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「!?」
今、椅子が燃えた?
「……アデル。お前、まだ魔力を制御できていないのか」
ディルク様が軽蔑に満ちた目でアデルを睨む。
どういうことだ? 制御? なんのこと?
ただアデルは立っているのも辛そうなのに、どこにも掴まらない。ちりっと彼の手から火花が散り、ディルク様が顔を顰めた。
やばい。何が起きてるかわからないけど、とりあえずやばい!
ディルク様が腕をアデルに向ける。どんな魔法を放つか知らないけれど、いい魔法じゃないのは確実だ!
「……っ!! まっ、待ってください!」
俺はアデルとディルク様の間に割って入る。けれどディルク様は腕を降ろさない。それどころか、余計に険しい顔つきになった。
「……セム殿、そいつは今、爆弾と変わらない。離れた方が身のためだぞ」
「……!? あっ、でも、その……」
「安心しろ。私がそいつを眠らせて、母国へ連れて帰る。魔力も制御もできない状態じゃ、学園にもいられないからな」
「えっ!?」
じゃ、じゃあ、このままだとアデルは国に帰って戻って来れないってこと?
でも、アデルは国にいるのが嫌で留学しに来たわけで……
「あー、えっと、その……」
や、やばい! 何か……何かいい言い訳を考えないと、アデルがこのまま国に帰ることになっちゃう!
「あっ! そうです! アデル様が体調が悪いのは、この花のせいなんです!」
俺はばっとブーケを指差し、必死に頭を働かせる。
「このブーケ、とある魔法薬草が入っていて、それがたまに副反応を起こすことがあって……! だからアデル様は爆弾とか、そういうディルク様が思ってるような症状じゃないです!!」
ああ、もう! 筋も理論も通ってないけど、今はここからアデルを逃さないと!
「そうだ! 俺魔法薬草の解毒剤を持ってきてるんです! さ、アデル様、医務室に行きましょう! そこじゃないと処方できないんで!」
くるっと振り返り、アデルの手を触らないように肩へ手を回す。
アデルは式典用の分厚い服を着ているにもかかわらず、触るとびっくりするぐらい熱かった。
「……セム、僕はいいから……離れて……」
「アデル、大丈夫だから。俺が、助けるから」
短い呼吸を繰り返すアデルが、息を呑む。
「きっと、前と同じ症状でしょ? 俺、魔法薬草持ってきてるから。医務室まで行こう」
アデルは今、助けを必要としている。俺が聖夜会で一人立ち尽くしていたときのように。一人でギリギリで踏ん張っているけど、でも本当は、誰かの支えを欲している。
そのとき、バチっ、とアデルの手で火花が散った。と同時にディルク様のまとう空気がすっと冷たくなって、俺は反射的にアデルの手を握った。
「いっ!」
「セム……! は、離して……!」
「やだ。アデルは黙っててっ」
まるで焼いた石を握っているみたいだった。全身に鳥肌が立って、本能が離せと叫ぶ。
でもアデルはあのとき俺を救ってくれた。嫌だったのに。来たくなかったのに。
なら俺も、アデルを救いたい。どんなに痛くても、アデルを裏切りたくない。
「すみません、アデル様を医務室に運びますね!」
「セム様、なら私も……」
ソフィーが心配そうにこっちへ来る。俺はアデルの両手を強く握りしめながら、
「いや、その……そう! アデル様には裸になってもらわないといけないから! ソフィーが来たらちょっとまずいかも!」
と適当な嘘をついた。
なぜかはわからないけれど、ソフィーが触れた瞬間からアデルの容態は悪化した。だとしたら一緒にいない方がいい。
「なら私が運ぶのをお手伝いしましょう」
護衛の一人が反対側からアデルを抱えてくれる。黒髪短髪の男性は俺と同じくらいの背丈なのに、アデルの体重をほとんど持っていった。
「……ヴィリ、あとで私に容態を知らせるように」
「はっ」
ディルク様にヴィリと呼ばれた青年は、短い返事だけをして歩き始める。
俺はもうほとんど手を握っているだけだったけど、一緒にそのまま外へ出た。
今、椅子が燃えた?
