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「ねぇ、またアデル様、あの無能令息にかまってるわよ」
「本当ね。授業もいつも手伝ってるし……あいつのどこがいいんだか」
「きっとアデル様は慈悲深い人なのよ。無能令息の様子を見て、可哀想に思われたんだわ」
……いいえ、違います。慈悲とは真反対の男です。
って言えたらいいのになぁ!!
「? どうしたの、セム。眉間にしわを寄せて。可愛い顔が台無しだよ?」
「そうやって誰彼構わず口説くのはやめた方がいいですよ。いつか刺されますから」
「大丈夫。僕そんなやわじゃないから~それに今のは口説いてるんじゃなくて、客観的事実だよ?」
へらへらした顔がうざすぎる。という目を向けると「セムはからかいがいがあるなぁ~」と笑って返された。
その後ろで先ほどの女子たちが、
「やっぱり慈悲深い人なんだわ」
「はぁ、なんて素晴らしい方なの」
「婚約者がいないって本当かしら……」
などと囁きあっている。
でもその囁きの中に、俺とアデルの浮気を仄めかすものは一つもない。
……本当、なんなんだろう、この皇子は。
俺は本人にバレないように、アデルを盗み見る。横から見るアデルは、鼻筋の綺麗さとまつ毛の長さが際立っていて、人工物のように美しい。そのせいで生身の人とは思えなくて、思考が読めなかった。
てっきり俺は、あの日の翌日から公然の前でベタベタしてきて、即社会的抹殺を食うと思っていたのに。
けれど実際に蓋を開けてみたら、アデルは〝仲のいい男友達〟程度の距離感で接してきた。触れるのも腕や頭ぐらい。他に人がいれば「アデル様」と敬語で話しても咎められない。
他にも浮気に繋がりそうな単語は小声で言うし、授業中も嫌な顔一つせず助けてくれる。
本当に、さっき彼女たちが言っていた『慈悲深い、いい人』みたいだ。少なくとも、みんながいる前では。
「セム、そんなに見つめてどうしたの? あ、もしかして僕の顔好き?」
「……よくそんなことさらっと言えますね」
「え、そう? 僕はセムの顔結構好きだよ」
やっぱりなに考えてるかわからないな……
でも思ったより、悪い人ではないのかもしれない。
そんなことを考えつつ、俺は箒を戻して、アデルとともに学食へ向かった。
「本当ね。授業もいつも手伝ってるし……あいつのどこがいいんだか」
「きっとアデル様は慈悲深い人なのよ。無能令息の様子を見て、可哀想に思われたんだわ」
……いいえ、違います。慈悲とは真反対の男です。
って言えたらいいのになぁ!!
「? どうしたの、セム。眉間にしわを寄せて。可愛い顔が台無しだよ?」
「そうやって誰彼構わず口説くのはやめた方がいいですよ。いつか刺されますから」
「大丈夫。僕そんなやわじゃないから~それに今のは口説いてるんじゃなくて、客観的事実だよ?」
へらへらした顔がうざすぎる。という目を向けると「セムはからかいがいがあるなぁ~」と笑って返された。
その後ろで先ほどの女子たちが、
「やっぱり慈悲深い人なんだわ」
「はぁ、なんて素晴らしい方なの」
「婚約者がいないって本当かしら……」
などと囁きあっている。
でもその囁きの中に、俺とアデルの浮気を仄めかすものは一つもない。
……本当、なんなんだろう、この皇子は。
俺は本人にバレないように、アデルを盗み見る。横から見るアデルは、鼻筋の綺麗さとまつ毛の長さが際立っていて、人工物のように美しい。そのせいで生身の人とは思えなくて、思考が読めなかった。
てっきり俺は、あの日の翌日から公然の前でベタベタしてきて、即社会的抹殺を食うと思っていたのに。
けれど実際に蓋を開けてみたら、アデルは〝仲のいい男友達〟程度の距離感で接してきた。触れるのも腕や頭ぐらい。他に人がいれば「アデル様」と敬語で話しても咎められない。
他にも浮気に繋がりそうな単語は小声で言うし、授業中も嫌な顔一つせず助けてくれる。
本当に、さっき彼女たちが言っていた『慈悲深い、いい人』みたいだ。少なくとも、みんながいる前では。
「セム、そんなに見つめてどうしたの? あ、もしかして僕の顔好き?」
「……よくそんなことさらっと言えますね」
「え、そう? 僕はセムの顔結構好きだよ」
やっぱりなに考えてるかわからないな……
でも思ったより、悪い人ではないのかもしれない。
そんなことを考えつつ、俺は箒を戻して、アデルとともに学食へ向かった。
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