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 「えっ、それってどいういう……」

 「このまま浮気の噂を広めて、本当にソフィーと婚約破棄をしちゃうんだ。そしたら僕は、この森を復活させる名目で、君と一緒にライヒ帝国に戻る。セムはそこで魔法薬草の研究を進めればいいし、僕は復興の担当について前線には送られない……幸いにも復興支援で国からお金も出るし、セムさえよければ……」

 「で、でも、そんなこと、できるわけ……」

 「不可能ではないよ。かなり現実的だと思う」

 「…………」

 俺は急な提案に呆然としてしまう。けれどアデルの言ったことを考えれば考えるほど、すごく魅力的な案に思えて仕方ない。

 でも、一つだけ気になることがあった。

 「……アデル、どうしてそこまでしてくれるの……?」

 そりゃアデルのせいで浮気が広まって、俺が村八分にされるのだから、少しは助けて欲しいとは思った。でもそれは新しい案が欲しいとか、いい就職先を教えてくれるとかで……

 そんな、一緒に国に戻るなんて壮大なこと、考えてもいなかった。

 「……僕、この前気づいたんだ」

 アデルが一歩、近づいてくる。
 俺はどうしていいかわからず、足が動かない。

 「最初は婚約者の不貞を認める君が面白いと思って近づいたんだ。でも、僕が授業で手伝う度に嬉しそうにする君を見てさ……だんだん、セムには笑顔でいてほしいって、傷ついて欲しくないって思って。とうとう、苦手な公衆の舞踏会まで行けるようになった。だから、ライヒ帝国でも……僕の嫌いな場所でも、君のためなら一緒なら生きていけると思ったんだ」

 「ア、アデル、そ、それは……」

 下がれば距離は空くはずなのに。甘い香りが俺の動きを絡めとる。

 「セム、僕は君のことが好きだよ」

 ひっと小さな悲鳴が口から漏れた。一気に心臓が弾け、息が止まる。

 「君には実家に残って苦しい思いはさせたくない。もしこのまま浮気を続けるなら、僕に責任を取らせて欲しい。君が僕の病気に寄り添ってくれたように」

 「ア、アデル……」

 気づいたときには抱きしめられていた。頭を抱えられ、全てを包み込まれる。

 突然の出来事に、言葉が出ない。ただ一つ言えるのは、アデルが自分のために一生懸命になってくれていること。それほどまでに、俺を愛してくれていること。

 ……なのに、俺はこの手を取っていいのかわからない。

 でも伝えたいことははっきりしていた。

 「ありがとう、アデル……俺のこと、そこまで考えてくれて」

 抱きしめ返すことに、迷いはなかった。アデルを助けたい気持ちも、抱きしめられてふわふわする感情も、今すぐに好きと返せるほどはっきりしたものじゃなかったけれど、嬉しさで自然と涙が溢れた。

                                      
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