「……アデル。お前、まだ魔力を制御できていないのか」
ディルク様が軽蔑に満ちた目でアデルを睨む。
どういうことだ? 制御? なんのこと?
ただアデルは立っているのも辛そうなのに、どこにも掴まらない。ちりっと彼の手から火花が散り、ディルク様が顔を顰めた。
やばい。何が起きてるかわからないけど、とりあえずやばい!
ディルク様が腕をアデルに向ける。どんな魔法を放つか知らないけれど、いい魔法じゃないのは確実だ!
「……っ!! まっ、待ってください!」
俺はアデルとディルク様の間に割って入る。けれどディルク様は腕を降ろさない。それどころか、余計に険しい顔つきになった。
「……セム殿、そいつは今、爆弾と変わらない。離れた方が身のためだぞ」
「……!? あっ、でも、その……」
「安心しろ。私がそいつを眠らせて、母国へ連れて帰る。魔力も制御もできない状態じゃ、学園にもいられないからな」
「えっ!?」
じゃ、じゃあ、このままだとアデルは国に帰って戻って来れないってこと?
でも、アデルは国にいるのが嫌で留学しに来たわけで……
「あー、えっと、その……」
や、やばい! 何か……何かいい言い訳を考えないと、アデルがこのまま国に帰ることになっちゃう!
「あっ! そうです! アデル様が体調が悪いのは、この花のせいなんです!」
俺はばっとブーケを指差し、必死に頭を働かせる。
「このブーケ、とある魔法薬草が入っていて、それがたまに副反応を起こすことがあって……! だからアデル様は爆弾とか、そういうディルク様が思ってるような症状じゃないです!!」
ああ、もう! 筋も理論も通ってないけど、今はここからアデルを逃さないと!
「そうだ! 俺魔法薬草の解毒剤を持ってきてるんです! さ、アデル様、医務室に行きましょう! そこじゃないと処方できないんで!」
くるっと振り返り、アデルの手を触らないように肩へ手を回す。
アデルは式典用の分厚い服を着ているにもかかわらず、触るとびっくりするぐらい熱かった。
「……セム、僕はいいから……離れて……」
「アデル、大丈夫だから。俺が、助けるから」
短い呼吸を繰り返すアデルが、息を呑む。
「きっと、前と同じ症状でしょ? 俺、魔法薬草持ってきてるから。医務室まで行こう」
アデルは今、助けを必要としている。俺が聖夜会で一人立ち尽くしていたときのように。一人でギリギリで踏ん張っているけど、でも本当は、誰かの支えを欲している。
そのとき、バチっ、とアデルの手で火花が散った。と同時にディルク様のまとう空気がすっと冷たくなって、俺は反射的にアデルの手を握った。
「いっ!」
「セム……! は、離して……!」
「やだ。アデルは黙っててっ」
まるで焼いた石を握っているみたいだった。全身に鳥肌が立って、本能が離せと叫ぶ。
でもアデルはあのとき俺を救ってくれた。嫌だったのに。来たくなかったのに。
なら俺も、アデルを救いたい。どんなに痛くても、アデルを裏切りたくない。
「すみません、アデル様を医務室に運びますね!」
「セム様、なら私も……」
ソフィーが心配そうにこっちへ来る。俺はアデルの両手を強く握りしめながら、
「いや、その……そう! アデル様には裸になってもらわないといけないから! ソフィーが来たらちょっとまずいかも!」
と適当な嘘をついた。
なぜかはわからないけれど、ソフィーが触れた瞬間からアデルの容態は悪化した。だとしたら一緒にいない方がいい。
「なら私が運ぶのをお手伝いしましょう」
護衛の一人が反対側からアデルを抱えてくれる。黒髪短髪の男性は俺と同じくらいの背丈なのに、アデルの体重をほとんど持っていった。
「……ヴィリ、あとで私に容態を知らせるように」
「はっ」
ディルク様にヴィリと呼ばれた青年は、短い返事だけをして歩き始める。
俺はもうほとんど手を握っているだけだったけど、一緒にそのまま外へ出た。
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