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 「……ねぇ、アデルはこれでいいの?」
 「これって、なに? それよりここ埃っぽいよ。換気しない?」

 対面にいるアデルがパンをちぎって口の中に放りこむ。俺はソファから立ち上がり、魔法薬草第二準備室の窓を開けた。

 魔法薬草第二準備室とは名ばかりで、実際は俺の個人研究室みたいになっている。先生に聞いたらあっさり鍵をくれたので、暇なときはここか寮の自室にこもっていた。

 「ありがとうセム。それでこれ・・ってどいういう意味?」
 「いや、その……」

 俺は窓枠に置いてある魔法薬草の鉢をつんつんしながら、なんて言おうか言いよどむ。

 そのとき、少し冷気をまとった風が、俺の前髪と魔法薬草を揺らした。

 「俺は、その、ここで食事をとってるけど……アデルは別にそうしなくてもいいじゃん」

 学園内をうろついても、無能な俺は嫌な目にしか合わない。だからこうして、学食で食事を受け取ったら魔法薬草第二準備室で食べている。

 でもアデルは違う。わざわざこんなところ地味な場所で食べる必要はないはずだ。

 「えー? そんな寂しいこと言う? 僕はただ単に、愛しい浮気相手と一緒にご飯が食べたいだけだよ?」

 「そうじゃなくて。アデルは俺との浮気の噂を広めるのが目的なんだよね? これじゃあ全然広まらないっていうか……」

 アデルの言っていた目的を果たすなら、ここよりみんながいる学食で一緒に食べたほうがいいはずだ。俺は助かるからいいけれど、アデルの趣旨からは外れている。

 「それに授業中も助けてもらってるし、今のところ俺にしか得がないような……」

 「ああ、そんなことを気にしてたの。別に授業の手助けは簡単なものだし、僕は魔力が消費できて助かるしね」

 たしかにアデルの魔力量は膨大だ。さっきの浮遊魔法だって普通は自分一人で精一杯だろうし、この前使った移動魔法だってかなり疲れるはず。

 なのにアデルはピンピンしている。しかも〝消費できて助かる〟なんて……そんな言葉遣い、今まで一度も聞いたこともない。

 「そうは言っても……」

 「あとね、浮気は隠れてするから楽しいんだよ。すぐにバレたらつまんないじゃん」

 ソファの軋む音がしたあと、アデルが隣にやってくる。

 「僕はまだあと一年弱ここにいるし、今はまだ大々的に晒す気はないよ」

 セムをからかうのも楽しいし、と付け加えられ、どういう顔をしていいかわからなくなる。

 とりあえず、一年弱は猶予があるということだろうか……?

 今すぐ公開処刑されないのは嬉しいけれど、終わりが見えているぶん素直に喜べない。

 でも今のうちに、実家を追い出されたときの準備ができるのはありがたいかも。

 うーん、今後はどうしようかな……と考えていると、アデルが「あっ」と声を漏らした。

                                      
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