婚約者が義弟と不貞を働いていたので、俺も隣国の皇子と浮気します

栄円ろく

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 「えっ、え?!」
 「いやぁよかった。僕ここぐらいしか知らないから」

 そう言ってアデルは手を離し、ソファにぼふっと座る。きらきらっと埃が舞って、やっと俺はアデルが移動魔法を使ったことに気づいた。

 「そ、そんな、移動魔法は魔力が相当いるのに……!」
 「それは置いておいて、僕に大事な話があるんでしょ? 先にそっちを解決させよう。じゃないと昼食にありつけない」
 「………っ」

 たしかにアデルの言う通り、移動魔法より大事な話がある。

 俺は一旦聞きたいことを頭で整理してから、口を開いた。

 「アデル様は……」
 「アデルでいいって。昨日みたいにタメ口で話してよ。じゃないと聞かない」
 「…………」

 整理したのに、出鼻から挫かれた。

 俺はもう色々諦めて、大人しく話し始める。

 「……アデルは、なにが目的なの?」
 「……君と浮気がしたい」
 「嘘だ」
 「根拠は?」
 「そっちに利益がなにもない」

 ライヒ帝国の皇子が俺と不倫したところで、メリットが一つもない。悪い噂が増えるだけだ。

 アデルが相当な物好きか変人か……もしくはとんでもない馬鹿かとも思ったけれど、移動魔法を使えるあたり、頭は悪くない。

 だからこそ、アデルの考えがわからなかった。

 「それがそうでもないんだよね……僕には君と浮気をすることで、利益があるんだよ」
 「そんなまさか……」
 「そのまさかなんだ。当ててみる? 当たったら、付きまとうのをやめるよ」

 ま、まじかっ!! それは嬉しすぎる!

 俺は必死に頭を働かせ、アデルの利益を考えた。

 アデルは第八皇子と言えど、皇族である以上スキャンダルなんてもってのほか。
 なのに浮気をしたいだなんて、損でしかないのに……

 そこでハッと、ある一つの可能性が浮かび上がった。

 「も、もしかして……!」
 「おっ、わかった?」

 アデルが長い足を組んで、前のめりになる。
 俺はその蜜のような瞳に向かって、決定的な答えを告げた。

 「俺の家……マイヤー家の醜聞を広めて立場を弱くさせたあと、魔法薬草農園を奪い取るとかっ!?」
 「ぶぶー、残念。全然違いまーす」
 「くっそ!!」

 そしてうっざ! 顔が良くなかったら殴ってるっ!

 「君のところの魔法薬草農園が本気で欲しかったら、こんな周りくどいことしないよ。武力行使ですぐに解決」
 
 えっ、こわっ。
 やっぱり見た目に対して、中身は全然甘くない。
 
 「じゃ、じゃあ……なんで俺と浮気したいの?」
 「それは……」

 もうこれ以上は考えても出ないので、仕方なく降参する。
 するとアデルは頭の後ろで腕を組んで、ソファに寄りかかった。

 「僕、結婚したくないんだよね」
 「…………はぁ?」

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