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 黙りこくってしまった俺を見かねて、アデルが先に口を開く。

 「前に……試験終わりに、セムが魔法薬草をくれたときがあったでしょ? あの時が初めてだったんだ。自然と自分の病気が治ったのが」

 「えっ」

 「今まで魔力を外に出す方法しか治療法が見つからなくて、突然魔力が増幅したときとかすごく苦労したから……この魔法薬草をを早く知ってたら、僕はこんなに苦しまなくてよかったのにって、あのとき思ったんだ。だから強くあたっちゃった。本当にごめん」

 「いや、それは大丈夫だよ……」

 そうか。だから俺の授業を手伝うのも嫌な顔一つしなかったんだ。
 常に魔力を外に出さないと自然発火してしまう可能性があったから。

 「ありがとう……でもさ、あの魔法薬草効かなかったんだよね。セムに会っていない間何度か試してみたんだけど」

 「えっ、そうだったの?」

 「うん、僕の使い方が悪かったのかもしれないけど」

 でも今回もあの葉っぱをのっけていたら、アデルは目を覚ました。きっと無関係ではないはず……

 「そっか……わかった。じゃあ俺、もっと調べてみるよ。アデルの病気が少しでもよくなるように」

 幸いにも魔法薬草の研究は好きだし得意だ。病気の改善に向かうならなおのこと、今すぐにでも色々試してみたい。

 「……ありがとう。でも……」

 「? でも?」

 アデルは俺の手を見て、次に顔を見た。
 そして苦しそうに眉根を寄せたあと、ふっと目線をそらした。

 ……ん? 本当にどうしたんだろう?

 「どうしたの、アデル?」

 「いや……」

 アデルは口元に手をやり俯いた。けれどぽつぽつと、言葉を紡ぐ。

 「……僕、試験終わりにひどいこと言ったじゃん。そのときのセムの顔を見て……この冬休みの間考えてたんだよね。なんで聖夜会に行ったんだろうって。なんで、君を助けたんだろうって」

 長く息を吐いて、アデルは目をつぶった。

 どこか苦しいのだろうか? 俺は心配になって、アデルの肩に手を置いた。

 「大丈夫、アデル?」

 「……今までなんとなくだったけどさ……僕、気づいちゃったんだよね。ああ、僕は君の傷ついた顔を見たくないんだなって」

 「……え? うん……?」

 肩に置いた手を取られ、両手で握りしめられる。

 いつになく甘いアデルの声音に、心臓がいやに早く動く。

 「だから……助けてくれるのは嬉しいけど、無理はしないで……」

 あっ、と思ったときには、アデルが手の甲にキスをしていた。

 信じられないほど、優しく。目を見張るほど、美しい唇で。

 俺の手の甲に接吻を落とした。

 「あ、あ、アデ、アデルっ!?」 

 「……ねぇ、もう一度抱きしめてもいい?」

 「えっ!?」

 聞いてきたくせに、俺が答える前にアデルは腕を引く。

 「……本当に君が助けに来てくれて嬉しかったよ……キスしたいぐらいに」

 「ええっ!?」

 「……嘘、冗談」

 ふふっと笑いながらも、アデルは離してくれない。

 俺は両手を彷徨わせる。

 ……俺からも、抱きしめていいのだろうか?

 迷ったけれど、アデルからの抱擁に答えたくて、そっと背中に手を添えた。

                                      
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