているんだから、俺が婚約破棄をしたら喜ぶべきなのに。
でも今はそんなことを考えていられる余裕がなかった。熱った頬と、アデルの甘い匂いに頭がくらくらする。
「じゃ、そういうことだから。もう午後の授業始まるし、僕らは行くね」
アデルが体を離し、俺の腕を引っ張って中庭を出る。
結局俺は最後まで、アデルとルーカスの顔を見れなかった。
俺は目を擦って涙を拭う。これまで言ってこなかったけど、アデルと一緒に国を出るなら、はっきりと自分の意思を言っておきたかった。
それにアデルを前に中途半端な態度は嫌だ。ちゃんと誠意を見せて、俺も覚悟があることを伝えたい。
「二人がキスをしてるのも見たし、恋仲なんだろうなって気づいてた。今までは二人の醜聞が広まってほしくないから、黙ってたけど……でも、俺は家から出て、アデルと一緒になりたい。だから、ソフィーとの婚約も破棄する」
「そ、そんな……セ、セム様……」
ソフィーは『婚約破棄』と言う言葉に、衝撃を受けたようだった。口元に手を当て、声を震わせている。
一方ルーカスはふっ、と鼻で笑った。
「……そいういことなら何も言うまい……ソフィーよかった。これで俺たち一緒に……」
「う、嘘ですわよね? セ、セム様……? 私と婚約破棄だなんて……そ、そこまでひどいこと、私にしないはずですわよね……?」
ソフィーはルーカスが伸ばした手を振り払い、一歩俺らの方に近づいてくる。
俺とルーカスは「「えっ」」と同時に声が出た。
「ソ、ソフィー……? どうし……」
「セム様、セム様は私のことを大事に思われているはずですわよね……? だから婚約破棄だなんて、そんな……」
「そんな、なんだよなぁー。君、やっぱり頭弱いよね。自分のこと、高く見積もりすぎ」
アデルがそう言って俺の腕を引き、肩を寄せる。
「セムは君じゃなくて、僕のところに来る覚悟を決めたんだ。今更後悔したって遅いよ」
「セ、セム様? 今のアデル様の話は嘘ですわよね? 本当は私のことを大事に思っていらっしゃいますよね?」
ソフィーがすがるような目でこちらを見る。どうしてソフィーが俺に執着するのかわからないけれど、嘘ではないことははっきりしていた。
「ソフィー……嘘じゃないよ。俺は、アデルのことを愛してるよ。ずっと、一緒にいたいって思う」
俺はソフィーを見たあと、アデルを見て言った。顔が熱かったけれど、ちゃんとアデルの顔を見て言いたかった。
「そ、そんな……」
「だからソフィーもルーカスと幸せになって。俺も、俺の幸せを掴むよ」
まだ何か言いたげなソフィーに向かって明るく言う。すると彼女がまた一歩近づいてきた。
「で、でも! セム様は魔力欠乏症で、アデル様と釣り合うとは思えません! きっと、アデル様も遊びでセム様と付き合われてるんです! だから私と婚約破棄をなされたら、セム様の行く当てが……」
ソフィーがすべてを言い切る前に、顎をぐっと持ち上げられた。びっくりしている間に、アデルの唇が重なる。
「んっ!?」
突然の出来事に目を白黒させていると、ぬるっとアデルの舌が口の中に入ってきた。俺は唇を閉じる間もなく、アデルの熱い舌を受け入れる。
「……んぅ、ふっ」
ちょ、ちょっと、アデル!! 人が! 人がいるから!!
と叫びたくても、口を塞がれ鼻にかかった声しか出せない。わずかにアデルの胸板を押してみたけれど、うんともすんとも言わず、ただただアデルの愛を受け入れるしかなかった。
ルーカスとソフィーが息を呑む気配がする。二人に見られて恥ずかしいのに、誰にも触れられたことのない部分を舌で撫でられ、背筋のぞわぞわが止まらない。
うわ、やばい、酸欠で意識がぼーっとする。
手足から力が抜けそうになっても、アデルはキスをやめない。唇を食べるようなキスを繰り返し、ちゅっという音がわざとらしく響く。
もう、立っていられない。かくっと倒れそうになると、唇を離したアデルが抱き止めてくれた。
「はぁ、はぁ……」
「セム、ごめん。あとでちゃんと謝るから」
アデルは耳元でそう囁いて、俺の赤くなっているであろう顔を隠すように、ぎゅっと自身の胸板に押し付ける。
「……これでわかったかな? 僕は遊びでセムとは付き合ってないし、セムも僕のことを愛してくれてる。もう君らの出る幕じゃないんだよ」
冷ややかなアデルの声に、よくないとは思いつつ、嬉しくなってしまう。
俺のために怒ってくれてる。自分を愛してくれてる。
そんなの、嬉しくならないほうが難しい。
「……僕とセムは卒業式の日に、そのままここを出る予定だ。あと、1ヶ月ぐらいかな……? それまではお互い仲良くやろうよ。ここまできて卒業証書をもらえないのは、君も嫌だろう?」
まったく仲良くするつもりのないのが、声音だけでわかる。けれどルーカスは「あ、ああ……もちろん。そうだよな、ソフィー?」と問いかけた。
「……ええ。そうですわ」
ソフィーの硬い声に、やっぱり変だなと思う。ルーカスを愛しているんだから、俺が婚約破棄をしたら喜ぶべきなのに。
でも今はそんなことを考えていられる余裕がなかった。熱った頬と、アデルの甘い匂いに頭がくらくらする。
「じゃ、そういうことだから。もう午後の授業始まるし、僕らは行くね」
アデルが体を離し、俺の腕を引っ張って中庭を出る。
結局俺は最後まで、アデルとルーカスの顔を見れなかった。
52
お気に入りに追加
2,005
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる