13 / 64
13
しおりを挟む
「ん? どうしたの?」
「いや……やっぱり浮気は、隠れてするのが楽しいんだなって」
アデルの視線の先に目をやると、中庭の大きな銀杏が葉を落としているところだった。その黄色く色づいた葉の隙間に、桃色と銀色がちらつく。
「あっ」
「気づいちゃった?」
この前の中庭とは違うけれど、たしかにここも人目につきにくい。
俺は『ああ、たしかにな。逢瀬をするにはぴったりだ』と、どこか他人事で納得していた。
「……まだ好きなの?」
「え?」
「彼女のこと。あんなひどいことしてるのに」
耳に届く声は、ひんやりと冷たい。俺はやっぱり、嘘に包まれた甘い声より、こっちのほうが好きだなと思った。
「……好き、というよりは、大事にしたいと思える人かな……」
「大事にしたい?」
「そう。困っていたら、助けてあげたくなるというか……」
「ふーん、なんで?」
「な、なんで??」
「なんで彼女をそこまで大事に思えるの?」
アデルはどこか責めるような口調で聞いてくる。意味がわからないけれど、答えないともっと空気が悪くなりそうなのは明白だった。
「それは、その……」
ソフィーの柔らかな笑みと、温かな眼差しを思い出す。誰にでも優しく、誰にでも手を差し伸べる。まさに聖女のような子だった。
「……彼女だけが、俺を心配してくれたんだ。魔力欠乏症と診断されて、その翌年に母が亡くなって……みんなが俺に冷たくする中、彼女だけが『セム様、大丈夫ですか?』って、声をかけてくれた」
前世の記憶もあったから、使用人や父に冷たくされても『ああーそりゃそうだよなぁー』ぐらいでそこまで傷つきはしなかった。
それよりも実家に捨てられないようにどうしようか考えて、とりあえず勉強に打ち込んでいたときだ。
まだ十一歳の彼女が、俺を心配して家まで来てくれた。
俺はそのとき、純粋に『すごいな』って感心した。だって十一歳の頃なんて自分のことしか考えられないし、他人を心配する頭なんてなかった。
きっと、この子は本当に心根が優しい子なんだ。
そう思うには十分な出来事で、また同時に、彼女が困ったら俺も助けてあげようと思った。
だから異性として好きと言うよりは、可愛い妹に近い感覚かもしれない。
「いや……やっぱり浮気は、隠れてするのが楽しいんだなって」
アデルの視線の先に目をやると、中庭の大きな銀杏が葉を落としているところだった。その黄色く色づいた葉の隙間に、桃色と銀色がちらつく。
「あっ」
「気づいちゃった?」
この前の中庭とは違うけれど、たしかにここも人目につきにくい。
俺は『ああ、たしかにな。逢瀬をするにはぴったりだ』と、どこか他人事で納得していた。
「……まだ好きなの?」
「え?」
「彼女のこと。あんなひどいことしてるのに」
耳に届く声は、ひんやりと冷たい。俺はやっぱり、嘘に包まれた甘い声より、こっちのほうが好きだなと思った。
「……好き、というよりは、大事にしたいと思える人かな……」
「大事にしたい?」
「そう。困っていたら、助けてあげたくなるというか……」
「ふーん、なんで?」
「な、なんで??」
「なんで彼女をそこまで大事に思えるの?」
アデルはどこか責めるような口調で聞いてくる。意味がわからないけれど、答えないともっと空気が悪くなりそうなのは明白だった。
「それは、その……」
ソフィーの柔らかな笑みと、温かな眼差しを思い出す。誰にでも優しく、誰にでも手を差し伸べる。まさに聖女のような子だった。
「……彼女だけが、俺を心配してくれたんだ。魔力欠乏症と診断されて、その翌年に母が亡くなって……みんなが俺に冷たくする中、彼女だけが『セム様、大丈夫ですか?』って、声をかけてくれた」
前世の記憶もあったから、使用人や父に冷たくされても『ああーそりゃそうだよなぁー』ぐらいでそこまで傷つきはしなかった。
それよりも実家に捨てられないようにどうしようか考えて、とりあえず勉強に打ち込んでいたときだ。
まだ十一歳の彼女が、俺を心配して家まで来てくれた。
俺はそのとき、純粋に『すごいな』って感心した。だって十一歳の頃なんて自分のことしか考えられないし、他人を心配する頭なんてなかった。
きっと、この子は本当に心根が優しい子なんだ。
そう思うには十分な出来事で、また同時に、彼女が困ったら俺も助けてあげようと思った。
だから異性として好きと言うよりは、可愛い妹に近い感覚かもしれない。
23
お気に入りに追加
2,006
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
αなのに、αの親友とできてしまった話。
おはぎ
BL
何となく気持ち悪さが続いた大学生の市ヶ谷 春。
嫌な予感を感じながらも、恐る恐る妊娠検査薬の表示を覗き込んだら、できてました。
魔が差して、1度寝ただけ、それだけだったはずの親友のα、葛城 海斗との間にできてしまっていたらしい。
だけれど、春はαだった。
オメガバースです。苦手な人は注意。
α×α
誤字脱字多いかと思われますが、すみません。
転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話
あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうきは、親に愛されたことがない子だった
親は妹のゆうかばかり愛してた。
理由はゆうかの病気にあった。
出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた
そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。
もう愛なんて知らない、愛されたくない
そう願って、目を覚ますと_
異世界で悪役令息に転生していた
1章完結
2章完結(サブタイかえました)
3章連載
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
爺ちゃん陛下の23番目の側室になった俺の話
Q.➽
BL
やんちゃが過ぎて爺ちゃん陛下の後宮に入る事になった、とある貴族の息子(Ω)の話。
爺ちゃんはあくまで爺ちゃんです。御安心下さい。
思いつきで息抜きにざっくり書いただけの話ですが、反応が良ければちゃんと構成を考えて書くかもしれません。
万が一その時はR18になると思われますので、よろしくお願いします。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
婚約破棄してくれてありがとう、王子様
霧乃ふー 短編
BL
「ジュエル・ノルデンソン!貴様とは婚約破棄させてもらう!!」
そう、僕の婚約者の第一王子のアンジェ様はパーティー最中に宣言した。
勝ち誇った顔の男爵令嬢を隣につれて。
僕は喜んでいることを隠しつつ婚約破棄を受け入れ平民になり、ギルドで受付係をしながら毎日を楽しく過ごしてた。
ある日、アンジェ様が僕の元に来て……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる