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 「お前、そこで待ってろよ!」

 という声とともに、バンッと窓が閉まる音がする。

 俺は乱れた服を引っ張って、荒い息で呼吸した。

 「……ほんと、最悪。やっぱりあいつ嫌い」

 「あっ! ご、ごめん! その、本当に突き飛ばす気は……でも、ここ学校だし……!」

 「わかってる、わかってる。セムは悪くないよ」

 アデルが怪我をしてないか心配になったけれど、本人はいたって元気そうだ。

 起き上がってお尻の芝を払っている。俺も立ち上がって、呼吸を落ち着けた。

 「おい、セム! お前ソフィーという婚約者がいながら、どういう……っ! ア、アデル様もいらっしゃったんですか……」

 校舎からはアデルの姿が見えなかったらしい。ルーカスがはちゃめちゃに不機嫌そうなアデルを見て動揺している。

 そしてルーカスの後ろにはソフィーがいた。ソフィーはどこかつまんなそうに、あらぬ方向を見ている。

 「うん、いたけど……お二人はどうしたの? 何か用事?」

 アデルの声には不機嫌さがたっぷりと含まれている。俺はルーカスがなんて言うのか、ドキドキしながら待っていた。

 ルーカスはアデルを前に言うのを少しためらったようだ。けれどソフィーが後ろですんっと鼻をすすると、意を決したように口を開いた。

 「……アデル様もすでにご存知でしょう。セムとあなたが浮気をしているって噂を……セム、お前ソフィーがどれだけ傷ついているかわかっているのか?」

 謝れ、とルーカスは言ってきた。俺はぐっと唇を硬く結んで黙る。するとルーカスは再度、「謝れ」と強い口調で言ってきた。

 「そもそもアデル様もどうしてこんな茶番に付き合っているんですか? もっとはっきり違うと言ってくだされば……」

 「違くないよ」

 「えっ」

 「僕はセムを愛してる」

 ルーカスに向けて、アデルははっきり言う。

 「どこかの誰かと違って、僕は覚悟があるんだ。だから何度でも言うよ。僕はセムのことを愛してる」

 アデルが俺の手を握る。瞬間じわっと目の奥が熱くなって、視界が潤んだ。

 ……本当、アデルは裏切らない。今まで出会ってきた人と違って。俺が助けて欲しいときに、そっと手を差し伸べてくれる。

 やっぱり、好きだ。俺もアデルの手を、離したくない。

 「……ルーカス、そう言うことなんだ。だから、俺はソフィーとの婚約を破棄するよ。俺がいなくなったほうが、二人にも都合がいいだろうし」

 「都合がいいって、どういう……」

 ルーカスとソフィーが動揺したように目を見開いている。

 「気づいてないと思ってた? 二人が浮気しているの、俺は知ってたよ」

                                      
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