婚約者が義弟と不貞を働いていたので、俺も隣国の皇子と浮気します

栄円ろく

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 ……なんか、だんだん手が温かくなってきたな。

 冷えていた手がアデルの体温と混ざり、じんわりと熱を帯びてくる。ただ体まで熱くなってきて、ちょっとこれはおかしくないか? と思ったあたりで手が離れた。

 「……あれ? あ、アデル。起き上がって大丈夫なの?」

 「……はぁ?」

 べちゃっとアデルの膝の上に、俺がのっけた葉っぱが落ちる。
 俺は「こらこら、まだ寝てないと……」と言って葉っぱを拾おうとしたら、腕を掴まれた。

 「セム、今僕に何したの?」

 「へ? 今? 手を握って……」

 「その前は? 僕の頭に何かのっけたよね?」

 「う、うん、魔法薬草をのっけたけど……」

 アデルは俺から手を離し、落ちた葉っぱを摘む。さっきとは違ってはきはき話すアデルに、俺は「体調は大丈夫なの……?」と声をかけた。

 「あ、うん……多分、大丈夫……それよりさ、この葉っぱどういう効果があるの?」

 アデルは珍しく切羽詰まっているようだ。俺はとりあえず「きゅ、吸熱効果があって……」と簡単に説明した。

 「吸熱効果って何? それって魔力を吸うってこと?」

 「あ、いや、どうだろう……とりあえず熱を吸って冷たくする効果があるのは確実かな。でもその仕組みはまだ……ただ魔法を吸う可能性もあるかも」

 「そっか……これ、どうやって見つけたの?」

 「見つけたっていうか、たまたま乾燥させたらできたっていうか……」

 急に魔法薬草に興味を持ち始めたアデルに俺は戸惑う。一方アデルは、大きなため息を吐いた。

 「……まさか……いや、でも……」

 「ど、どうしたの? もしかして体が痒くなったりした?」

 たまに魔法薬草が合わなくてアレルギーみたいな症状を起こす人もいる。
 もしかしてアデルも……と思ったけれど、アデルは首を振った。

 「それは全然ない。あのさ、ずっと思ってたけど、セムの魔法薬草の知識は全部独学なの?」
 「えっ、あ、うーん、独学もあるけど学園で学んだ知識もあるかな……」

 俺は顔色がだいぶよくなったアデルにほっと安堵する。だがアデルの表情は固いままだった。

 「……にしてはあまり知られてないよね、セムのすごい発見。それは、どうしてなの?」

 どきっとするほど美しい目がこちらを見る。ただその目はどこか俺を責めるように冷たく光っていて、体がわずかに緊張した。

 「…………それは、魔法薬草学の先生が教科書以外の方法を嫌うから……」
 「でも世紀の発見ばかりだ。きっと発表したら……」
 「発表、できないんだよ。父との約束で……」
 「父?」

 アデルの眼光がより鋭くなって、俺はぎゅっと制服の裾を握る。

 「俺の魔法を使わない薬草学の知識は金になるからって。もし勝手に発表したら、学園を強制退学させるって。それに、魔法を使わない薬草加工方法は、学会では揉み消されることが多くて……」

 魔法薬草の加工に魔法を使わないということは、それで生計を立てている人の職を奪うことになる。だから学会では忌避されるし、発表まで漕ぎ着けるのが難しい。

 いくら伯爵位があるとはいえ、俺は無能の令息。争ってしまえば潰されるのはあっというまだ。

 「……だからって黙ってるの? セムの研究で救われる人がたくさんいるかもしれないのに?」
 「でも発表したら……」
 「じゃあこれから先ずっと、実家の言いなりだよ。いいの? 一生そうやって、黙って、誰かに奪われる人生で」
 「…………」

 いつになく刺々しいアデルの言い方に、びっくりする。
 ただ言われた俺よりも、言ったアデルのほうがよっぽど驚いたみたいだった。
 お互い目を見開き、短い沈黙が横たわる。

 先に口を開いたのは、俺より傷ついた顔をしたアデルだった。

 「……本当に、ごめん。セムの事情も考えずに、ひどいこと言った」
 「あ、いや……」
 「許さなくていいから。僕の身勝手な考えで傷つけてごめん。これ、ありがとう。もらっていくね」

 アデルは一切目を合わさずに、渡した魔法薬草を持って部屋を出ていく。ぽつんと一人残された俺は、呆然と立ち尽くすだけだった。

                                      
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