婚約者が義弟と不貞を働いていたので、俺も隣国の皇子と浮気します

栄円ろく

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 「「!?」」

 俺は目を擦って涙を拭う。これまで言ってこなかったけど、アデルと一緒に国を出るなら、はっきりと自分の意思を言っておきたかった。

 それにアデルを前に中途半端な態度は嫌だ。ちゃんと誠意を見せて、俺も覚悟があることを伝えたい。

 「二人がキスをしてるのも見たし、恋仲なんだろうなって気づいてた。今までは二人の醜聞が広まってほしくないから、黙ってたけど……でも、俺は家から出て、アデルと一緒になりたい。だから、ソフィーとの婚約も破棄する」

 「そ、そんな……セ、セム様……」

 ソフィーは『婚約破棄』と言う言葉に、衝撃を受けたようだった。口元に手を当て、声を震わせている。

 一方ルーカスはふっ、と鼻で笑った。

 「……そいういことなら何も言うまい……ソフィーよかった。これで俺たち一緒に……」

 「う、嘘ですわよね? セ、セム様……? 私と婚約破棄だなんて……そ、そこまでひどいこと、私にしないはずですわよね……?」


 ソフィーはルーカスが伸ばした手を振り払い、一歩俺らの方に近づいてくる。

 俺とルーカスは「「えっ」」と同時に声が出た。

 「ソ、ソフィー……? どうし……」

 「セム様、セム様は私のことを大事に思われているはずですわよね……? だから婚約破棄だなんて、そんな……」

 「そんな、なんだよなぁー。君、やっぱり頭弱いよね。自分のこと、高く見積もりすぎ」

 アデルがそう言って俺の腕を引き、肩を寄せる。

 「セムは君じゃなくて、僕のところに来る覚悟を決めたんだ。今更後悔したって遅いよ」

 「セ、セム様? 今のアデル様の話は嘘ですわよね? 本当は私のことを大事に思っていらっしゃいますよね?」

 ソフィーがすがるような目でこちらを見る。どうしてソフィーが俺に執着するのかわからないけれど、嘘ではないことははっきりしていた。

  「ソフィー……嘘じゃないよ。俺は、アデルのことを愛してるよ。ずっと、一緒にいたいって思う」

 俺はソフィーを見たあと、アデルを見て言った。顔が熱かったけれど、ちゃんとアデルの顔を見て言いたかった。

 「そ、そんな……」

 「だからソフィーもルーカスと幸せになって。俺も、俺の幸せを掴むよ」

 まだ何か言いたげなソフィーに向かって明るく言う。すると彼女がまた一歩近づいてきた。
 
 「で、でも! セム様は魔力欠乏症で、アデル様と釣り合うとは思えません! きっと、アデル様も遊びでセム様と付き合われてるんです! だから私と婚約破棄をなされたら、セム様の行く当てが……」

 ソフィーがすべてを言い切る前に、顎をぐっと持ち上げられた。びっくりしている間に、アデルの唇が重なる。

 「んっ!?」

 突然の出来事に目を白黒させていると、ぬるっとアデルの舌が口の中に入ってきた。俺は唇を閉じる間もなく、アデルの熱い舌を受け入れる。

 「……んぅ、ふっ」

 ちょ、ちょっと、アデル!! 人が! 人がいるから!!

 と叫びたくても、口を塞がれ鼻にかかった声しか出せない。わずかにアデルの胸板を押してみたけれど、うんともすんとも言わず、ただただアデルの愛を受け入れるしかなかった。

 ルーカスとソフィーが息を呑む気配がする。二人に見られて恥ずかしいのに、誰にも触れられたことのない部分を舌で撫でられ、背筋のぞわぞわが止まらない。

 うわ、やばい、酸欠で意識がぼーっとする。

 手足から力が抜けそうになっても、アデルはキスをやめない。唇を食べるようなキスを繰り返し、ちゅっという音がわざとらしく響く。

 もう、立っていられない。かくっと倒れそうになると、唇を離したアデルが抱き止めてくれた。

 「はぁ、はぁ……」

 「セム、ごめん。あとでちゃんと謝るから」

 アデルは耳元でそう囁いて、俺の赤くなっているであろう顔を隠すように、ぎゅっと自身の胸板に押し付ける。

 「……これでわかったかな? 僕は遊びでセムとは付き合ってないし、セムも僕のことを愛してくれてる。もう君らの出る幕じゃないんだよ」

 冷ややかなアデルの声に、よくないとは思いつつ、嬉しくなってしまう。

 俺のために怒ってくれてる。自分を愛してくれてる。

 そんなの、嬉しくならないほうが難しい。

 「……僕とセムは卒業式の日に、そのままここを出る予定だ。あと、1ヶ月ぐらいかな……? それまではお互い仲良くやろうよ。ここまできて卒業証書をもらえないのは、君も嫌だろう?」

 まったく仲良くするつもりのないのが、声音だけでわかる。けれどルーカスは「あ、ああ……もちろん。そうだよな、ソフィー?」と問いかけた。

 「……ええ。そうですわ」

 ソフィーの硬い声に、やっぱり変だなと思う。ルーカスを愛しているんだから、俺が婚約破棄をしたら喜ぶべきなのに。

 でも今はそんなことを考えていられる余裕がなかった。熱った頬と、アデルの甘い匂いに頭がくらくらする。

 「じゃ、そういうことだから。もう午後の授業始まるし、僕らは行くね」

 アデルが体を離し、俺の腕を引っ張って中庭を出る。

 結局俺は最後まで、アデルとルーカスの顔を見れなかった。

                                      
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